PROFILE
〈グラフペーパー(Graphpaper)〉、〈フレッシュサービス(FreshService)〉、「ヒビヤ セントラル マーケット」など、様々なブランド、ショップを手がけ、ファッション、カルチャーにまつわるあらゆる領域を手がけるクリエイティブディレクター。「alpha.co.ltd」代表。
ファッションディレクター、スタイリスト。英国の雑誌『モノクル(MONOCLE)』では創刊よりファッションページの基礎を構築。2015年にはファッションディレクターに。2012年より2018年秋まで『ポパイ』のファッションディレクターを務めた。
長谷川:では久しぶりの談話室ということで。よろしくおねがいします。
南:お願いします。いやぁ、談話室の再開、嬉しいね。アキオ氏にも全然会ってなかったもんね。
長谷川:たしかにね。コロナで全然会えないからね。もうすぐ夏だよ。ってことで今回はビーチよりお届け。「談話室の夏 2021」です。わたくしから始めさせていただきます。まずは味の入ってるデニムなんだけど、偶然にも南くんも〈リーバイス〉持ってきてるんだね。
LEVI’S AND SSZ
南:そうなのよ。シンクロしちゃったね、なんか。
長谷川:なんか最近ダラダラした服が多かったから、ちょっと気持ちを入れ替えたくなる気分になっててさ。春になったから衣替え的な感じもあって。あとは年度の始めだからか、ベーシックなものを着たくなってたときにたまたま古着の「501」を見かけて「いいな、これ」って思ってさ。それと先週分でも使用してるんだけど、加藤さんがすごくいい感じのデニムを作っててさ。色落ちと穴の空きかたが「501」っぽいんだけど、テーパード具合がすごく良かったんだ。
南:うんうん。
長谷川:あと「501」のこの色落ちの感じって、あんまり他にないなって思って。どうなのかな、そのへんって。
南:それに関してはわかったことがあるんだけど、コーンミルズのデニム生地っていうのが独特の色落ちをするんだよね。アメリカのコーンミルズ社は潰れちゃったんだけど、中国とメキシコのは残ってて。で、俺はどうしてもコーンミルズのデニムでアイテムを作りたくて、それで〈リーバイス〉を買いまくってたんだけど、やっぱり落ち方が違うんだよね。それがなんでなのかは、わかんないんだけど。
長谷川:高校生のときとかって渋カジだから、みんな履いてたよね、オールドの〈リーバイス〉というか。
南:そうだね。ビッグEとか赤耳とかね。
長谷川:そう。渋カジだね。俺も実はデニムをいっぱい持っていて、あるとき整理してたら〈リーバイス〉って生地感がすごくいいって気づいたんだよね。全然違う。厚みがあるっていうか。不思議なもので、他のブランドと並んだときに、パッと見ただけでも、生地の良さがわかるんだよね。
南:うん、わかる。ダメな感じのデニムって、なんか平坦なんだよね。
長谷川:糸の紡績とかに秘密があるのかもしれないよね。ああいうアメリカンコットンのさ。
南:織り方なのかね。あとは、向こうだと一回の巻きがとんでもない量だから、そういう大量に作ってるから違うっていうのもあるのかもね。機(はた)が違うというか、機械も違うだろうし。
長谷川:とにかく80年代後半から90年代初頭にかけて売ってた、このデニムの感じなんだよね。俺も新品でこういう色落ちのやつ持ってた。それはたしかアメリカ製だったなぁ。
南:この〈リーバイス〉はどこ製?
