AKIO HASEGAWA. HOUYHNHNM

2025.12.16 Up
Style of Authentic

ノルウェーの普通。

Case 157
ティーマイケルとノルウェージャンレイン。
ノルウェーのファッションシーンを語るうえで、キーとなる人物が、T-MICHAEL(ティーマイケル)さん。〈Norwegian Rain〉のデザイナーである彼はかなりの親日家で、日本へ幾度となく訪れてもいるから、知っている人も多いだろう。

文:小牟田亮

今回、我々がベルゲンというエリアを訪れた際、丸一日かけて街を案内してくれた。そのうちのひとつが「Hytte(ヒュッテ)※山小屋・別荘」だ。というと、さぞかし裕福なのかと思うかもしれないが、ノルウェーではヒュッテを持っている人は多く、代々受け継いでいくものなのだとか。週末やバカンスの過ごし方としては一般的なのだ。

ノルウェーといえばの、美しいフィヨルドをモーターボートで走ること20分。〈Norwegian Rain〉 のベルゲンショップのマネージャー、エリンさんの父母が購入したというヒュッテに到着。

現在は10人くらいで共同利用しているらしく、夏の間はよくここへ来て、海に飛び込んで泳いだり、釣りをしたりというのが、ベーシックな余暇の過ごし方らしい。

「ここのヒュッテは街からすごく近いし便利なんだよね。ノルウェーの人は、夏はみんなバカンスに行ってしまうから街が静かなんだけど、その感じが好きだから、夏の間はあえてノルウェーにいるんだ」とはティーマイケルさん。世界中を飛び回っているからこそ大切にしたい、自国での時間。

2〜3ヶ月に1回は日本に来るというティーマイケルさんに、自身のクリエイションについて振り返ってもらった。

「元々ここベルゲンでテーラリングを主体としたブランド、〈T-MICHAEL〉をやっていたんだけど、クリエイティブディレクターのアレックスとともに、今までにないレインウェア〈Norwegian Rain〉を始めたんだ。デザインは全部僕が担当しているよ。2009年の話だね。ベルゲンは山に囲まれた街で、3日に1度は雨が降る雨の町だからそもそもレインウェアのニーズは高いんだけど、それまではいわゆる一般的なレインコートしかなかったから、〈Norwegian Rain〉ではテーラリングの要素を掛け合わせた機能的でコンテンポラリー、新しいレインウェアを作っているよ。今日はこんなに晴れているけどね(笑)。」

30年以上ベルゲンに住んでいるというティーマイケルさんは、この街のスローな感じと、自身が抱える仕事の忙しなさとのバランスがちょうどいいと語る。1年のおよそ半分くらいは海外に滞在し、ショートステイを繰り返すという生活を長年続けている。なかでも日本には格別の想いがあるようだ。

「石川県の能登に、Creative Cultural Culinary Compound (創造的文化的クチナリー施設)である 『T-WABISATO』を作ったんだ。友人が連れて行ってくれた能登は、静かで一発で気に入った。地元の作家と一緒に活動するなかで輪島塗を学んだり、市長にも会ったよ。ヒュッテにいるときの気持ちを、能登にいるときも感じることができたんだ。ちょうどCOVID-19のときに物件を買って、ようやく落ち着いたと思ったら今度は地震が起きた。物事がなかなか前に進んでいかないんだけど、むしろその方が導かれてるような気がする。地震の前から買っていたことで、街の人たちも本気で能登のことを考えているんだな、と理解してくれているしね。サウナとか檜のお風呂を作ってくれそうな人もいるし、たくさんの人のサポートとともに、いろいろな人とコラボレートできる環境になってきているんだ。世界中からアーティストに来てもらいたいと思っているよ」

ベルゲンの中心部にあるショップには、ティーマイケルさんのクリエイションの全てが詰まっている。〈Norwegian Rain〉のレインウェアは従来のレインコートは他とは一線を画し、立体的なのが特徴。プロダクトには常にモダンで上品なムードが宿り、スーツの上に羽織っても、なんらその雰囲気を損なうことはない。ティーマイケルさんらしい服に仕上がっている。

生産過程のすべてのプロセスを見ることで、サステイナブルな仕組みに対して、積極的なアプローチを取るのがティーマイケルさんのやり方だ。石油で豊かになった国なのだから、石油をうまくリサイクルできるようなやり方を模索するべきだという言葉が印象に残っている。

「ブランドを始めるときからずっと、エコフレンドリーでリサイクルなマテリアルを探していたんだ。いろいろとリサーチした結果、日本製の生地を使っている。日本の素材開発力は本当にすごいね。雨と向き合うブランドなわけだから、ファブリックが素晴らしいことは大前提。レインウェアはポーランドにある、機能素材の取り扱いに長けた工場で作っているよ。『GORE-TEX』の認定工場でもあり、素晴らしい技術を持っているところなんだ」

現在は、ポップアップ形式で世界中のショップを回っていて、その場で得られるダイレクトなリアクションを、ものづくりにフィードバックしているそう。哲学、コンセプトありきなものづくりは世界中から受け入れられている。最後にこれからの話を聞いてみると、ワクワクするようなコメントを残してくれた。

「同じノルウェーのブランドなんだから、〈HELLY HANSEN〉となにかやれたらいいよね。歴史あるブランドだし面白いものが作れると思う」

INFORMATION

Norwegian Rain https://norwegianrain.com/

STAFF

Direction _Akio Hasegawa
Photograph_Seishi Shirakawa
Coordination_Rico Iriyama
Production & Text_Ryo Komuta

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