about POST MODERN ITEM
1980年代に隆盛を誇ったデザインムーブメントである「ポストモダン」。合理的で、機能的な有り様を目指した近代デザイン、いわゆるモダンデザインの“その後”の表現方法。過剰で挑戦的、かつ意欲的なデザインが多く見られる。
PROFILE
ファッションディレクター、スタイリスト。英国の雑誌『モノクル(MONOCLE)』では創刊よりファッションページの基礎を構築。2015年にはファッションディレクターに。2012年より2018年秋まで『ポパイ』のファッションディレクターを務めた。
「ユナイテッドアローズ」、「ランドスケーププロダクツ」を経て、2010年に 「スイムスーツ デパートメント(Swimsuit Department)」を設立。輸入代理店をはじめ、世界各国で買い付けたヴィンテージ雑貨などをトランクショー形式でのイベントも行っている
Swimsuit Department
長谷川:郷古さんのお店で見た、このカラフルなお皿が気になってるんです。
郷古:この辺は80年代から90年代に作られたものなんだよね。
長谷川:そうなんですね。どこで買ったものなんですか?
郷古:そもそも見てたのはアメリカのヴィンテージ屋。そういうところに行くと、こういう80年代のものがちょこちょこ混ざっていることがあって。初めは何も知らずに買ってたんだけど、2~3年前に裏にシールが残っているものがあって、それを調べてみたら日本製だっていうことがわかったの。
長谷川:へぇ、日本製なんですね。
郷古:そう。で、色々調べてたら、80年代にイタリアで興った「ポストモダン」っていうちょっと突飛で奇抜なデザインをよしとするムーブメントがあって、その影響を受けたものが日本でもけっこう流行ったみたいなんだよね。
長谷川:そーなんですね。(エットーレ)ソットサスみたいですね。
郷古:そうそう。ソットサスとかまさに。ちなみにこの辺のアイテムは、日本のメーカーが輸出用に作ったものみたい。
長谷川:イタリアものがなんで日本で流行ったんですかね。アルマーニが流行ったときと同じなのかな。
郷古:洋服でいったらそのへんだよね。ちょっと余計というか、過剰なデザインをしていた時代。装飾とか色とか、全部。
長谷川:昔、取材でスケシン(SKATE THING)さんにスケートの歴史を聞きにいったことがあったんですけど、スケートシーンも80年代になるとイタリア期があったらしく、急にがらっとポップな感じに変わるんですよね。だから世界的にそういう時代だったんでしょうね。ハリウッドでも、アルマーニが映画の衣装をやったりとか。
郷古:日本だとバブル期っていうのもあって、お金もあるしね。装飾が多いというか。人の気持ち的にもそういう余裕があったんだろうね。80年代後半とか90年代前半っていうのは、まさにそういう時代だよね。
長谷川:面白いですよね、イタリアからの流れが日本までたどり着いて、プロダクトに影響するって。このポットにしても全部の部位で色を変えてるから、作るの大変そうですね。
郷古:工程数も多いし、今はやらないかもしれないね。効率とかそういうのを優先して、シンプルなものが増えているのかもしれない。当時は本当にいい意味で余計なことをしていた時代だね。その上で、カラーリングに関しては完全にイタリアの「ポストモダン」だと思う。形はいたってシンプルなので。
長谷川:今出回ってるお皿って、こういうのないですよね。
郷古:そうだね。日本の民芸とかでも器とか今すごく売れてるけど、もっと茶色っぽい感じというとか。80年代の感じとは真逆だね。こういうところまで遊べないっていうか。買う方ももちろんだけど、作る方もそうだよね。
郷古:この辺はピーター・シャイアーのもの。
長谷川:へー、LAの。ピーター・シャイアーが属していたチームってなんでしたっけ?
郷古:「メンフィス」。80年代イタリアのポストモダンの代表的なデザインチームだね。「ポストモダン」っていう言葉も彼のために産み出された言葉で、ソットサスとかそういう80年代の巨匠が10人くらい集まって、ちょっと奇抜なデザインを作り続けたチーム。
長谷川:ピーターさんご自身は、まだ生きていらっしゃるのですか?
郷古:うん、生きてるよ。80歳過ぎだね。今でも作風を変えずにやってますよ。
長谷川:これかわいいですね。ジャクソン・ポロックみたいな感じもありますね。
郷古:たしかに。
長谷川:ところで、こういうテイストが気になり始めたきっかけはあるんですか?
