PROFILE
Yugeデザイナー、ADULT ORIENTED RECORDS主宰。2000AWより〈ユージュ(Yuge)〉をスタート。土岐麻子のアルバム『乱反射ガール』や一十三十一のアルバム『CITY DIVE』のアートディレクションを手がけるなど、アートディレクターとしての一面も持つ。2018年6月、代々木上原に「アダルト オリエンテッド レコーズ」をオープンし、“現代のAOR”を発信中。
ファッションディレクター、スタイリスト。英国の雑誌『モノクル(MONOCLE)』では創刊よりファッションページの基礎を構築。2015年にはファッションディレクターに。2012年より2018年秋まで『ポパイ』のファッションディレクターを務めた。
フイナム:先日のキシタさんに続いて、今回は「ADULT ORIENTED RECORDS(以下AOR)」の弓削さんを、LINE対談にお迎えしました。よろしくお願いします。
弓削:お願いします。
長谷川:弓削さん、お店は開けてるんですか?
弓削:開けてますよー。
長谷川:すごい(笑)。
弓削:人来ないすけど(笑)。まぁ事務所と兼用なんで。
長谷川:通販始めたんですか?
弓削:通販はポリシーに反するのでやってないんですけど、心揺らいでます。でもインスタからの問い合わせには対応してます。本格的にECを始めるか迷ってますね。
長谷川:インスタからのオンラインっていうのは何が違うんですか?
弓削:ECのシステムを通さない、言わばテレフォンショッピングみたいな感じですかね。
長谷川:えー、知らなかった。見てみます。
弓削:ECだとあらかじめ大量な情報をインプットしなきゃいけないじゃないですか。インスタの場合だと、アップしてる音源に興味ある人は問い合わせもらったら、通販対応しますよ的な感じです。
長谷川:あー、それは面白い。
弓削:この程度の通販だと楽です。
長谷川:うんうん。
弓削:マジなやつをやろうとしたら、専属で1~2人雇わなきゃやっていけないかなと。
長谷川:そういうのって基本的には1枚しか在庫はないんですか?
弓削:たまに2~3枚ストックあるものもありますけど、基本的には1枚ですね。早い者勝ちです。
長谷川:売れたらまた探さないとだし、大変ですね。
弓削:売れ筋は集めるようにしてますね。例えばヤマタツ関連とか。
フイナム:あ、やっぱり。
弓削:ヤマタツまわりは、今とにかく売れます。いわゆる和物と言われるレコードはめちゃ売れますね。
長谷川:けど弓削さんって、よく覚えてますよね、これはあのときのなに、とか。
弓削:基本、子供の頃から好きなんで覚えちゃいますよね(笑)。今は仕事も兼ねてるので余計に覚えちゃいます。
長谷川:弓削さんの解説を聞くと信頼できるし、買っちゃいます(笑)。
フイナム:音の趣味は昔から変わらずですか?
弓削:基本は変わらないです。子供の頃から洗練されたメロディー、綺麗な音楽が好きですね。
長谷川:まさにヤマタツですね。
弓削:そうですね。メロディーが好きなんです。
長谷川:こないだ、山下さんの昔のインタビューをちょうど読んでました。
弓削:これやばくないすか、VHD。
長谷川:これなんなんですか?
弓削:音楽メディアです。僕もじいちゃんの家でしか見たことないんですが、ビデオとかと一緒だと思います。昔の家でやるカラオケはVHDが多かったような気がします。
フイナム:メディアの大きさが変わるとジャケットの大きさが変わって、デザインも変わるんで、面白いですね。
弓削:面白いすよね。この後レーザーディスクが出て、レーザーカラオケとかになった気がします。
長谷川:初めて見ました。
弓削:いま調べてみたら、ビクターが開発したビデオディスクなんですね。
長谷川:へー。
弓削:この『TATSURO&EiZiN』は何種類もパッケージがあって、この他にレーザーディスクがあって、あとVHS、ベータ、ベータマックスとかとか。。作る方も大変すよね。
長谷川:メディアがいっぱいあった時代は在庫も大変そうですね。
フイナム:長谷川さんは、最近「AOR」で何を買ったんですか??
長谷川:最近買ったのは、「ティン・パン・アレー」関連のとか「EPO」とか。
フイナム:いいですねぇ。
長谷川:あー、これです。
弓削:名盤す。
長谷川:松任谷さんのを探してるって弓削さんに言ったら、この前連絡くれて。
弓削:これ中古市場でも全然値崩れしないんですよ。
長谷川:ジャケットもかわいい。
弓削:この絵はユーミンが描いてて、正隆さんが歌ってます。
長谷川:この前、『Hong Kong Night Sight』って曲を弓削さんに教えてもらって。「ティン・パン・アレー」名義で松任谷正隆さんが歌ってて。
弓削:めちゃ良いすよね、『Hong Kong Night Sight』。
長谷川:で、ユーミンバージョンもその場で聴かせてもらって、両方買いました。ユーミンバージョンもいいんだけど、正隆さんの声って優しくて、今は正隆さんバージョンの方が好きかも。
フイナム:『夜の旅人』は、松任谷正隆さんの唯一のスタジオ・アルバムですね。
弓削:正隆さんの歌って、なんか落ち着くんですよね。
弓削:この盤も基本のバックはティンパンです。メンツがすごすぎ。
フイナム:黄金時代みたいなことなんですか、このあたりって?