長谷川:メキシコ製かな。これは、神保町にある聖林公司の店「ブルーブルー 神田」に置いてあるユーズドの「501」デニム。最近、ここの店をちょっとだけ手伝っているんだ。フラッシャーみたいに見えるかもだけど、これは“KANDA BIIKI(神田贔屓)”っていう、ここの店のプロジェクト名のパッチが付いてるんだ。ベーシックなシャツとかベイカーパンツをセレクトして並べてて、それらに全部付けてる。
南:へー。これくらいまでいくと、コシが抜けてるっていうか、ちょっと薄くなってるじゃない。
長谷川:そうそうそう。それがいいんだよね。
南:最初は13ozくらいあるから暑いんだけど、コシの抜け方がすごくいいんだよね。
長谷川:わかるわかる。80年代前半の頃は、リジッドよりもこの色落ちの方がベーシックなものっていう印象があったよね。
南:そうだね。“普通”だよね。
長谷川:いまはこういうのも高くなってしまってるっていうのが、なんだか不思議だよね。
南:昔、お店の買い付けで、これくらいの年代のものを買って帰ったら、先輩にめっちゃ怒られたけどね(笑)。「なにレギュラー買ってきてんだよ!」みたいな。
長谷川:そうだよね。当時はこれにヴィンテージ価値はなかっただろうしね。ただ、基本のアイテムとしての美しさはあったよね。だからもうなくなっちゃったけど、「ヴォイス(VOICE)」とか今あったらすごくいいよね。白いボタンダウンシャツとかサーマルとか「501」とか整理されて並んでた。あれこそあの時代の普通を編集した店だったよね。さらに今だったらヴィンテージとしての価値も持たせることができる。
南:地方に行くと、まだそういうお店あるよ。
長谷川:えっ、そうなんだ。
南:あるある。そういうの見ると、最高に興奮するんだよね。それでも玉数がもうないって言ってた。
長谷川:今、また古着屋が増えてるっていうけど、こういうのじゃなくて、もっと90年代古着って感じだよね。あれもああするしかなかった、みたいなところもあるって聞くよね。ものがもうないわけだし。
南:そうね。ものがあっても、もう買い付けられるような値段じゃないんだよね、結局。昔は倉庫みたいなところで、デッドストックがバーッと残ってるみたいなこともあったみたいだけど、もうそういうのも難しいっていうもんね。
長谷川:そうだね。いまはアメリカでスリフトに行っても〈H&M〉の古着みたいのばっかだもんね(笑)。
南:そうね。〈ザラ(zara)〉とかね。〈ギャップ(GAP)〉も、もう高いらしいしね。意味わかんないよね。
長谷川:あとはこないだ、〈RRL〉の初期のデニムを「プロップスストア」の土井さんに見せてもらったんだけど、あれもやっぱり生地感がいいね。今はきっと出せないんだろうなって。
南:紡績とかコットンの質とか、いろいろあるんだと思うけど、昔の人の技術っていうのもあるよね。もうその職人さんはいないわけで、昔できたことがどんどんできなくなってくる。大量生産に変わっちゃうと、いろいろ失われていっちゃうことがあるんだろうね。
90‘s POPEYE
長谷川:これは、矢口くんがサロンのお客さんからごっそりもらった『ポパイ』のなかに入ってたやつ。編集部に貸し出してたんだけど、この前返してもらったの。古本屋でもあんまり見かけない。表紙はライノの代表である蔡さんが作ったんだよ。いつか当時のことをいろいろ聞かせて欲しいと思ってるくらい好き。この号には、当時、世間で気にされてたファッションのほとんどが入ってるんじゃないかな、どのページもすごくカッコいい。やっぱりこの時代の『ポパイ』に一番影響されたよ。これがあったからこそ、俺がやらせてもらっていた時代があるんだよね。
南:へー。
長谷川:白人の男の子が、どうやらアイリッシュセッターっていう種類の犬を連れてるビジュアルが表紙なんだけど、もともと〈レッドウイング〉のアイリッシュセッターって、こういう湿地帯を歩くための靴らしいんだよね。あとは畑仕事とか。
南:あ、そうなんだ。水入っちゃうのかと思ってた。
