about Hanes A-shirt
出張でアメリカに行くと、ほぼ間違いなく「ターゲット」に寄り、撮影用備品を買うついでに、パックに入ったタンクトップやTシャツを購入する。これをしないことには、僕のアメリカ気分は盛り上がらない。宿泊施設に戻ったら、マルっと全部洗濯して、乾燥機にかけ、それらを滞在中の日常着として使うのだ。スーツケースに余裕があったら、さらに追加で購入して、いつかのために未開封のまま持ち帰り、ストックしておく。ここに積み上げているのは、そんな目的で買い貯めておいた分。もう少ししたら暖かくなってきそうだから、いよいよ出番だ。ウールのインナーはサマリーに預けてしばらく冬眠かもしれない。コットンのリブ編みタンクトップに毎朝着替える日々が始まる。上に白Tを着て、そのさらに上には、〈ロロ・ピアーナ〉のセーターを着る予定。気温が毎日違う今の季節に、ちょうどいいのだ。
about LORO PIANA
BABY CASHMERE MTO SWEATER
これは少し前に〈ロロ・ピアーナ〉でいただいた特大サイズのベビー・カシミヤセーター。10年以上ぶりに連絡をくれた小木くんの紹介で、取り扱いサイズのマックスである「62」で特注させてもらったのだ。カシミヤの代名詞とも言えるこのブランドは他ブランドから、何かにつけて高品質を示す時の基準として名前を使われることが多い。「同等のクオリティの糸である」とか「出どころが同じ糸」だとか。だけど、実際にここのカシミヤがどの程度素晴らしいのか、所有者の言葉を聞いたことがない。とは言え、僕もまだきちんと着たことがないからよくわからない。これから少しづつ着て、いつかその良さを伝えたいと思う。
少し肉厚に編まれたこのモデルは、適度にハリがあるから、オーバーサイズで着た時に、大きなフォルムを出しやすい。本来の自分のサイズである「48」だろうから7サイズも大きいけど、適度なサイズ感の見えかたに収まってくれる。色はダークネイビー。ネイビーだけでも何色かあった気がしたが(気のせいかもしれないが)、一番シックで、永く着られそうな暗いトーンを選んだ。
イニシャルも入れてくれるということだったのだが、ヨットと親和性の高いブランドだから、国際信号旗でAHと入れることもできるとのこと。今回はあえてそうしてもらった。自分の名が入ると、より愛着が湧く。大事に長く着れそうだ。そう思えるプロダクトこそがサスティナブルだと思う。
ちなみにここで使われているカシミヤは、大切に育てられた山羊たちから得られた原料を、さらに選りすぐって集めたもの。昼夜の温暖差が激しい過酷な環境ながらも、質の高い餌を食べ、ゆったりとしたペースで、ストレスの少ない生活を送っている羊たちからは、必然的に良質な毛が取れる。規則正しく、きちんとした生活を送っている人は、健康で、いい顔をし、正しい心を持って、いい仕事をする。それと同じことなのだ。
about NIKE ADAPT AUTO MAX「JET STREAM」
ここ数ヶ月、撮影はほとんどせず、自粛していた。昨年が忙しすぎたし、コロナがこれ以上増えたら良くないと思ったからだ。時間に余裕があると、心も落ち着き、今までとは全く違うことに目を向けることができるようになる。で、SNKRSでこの靴を買った。今までとは違う行動をすると、考え方が変わり、買う物も変わる。そして実際に手で触れてみることで、今までとは全く違う景色が見えてくる。
昨年登場した、〈ナイキ〉のアダプトオートマックス。僕は実物を見かけたことがなかったから、SNKRSを開かなかったら出会えなかっただろうし、どちらかというとクラシックなアイテムが好きな自分は、少し前までだったら目の前にあっても、興味を持たなかったかもしれない。でも、最新テクノロジーに触れてみたいと思ったし、新しい「普通」を発見したいと思った。AIが浸透した今の時代に、自分の好みとは少し違う情報を得るのはなかなか大変だ。でも、そうしなければ、何も新しいことは起こらない。この靴は、いつも提唱している「普通」とは程遠いと思う人がいるかもしれないが、僕はそうとは思わない。
経済とファッションは密接だ。日本よりも景気の良い国の人たちは、こうした高額で最新テクノロジーの詰まったアイテムを積極的に身に付けることができるだろうし、そうして「普通」の基準をアップデートしていくことができているのではないかと思う。他所の国ではそんなことが起こっているのかと想像すると、普通研究家としては、買わないわけにはいかない。実際、いつもの、なんでもない服に合わせると、意外といい感じだった。そういえば、初めて見たエアマックスってこんな印象だったかもしれない。クラシックな普通な靴もいいのだけど、コロナ禍でストレスの多い今、たまにはこういうのを履いてみた方が、感性を高めるのにもいいのでは、と思った。
about HOKA ONE ONE KAHA LOW GTX
〈ホカ オネオネ〉の靴は、正直言ってなんか苦手だった。ソールが厚すぎると感じていたからだ。ただ、僕のようにデカいサイズの服を着る人には、実はちょうど良いボリュームだったりする。そんなことはずっとわかっていた。だからこそ、ふとしたきっかけで履いてみたら、想像以上にハマってしまったのである。靴紐を結ばなくともスッと足入れしやすく、自然とフィットするところも最高だ。この良さを知ってからというものの、もうかれこれ1か月近く、毎日この靴を履いているほど大好きだ。特にこの真上から見たビジュアルはいつ見ても美しくてうっとりする。新しい普通の形を世界に提示した一足と言っても過言ではないだろう。実際、何人もの友人が僕の姿を見て「実は自分も最近気になっている」とか「最近よく履いている」と話してくれた。時代遅れなくらい、いまさらな発言だが、今だからこそちょうどいいし、本当に浸透したとも言えるだろう。
僕がこの靴の存在を知ったきっかけは〈エンジニアド ガーメンツ〉のルックだった。大器さんはこの靴や、〈ニューバランス〉900番台を誰よりも早くファッションに取り入れていた。最初はピンと来なかったのだけど、その履き心地とルックスに、僕は徐々に魅了されていった。それがなければ、僕はかつて『ポパイ』であんなにも993を使わなかっただろうし、ここまでファッション業界で〈ニューバランス〉が広まってはいかなかったんじゃないだろうか。大器さんは、男たちが虜になる靴がなんなのかをよくわかっている、偉大なデザイナーだ。
今日は訳あって、午後から他のブランドの靴に履き替えた。その途端に疲れ始め、夜になった今ではぐったりして寝込んでいる。〈ホカ オネオネ〉、恐るべしである。