about FRITZ HANSEN
1872年にデンマークで創業したデザインブランド。家具、照明、アクセサリー小物などを時代に左右されることなく、世界的にも有名なクラシックラインからコンテンポラリーラインまで、一つの世界観をもって表現している。
PROFILE
ヘア&メイク。「駿河台 矢口」店主。
https://surugadaiyaguchi.com/
ファッションディレクター、スタイリスト。英国の雑誌『モノクル(MONOCLE)』では創刊よりファッションページの基礎を構築。2015年にはファッションディレクターに。2012年より2018年秋まで『ポパイ』のファッションディレクターを務めた。
フイナム:今回は椅子ですね。
長谷川:この前、アメリカに行ったときに見つけた〈フリッツ・ハンセン〉のスワンチェアのヴィンテージ。世界的に有名なデザインの椅子なんだ。有名すぎて、もはや、椅子界の「普通」を代表する一つだと思う。
矢口:あそこはなんて街だっけ?
長谷川:なんだっけね。。撮影が全部終わって、時間があったから、ヴィンテージショップに寄ったんだよね。
矢口:そうそう。
長谷川:そのときシューズメーカーN社のビジュアルで椅子を探していて、椅子のことばっかり考えていたんだよね。で、このヴィンテージショップになんかあるんじゃないかと思って覗いたら、〈フリッツ・ハンセン〉の椅子があって。あーこれあるじゃん!って思って、すぐ矢口くんに「これは買った方がいいよ」って報告したの(笑)。
フイナム:なるほど(笑)。いくらだったんですか?
矢口:1500ドル。ちっちゃいタグが付いてて、「アルネ・ヤコブセン スワンチェア 1958」って書いてあって。
長谷川:偽物なんじゃない?っていう話にもなったんだけど、その場所には判断できるひとがいなくて。でも俺は本物なんじゃないかなって思ったから、やっぱり「矢口くん買いなよ」って。偽物にしては高いし、なんか貫禄があるし。何の根拠もないんだけどね(笑)。
矢口:このメガネもそうなんだけど、「買えばいいじゃん」系をよく購入させてもらってますね。
フイナム:そうなんですね(笑)。
長谷川:アメリカで椅子を買ったらどういうことになるのか、経験してみたかったんだ。だから、矢口くんが買わなかったら、自分で買っていたと思う。サロンでは、使う椅子にこだわろうっていうのが、オープン当初のコンセプトにあったしね。
矢口:そうだね。しかもお店のおばちゃんに値切ったら1000ドルまで下がったんだよね。というのも、もう一脚椅子を買ったから。そっちにも“アルネ・ヤコブセン”って書いてあったんだけど、それは安くて150ドルくらい。それも100ドルくらいに値切った。
about GLASS
直火にかけても大丈夫というインドのコップ。レンジにも対応できるし、見た目もスッキリしていて気に入っている、長谷川が何年も愛用しているグラス。何度か割ってしまって、これは3個目。〈ボロシルヴィジョングラス〉耐熱性グラス「LW」 SIZE:φ74×H80mm ¥1,200+TAX(VISION GLASS JP/國府田商店株式会社 )
長谷川:で、バラバラにして持って帰ってきたんだよね。
矢口:そう。足が全部外れるから、バラバラにして梱包材で巻いてね。
長谷川:それを段ボールに入れてたけど、空港で重さをちょっとごまかしてたよね(笑)。
矢口:そうそう。撮影のときってそもそも荷物が重いし、帰りはお土産を買っちゃうしで、結果、結構重たくなっちゃうんだよね。だから重さを量るときに、トランクのはじっこをちょこっと持ち上げるんだよね。もう癖っていうか(笑)。その間に話しかけるっていう。
フイナム:ベテランですね、もう(笑)。
長谷川:けど、秤に載せている荷物が、微妙に動いていて、数値も増えたり減ったりやたら動くから、向こうも絶対気づいてたと思うよ。気の毒に思ったのか、重さ超過してるけど結構ですよ、って言ってくれたんだと思う(笑)。
矢口:あ、いいですか?みたいな(笑)。チャージ代って数万円くらいするからバカにならないしさ。海外からだから、もちろん送料も高いしね。
長谷川:矢口くんって人は、すごく運がいいんだよ。昔から。運だけは常にある。毛はないけど(笑)。
矢口:まぁ毛はないけど、運は大事でしょ。
長谷川:間違いないね。
フイナム:それで無事に持って帰ってこれたわけですね。
長谷川:そう。で、すぐにN社の撮影があったんだけど、他にもたくさん椅子を手配してしまっていたから、結局撮影では使わなかったんだけどね。
矢口:いや、別に撮影のために買ったわけではないけどね(笑)。自分のお店に置こうかなって思ってたからさ。
長谷川:そのあと、インテリアにかなり詳しい人にこの椅子の話を聞いてみたの。そしたら「あー、それはちょっと怪しいかもよ」って。