郷古:それはもうピーター・シャイアーと会ってからだね。5年くらい前にこのマグを取り扱い始めたんだけど、そのときにピーターのスタジオに行ったの。
長谷川:へー、いいですね。
郷古:長谷川くんも今度ぜひ行ってみて。もうホントにポストモダンって感じ。ロサンゼルスオリンピックのときに使われていたコロシアムの敷地内の照明をデザインしたものもスタジオには残ってて。だからアメリカでもけっこうちゃんと評価されたデザイナーだね。
長谷川:こないだ撮影で LA に行ったんですが、スタッフの一人がピーター・シャイアーのアトリエにすごく行きたがってて。コーディネイターに聞いてもらったんだけど、その日はなんか閉まってたんですよね。
郷古:今度言ってくれれば、伝えておいてあげるよ!
長谷川:そうなんですね。昔、イームズハウスには一緒に行きましたよね。
郷古:行った行った。もう6年くらい前だよね。
長谷川:あそこもよかったですよね。
郷古:このとんがったポットは日本製。たしか〈象印〉じゃなかったかな??
長谷川:〈象印〉って紙のタグに書いてますね。
郷古:でしょ? 〈象印〉ってけっこうイタリアのデザイナーを入れていて。
長谷川:そうなんですね、意外。
郷古:そう、だからモロにイタリアの影響なの。アメリカのジョージ・ネルソンとかもその感じもあるけどね。
長谷川:ちなみに80年代ってのは、50年代の模倣なんですよね?
郷古:「ポストモダン」でいうと模倣しつつプラスアレンジをしているって感じかな。それでこういう奇抜なデザインが生まれているっていう。インテリアでいうと、去年くらいから80年代ブームが来てて。サローネとかを見ててもそうなんだけど、本当にそんな感じ。ファッションも90年代が流行ってるよね?
長谷川:そうですね。
郷古:50年代でいうと、十数年前にイームズが流行ったりしたけど、80年~90年代ってまだ一回も大きな波が来てないんだよね。最近といえば最近だし。トレンドは40年くらいの周期で回ってる気がするので、これからは80年代かなって。ローズボウルとか見てもそういう感じばっかりだし。個人的にもピーター・シャイアーのスタジオに行ってからは、完全にその波が来ていて。本人に会ってあの世界観を見たらやっぱり影響されるよね。ソックスとかボーダーなんだけど、左右で色が違ったりするの。
長谷川:へー。イギリスの、、なんだっけ、あの人。。。デビット・ホックニー! みたいですね。
郷古:つねにボーダーのTシャツを着てるし、80代なのにほら、こんな感じ(写真を見せて)。
長谷川:色がもうすごいですね。
郷古:これはまだ大人しい方だよ。ホントにつねにボーダーなの。
長谷川:けど、おじいちゃんの方がそういうの似合いますよね。
郷古:僕もすっかり影響を受けて、自分でも80年代っぽいアイテムを作り始めたりしました(笑)。
長谷川:面白いですよね。音楽からファッションが生まれるように、家具とかインテリアから何かが生まれるってこともあるだろうし。影響しあっているというか。山下達郎とか最近若者にすごい人気ですよね。そういうモードなんですかね、永井(博)さんの世界観というか。
郷古:若い子にとっては今まで見たことがないものだし、新鮮に映るんだろうね。
長谷川:夏にいいですよね、こういうの。80年代って海とかそういうのが似合うと思うんです。
郷古:そうだね。80年代は夜より日光がある時間の方が気持ち良いね。このお皿にも、目玉焼きとか載せてみたらすごく似合うだろうし。
長谷川:たしかに。あとはこういうフルーツサンドもいいと思うんですよね。
郷古:おぉ、美味しそう!
長谷川:フルーツサンドとすごく合いますね(笑)。すごく美味しそうに見えます。そんな気がして、作ってきてもらいました。ケータリングのTOMOのフルーツサンドが、今の時期はマンゴーに変わったんです。いちごの時期が過ぎたんで。。美味しそうですよね。。
郷古:食卓にこういうのがあると、気分が上がるよね。ピーター・シャイアーの自宅もこういう感じなの。とことんこのテイストっていうか。このマグがあるから、コーヒーを入れたくなるし、この食器があるから、ちゃんと朝ごはん作ろう、目玉焼き作ろうってなると思うんだよね。
長谷川:ところでこのカラフルなシリーズのお皿とかって、ブランド名ってあるんですか? 裏には書いてないんですが。
郷古:ブランド名は内緒で(笑)。名前がわかるとみんな探しちゃうし。この界隈にはけっこう猛者が多いので。
長谷川:じゃぁ内緒にしておきましょう(笑)。