弓削:黄金時代はもう少し後ですかね。元々「キャラメル・ママ」っていうバンドから名前が変わって「ティン・パン・アレー」になったんですけど、おそらく日本初のスタジオミュージシャンが主役になったバンドだと思います。それぞれが色々なレコーディングやらに参加してて、細野(晴臣)さんが、スタジオミュージシャンを主役にしたバンド作ろう、みたいな。
長谷川:へー、面白い。「キャラメル・ママ」っていう名前の由来ってなんなんですかね。
弓削:いま調べてたら、「キャラメル・ママの名前は東大安田講堂に立て籠もる全学連のヘルメット姿の学生たちに、母親たちがキャラメルを差し入れして物議を醸したことが由来です」っていう吉田美奈子さんのインタビューが見つかりました。僕も知りませんでした(笑)。吉田美奈子さんがおっしゃってるならそうなんでしょうね。
長谷川:間違いない(笑)。けど、安田講堂ってすごい時代ですね。
フイナム: 時系列はどうなってるんでしたけ? 「はっぴいえんど」はその前ですか?
弓削:「エイプリルフール」から「はっぴいえんど」、で、そのあと「キャラメル・ママ」から「ティン・パン・アレー」ですね。
長谷川:「エイプリルフール」?
弓削:そういう名前のバンドを松本隆さんと細野さんとかで始めたのがキッカケですね。
長谷川:そんなに長い歴史があるんですね。正隆さんってすごい。
弓削:うん、正隆さんはすごいすね。
長谷川:この本(『マンタの天ぷら』)を最近知ってAmazonで買ったんですけど、原稿がめちゃくちゃ面白くて。
弓削:あー、これこの間長谷川さんが言ってて、読んでみたいと思ってました。
長谷川:ぜひ買ってみて下さい。すごく読みやすくて、意外と下品な感じで面白いです(笑)。
弓削:正隆さんは家系もヤバいんですよね。父が東京銀行の横浜支店長だったり。この頃のイケてるミュージシャンの家系ってみんなこんな感じです。
長谷川:環境が感性を育てるんですね。
弓削:細野さんの祖父は日本人で唯一タイタニック号に乗ってた人ですしね(笑)。
長谷川:えー、沈んだときのですか?
弓削:いや、処女航海時らしいです。
長谷川:あ、そうなんですね。
長谷川:正隆さんの本、こんなにカジュアルにうんことか書いてるから親近感がわくんです。
フイナム:『ハニカム』で書かれてるブログも、いい感じに力が抜けてますもんね。
長谷川:そうなんだ。というか名前がすごく素敵だよね。俺もなりたい。松任谷昭雄。
フイナム:(笑)。
弓削:松任谷、いいよね。ちなみにユーミンは八王子の呉服屋の娘です。
長谷川:すごくいい呉服屋って聞きました。
弓削:八王子は絹の街なんです。荒井呉服店、今も健在です。そこに嫁いだ婿養子が知り合いす(笑)。
長谷川:これは弓削さんとこで買った、ユーミンの『Hong Kong Night Sight』が入ってるやつ(『水の中のasiaへ』)。カバーにはユーミン写ってない。開けると中に写ってるカットがあるけど、裏面にもいないっていう。過激ですよね。
弓削:これ謎ですよね。一応、12インチシングルとしてリリースされてます。ちなみに中のインサートを広げると、こんな感じで表のジャケットと繋がります。
長谷川:こういうことしたいって言ったら、大抵、怒られますよね。俺いつもそういうことをしたがって怒られるんです(笑)。羨ましいなぁ。昨日読んだインタビューでもヤマタツが言ってましたよ。売れればお金が入って、自由度が広がるから、売れる曲を作るほうがいいって。
弓削:これラッフルズで撮影してるんです。子供のころから1番憧れてるホテル。
長谷川:ラッフルズっていうホテル?