矢口:写真も見せてね。
長谷川:そう。「この脚がなんか細くない?」「けど、けっこう存在感はあると思うんですけどね」なんて話したりして。
about SHORTS
迷彩の6ポケットショーツも、ニットTシャツなら、子供っぽくなりすぎず、ちょうどいい。〈ロスコ〉ユーズド加工の6ポケットショーツSIZE:L ¥6,250+TAX(ジ アパートメント)
矢口:俺は俺で、アメリカにいるときに色々調べてたんだけど、この脚の形が初期型のものなんじゃないかっていう話があって。脚についてるレバーで椅子の高さを調節するんだけど、それが付いてるのが初期型らしくて。さらに細かく調べてみると脚も5タイプあるみたいで。キャスターがついてるやつとか。そのなかの一つがこれっていう。
フイナム:だとしたら貴重ですよね。
矢口:そう。ヤコブセンは71年に亡くなっちゃうんだけど、生前に作ってたものはこの形で、亡くなった後からは、ちょっと仕様が変わったらしいんだよね。現行のものとも、もちろん違うし。
長谷川:だから本物なら、オリジナル中のオリジナルってことになるわけ。そういう話もその詳しい人にしたんだけど「うーん、でもアメリカにはこういうのっていっぱいあるからね…」って。もう一脚の方に関しては「天板にビスが出てるこの仕様は絶対ないね」って。
矢口:まぁ、そっちは安かったしね。ただ、一応デンマークで作られたものではあるんだけどね。
長谷川:そう、デンマーク製ではあるんだけど、ようするに国内で模倣品がたくさん出回ってたていうことみたいなんだよね。だからヤコブセンでもなんでもない、まがい物(笑)ということなのかも。でも、いいじゃん。偽物だって全然いいと思う。この思い出と、好きかどうかが大事だよ。
矢口:損はそんなにしてないけどね。一万円ぐらいだったし。
長谷川:まぁ、どうにもならないまがい物の椅子を、海外からわざわざ持ってきたってわけだけどね。
フイナム:(笑)。で、結局撮影したこの椅子はどうなんですか? 鑑定とかしたんですか?
矢口:いやしてない。なんか鑑定してくれるところがあるみたいなんだけど、8万円くらいかかるらしいんだよね。
長谷川:でも、本物か偽物かわからないのが面白いんじゃないかって思い始めたんだよね。それを調べちゃったらつまんないから、漠然としたままでいいんじゃないって。そしたら〈フリッツ・ハンセン〉の専門家に矢口くんが問い合わせたら、なんと本物だったんだって(笑)。
フイナム:えー!
about KNIT
「レショップ」の金子さんが別注したジョンスメの半袖セーターの2XL。身幅などが大きくなっているけど、ネックは小さくなるように設計してある。コットンの粗雑なTシャツに飽きてきた夏のある日、こういうのは突然着たくなる。のだけど、実はこれ、もう売り切れてしまったらしい。似たようなオーバーサイズのニットTを探そう。〈ジョンスメドレー × レショップ〉コットンのショートスリーブセーターSIZE:XXL ¥25,000+TAX(レショップ)
矢口:間違いないって。ただ、この座面の生地はオリジナルかどうかはわかんないんだよね。
長谷川:けど、いまこんな感じの生地って見ないけどね。
矢口:確かに。その人曰く、なかはウレタンだから時間が経つと経年でペタッとしちゃうんだってさ。
長谷川:加水分解するのかもね。
矢口:そう、だいたい加水分解しちゃうから、張り直してはいるんじゃないかって。
長谷川:けど、カリフォルニアは湿度低いし加水分解しないから、そのままかもしれないよね。
矢口:そっか、そういう可能性もあるのか。で、俺はもうなんか色々想像しちゃってさ。もしも、コペンハーゲンにある有名な「SASロイヤルホテル」の客室に置かれてたものだったら、それはもう美術館級の代物なんじゃないの?って。まぁそれはわかんないけど、掘り出し物ではあるよね。
長谷川:座り心地は確かにいいんだよね。
矢口:その詳しい人曰く、生地を張り替えてウレタンとかそういうのをきちっとケアしてるってことは、とても大事にしてる証拠だし、本物のヤコブセンなんじゃないって。
フイナム:夢とかロマンがありますよね。
矢口:あるよね。もしかしたら「SASロイヤルホテル」にあったものが、いま「駿河台 矢口」にあるわけだから。ん、待てよ? SASって、駿河台、、SURUGADAI、、全然違うか。
フイナム:(笑)。「駿河台 矢口」は北欧系の椅子が多いんですか?
矢口:そうだね。デンマーク製が多い。お客様に長時間座ってもらうので、いかに優雅に気持ち良く座ってもらえるかが大事なんだよね。デザイン性に優れすぎてても、なんか切りづらいし。デンマークってかみさんを選ぶよりも、椅子を選ぶ方にプライオリティを置くっていうしね。
フイナム:椅子に対してのリテラシーが高いですよね。
矢口:ぜひ、お店で座ってほしいですね。