長谷川:だからああいうソールらしいよ。この『ポパイ』のファッションストーリーでも、そういう湿地帯で撮影してるっぽい。ニューイングランドだから、スタイルはプレッピーみたいな。蔡さんはこのとき、スタイリングとしてクレジットされているから、編集とスタイリング両方やってたのかもね。こういう雰囲気が最近すごく気になってて、またいいと思うんだ。やっぱりアメリカ物のプレッピーな服は、普通でありながらも、品格があっていい。
Labrador Retriever Sweat Hoodie
長谷川:こないだ加藤たちがやってる「AWW」で撮影をしたんだけど、〈ラブラドール レトリーバー〉の服で撮影をしようと思ったの。
南:うわー、やばいね、それ。
長谷川:お店に何回か行ったんだけど、なかなかやってなくてさ。なんか17時までしか営業してないとかで、タイミングが全然合わなくて。
南:え!? まだやってるんだ、ラブラドールって。
長谷川:うん、「キディランド」の裏くらいにあるよ。
南:あー、そうなんだ。
長谷川:そう。何度行っても全然お店が空いてないから、仕方なくメルカリで探してこれ買ったの。で、撮影をしようと思ったんだけど、なんか彼女たちが犬を使いたいって言い出して、本物の犬とスエットの犬イラストでなんか情報が多くなってきてしまって、当初使いたかったラブラを落としてしまったの。これありきだったのに(笑)。けど、もったいなかったなと思ってて。これやっぱりいいよね。浅野ゆう子みたいな感じでさ(笑)。
南:わかるよ。。
RED WING Irish setter
長谷川:で、このスエットに〈レッド・ウイング〉を合わせたくて、ベージュスエードの白ソールの、プレーントゥのタイプのやつを探して買ったの。これがいまは廃盤になってるみたいで、探してもなかなか見つからなかった。
南:そうそう、らしいね。いまは買えないっていう。これ俺も持ってるよ。買った。
長谷川:いいよね、これ。
garabou organic cotton socks
南:これはなに? 落ち綿?
長谷川:前に上原でイベントをやったときに見つけたんだけど、なんか自然食品屋さんあるじゃない。
南:あるね、あるある。えーと〈ガイア〉だっけ。
長谷川:そう。その〈ガイア〉の向かいに洋服屋さんがあるわけよ。そこも〈ガイア〉なんだけど(笑)。そこでここの会社の靴下を買ったの。俺は靴下好きだからさ、見つけたら即買いしてるんだけど、これが久々のヒット。で、ここに問い合わせをしてみたら、もともと〈吉田カバン〉にいた方が携わってるみたいで。奈良にある会社みたい。
南:あー、奈良のソックス屋さんかな。
長谷川:ガラボウとかって言ってたかな。和綿を使って、毛足が短い綿をガラ紡っていう機械を使って紡いでいくと、ちょっとこういう風にボコボコした感じになるらしくて。
南:うんうん、こういう節ができるわけね。
長谷川:それでその後、新商品を送ってくれたんだけど、それがさらによかったんだよね。それが今回のこれ。基本的に俺はアメリカ製の〈ウィグワム〉みたいなソックスが大好きなんだけど、これは日本製でありながらもそれを超えるネップ感なんだよね。
南:100%手で紡ぎました、みたいな感じだもんね(笑)。
長谷川:でしょ。こういうアメカジ感がすごく気になってて。このソックスもさっき見せた『ポパイ』の雰囲気があるよね。もちろん〈レッド・ウイング〉もさ。
南:懐かしい。。こういう靴下穿いてたよね。
CAMOUFLAGE PATTERN
長谷川:あとは最近、迷彩にもハマってて。昔、スリーカラーとかチョコチップって言われるような、90年代の湾岸戦争で使われてたのをよく着てたのね。2000年代初頭になると、マルチカモとか、デジタル迷彩とかが出てくるようになるんだけど、昔はあんまり好きじゃなかったんだ。けど、もうこの辺も廃盤なのもあったりして、目に馴染んでくるとなんか逆にいいような気がしてきたんだ。
南:俺は履くのが怖いんだよね、、似合いすぎちゃって。
長谷川:(笑)。
南:ガチ感が出ちゃうというか。だから迷彩だけは一度も通ったことがないんだよね。アキオ氏は似合うと思うけどさ。大人になったら履こうと思ってたら、太っちゃったからさ。太ってて、軍パンのカモってやばくない?(笑)
長谷川:そう? そんなことないんじゃない?