弓削:シンガポールスリング発祥の地す。
長谷川:聞いたことある。俺も行ってみたい。ロケしたいな。
フイナム:ロケやばいですね。
長谷川:シンガポールか、、コロナ終息したら行きたいな。
弓削:僕が初めて知ったのは「チューブ」が『Twilight Swim』というアルバムを僕が小5の時に出してそのジャケットがラッフルズだったんですよね。
長谷川:「チューブ」いいですね。このジャケット見たことある。
弓削:このジャケ大好きだったんです。
長谷川:(笑)。
弓削:「チューブ」も大好きでした。もっと言うと、夏と海とヤシの木が好きでした。バカっぽいけど(笑)。
長谷川:「オメガトライブ」は小学生の頃聞いてましたね。
弓削:「オメガトライブ」も超好きでしたね。これ最近手に入れた写真集(笑)。
長谷川:80年代の象徴なんですかね。白とペパーミントグリーンと海とヤシの木。80年代に絶対出てきますよね。マリンとかボーダーとかウォーターフロントとかも。
弓削:とにかくリゾート志向満載でしたよね。
長谷川:あー、なるほど。
弓削:色々なメディアで叩き込まれた感じですね。テレビも広告もみんなリゾートだったじゃないですか。
長谷川:うんうん。昔の『ポパイ』とかもやたら海でロケしてて。白いデッキシューズ素足で履いてたり。
弓削:そうそう。
長谷川:そんなイメージで『Hong Kong Night Sight』を聴くとすごくいいですよね。ところで、夏が近づいてくると、弓削さんのお店のレコードも気分がさらに高まってくるんじゃないですか?
弓削:そーなの。でもこの状況じゃね。。これいつまで続くんですかね?
長谷川:今みんな暇だし、家でレコード聴きたくならないのかな?
弓削:いや、聴きたいはず。けど、うちのお店もインバウンドの恩恵を受けてたからねー。日本の70~80年代の音楽が世界的なトレンドでもあるから。
長谷川:あー、なるほど。えーと、今17時半ですよね。。このくらいの時間からお酒飲んで、その時代の音楽をレコードで聴くのってすごい気持ちいいんです。
フイナム:いいですね。「AOR」にあるようなのは、全部合いそうです。
弓削:店で死ぬほど聴いてるから最近家で音楽聴くことなかったんだけど、この間久々に聴いたら沁みました。
長谷川:いつもだったら遅くまでやらないと間に合わないから飲めないけど、今はゆっくりだから17時で終えて飲める日もあります。だから実は最近の方が仕事しやすくて嬉しい(笑)。
弓削:うんうん。家で聴くのってやはり違うなと。音楽って聴くシチュエーションで全然聴こえ方が違うのが面白い。音からランドスケープが浮かぶ感じが、好きな音楽だったりもするなー。
フイナム:弓削さん、最後になにかおすすめを教えてください。
長谷川:ぜひぜひ。
弓削:家で聴くのに最適な感じが良いですよね?
フイナム:ですね。このご時世なので。
弓削:沢山あるから困っちゃうな。
長谷川:松任谷さんと、ヤマタツ、ユーミン、この3人でお願いします。
弓削:正隆さんはこのアルバムしかないんだけど、『気づいたときは遅いもの』っていう曲があって、これは沁みます。
長谷川:タイトルがいいですね。このアルバムはいつ頃なんでしたっけ?
弓削:1977年です。ユーミンが詞を書いてるのも良いんですよね。で、ヤマタツのおススメか、、難しいなー。昨日スーパームーンだったから『永遠のフルムーン』かな。ちょうど入荷したし。
弓削:1979年リリース。これヤマタツのなかでは安いですけど、最高です。『永遠のフルムーン』から『レイニーウォーク』の繋がりはマジで最高。
長谷川:(試聴しながら)いいですね。。白ワイン飲みながら夕方に聴きたいです。
弓削:暗くなる前に聴きたいですよね。雨上がりだったら最高。夕日でアスファルトがキラキラ光ってる感じのとき。
長谷川:いいですね。お酒があった方がいいですよね。あと、一人の方が良さそう。
弓削:ユーミンはやっぱ『パール・ピアス』っていうアルバムかなー。
弓削:居酒屋探訪家としても有名な元資生堂アートディレクターの太田和彦さんがジャケ作ってて、中には安西水丸さんのイラストブックが入ってる。曲のラインナップも最高です。
長谷川:あー、太田さん。ただの酒飲みおじさんだと思ってました(笑)。あの人のおかげで居酒屋巡りにはまった時期もあるし。
弓削:日本人で1番影響を受けたアートディレクターの1人かも。
長谷川:かわいい。
弓削:安西水丸さんのイラスト、いいですよね。
弓削:あと、太田和彦さんのこの作品集はマジで最高す。めちゃ攻めてます。
長谷川:へー、面白い。いい広告ですね。
フイナム:一発でもってかれますね。。さて、、そろそろお開きにしましょうか。なにげに2時間以上LINEしてます(笑)。
長谷川:そうだね。今日はすごく濃厚なお話が聞けました。いい回になりそうです。弓削さん、ありがとうございました。
弓削:こちらこそありがとうございました!