南:まぁそんなわけで、そこは今まで通らないできてますね。けど、なんかわかるよ。この辺もあのときの感じだよね。
長谷川:そうだね。もうここ最近ずっと無地だったから新鮮で。2000年ぐらいの感じ。昔の原宿っぽい感じがなんかいいんだよね。〈レッド・ウイング〉も。そこにさっきの『ポパイ』のキレカジ感をミックスしていく感じで。
BROOXON+A.H
長谷川:このバンダナは、少し前に作った抗ウイルスの生地のコートと同じ成分のやつ。
南:コロナに効くと言ったらいけないバンダナだっけ?
長谷川:そうそう。抗コロナとは決して言ってはいけないバンダナ。薬機法に引っかかるみたい。逮捕されちゃうらしい。
南:えー、じゃあうちでやった「ビブテックス(VIBTEX)」もだめなんじゃないかな? 確認しなきゃ。
長谷川:コロナウイルスを使ってテストするんだけど、全く同じ条件を揃えて全製品をテストしないといけないとかで、そんなん無理じゃん。ステッチが入るだけでもダメなんだって。
南:それは絶対無理だな。100%無理。。
長谷川:商品名:コロナに効くと言ったら逮捕されるバンダナ。解説:抗ウイルスのバンダナを作りました。
南:ウイルスならいいんだ。意味わかんないね。
長谷川:これが元なんだよね。Etak®。広島大学の教授が開発した抗ウイルス成分。どう言うものかの説明は各自ネットで調べていただくとして。。。コロナにも試したら、有効だったの。
南:でも謳ったらダメなわけね。
長谷川:そう。あくまでもある条件のなかでという話であって、縫製の仕方とか混紡率とか少しでも条件が違う場合、全てを検査しないと認定してもらえないから、いついかなる条件でも効くとは言い切れないから謳えないみたい。だからなのか、これも抗ウイルスとしか書いてないね。でも、俺はバンバン吹きかけてから出かけてる。俺は信じてるよ、イータック。効いてるかはわかんないけど(笑)。
南:ワクチンも100%効くかわかんないのに打ってるけどね。
長谷川:ワクチン打ったの?
南:打ってない。こわい。
長谷川:ワクチン作ってたら面白いよね。〈フレッシュサービス〉でワクチン作りました、とか。
南:効くと言ったら逮捕されるワクチン。
長谷川:(笑)。
南:作るかな(笑)。これさ、バンダナだけ後で作ったの?
長谷川:うん。バンダナなら抗コロナって謳えるのかと思って作ったら、これもダメだって話になって。。だからもうさ、いかに厳しくて謳えないかってことも含めて、完全ではないけど、こういう実験結果も一応あるんだよみたいなことも含めて、洗いざらいみんなに伝える方がいいんじゃないかと思ってるんだ。
南:なるほどね。
長谷川:製品名で訴えたら、正確に伝わるかもしれない。「2時間でコロナウイルスを不活化できる!というつもりで作ったけど、効く可能性が実際のところよくわからないバンダナ」。「言い方を間違えると薬機法で逮捕されてしまうかもしれないバンダナ」。
南:縫う糸も薬つけたらいいのかな。
長谷川:でも一個一個検査しないといけない。
南:「個人の感想です」って入れたらいいんじゃない?テレビみたいに。
長谷川:(笑)。「毎朝バンダナを噛み締めてから出かけてます。おかげさまで、まだ感染していません!」※個人の感想です
南:いいね! その線でいこう。