about WTAPS-MILL
〈ダブルタップス〉が1996年のブランド設立当初より製作し続けてきた、アイコンであるユニフォームに対する思い入れやアイデアを突き詰めた新たなカテゴリ。マニアックなこだわりの数々をオーセンティックな表情の内側に込めた、〈ダブルタップス〉が考える究極のユニフォーム。
PROFILE
1993年に〈FORTY PERCENT AGAINST RIGHTS®〉、1996年に〈WTAPS®〉をそれぞれスタート。TOKYOのストリートシーンを牽引し続けるキーマン。2014年からは〈DESCENDANT®〉もスタート。独自のアプローチでライフスタイルを提案している。
ファッションディレクター、スタイリスト。英国の雑誌『モノクル(MONOCLE)』では創刊よりファッションページの基礎を構築。2015年にはファッションディレクターに。2012年より2018年秋まで『ポパイ』のファッションディレクターを務めた。
長谷川:テツさんが軍モノに興味を持ったきっかけってなんなんですか?
西山:最初に軍パンとかに惹かれたのは、アメリカのスケーターとかミュージシャンが穿いてるのを見たからだろうね。靴下がチューブソックス、足元がエアジョーダンとかで、それがアメリカの下半身ということで、強烈に刷り込まれたんだよね。最初はそういうところからだと思う。
長谷川:とくに軍パンって主張があるデザインだから、初めて見たときは強烈ですよね。
西山:そうだね。とにかく限られた資料のなかで、食い入るようにファッションとかを見てたから。メタルっぽい人もいて、そういう人は黒の軍パンでね。あとは上にアメリカの大学のスウェットとかを合わせる人もいたし。カットオフしたパンツにライダースを合わせたりね。
長谷川:いましたね、そういう人。
西山:70年代半ばにナム戦(注:ベトナム戦争)が終わって、サープラスがばーっと市場に出てきたから、一気に広まったんだと思う。
長谷川:そっか。出回るのは戦争が終わってからですもんね。
西山:そう。で、さらに90年代初頭にヒップホップ系の人たちが、NYとかでセットアップで着るみたいな感じになってきたんだよね。
長谷川:マーク・ゴンザレスが穿いてたっていうのも、この形なんですか?
西山:彼が穿いてたのはヨーロッパものなので、アメリカものではないんだよね。そのあとマット・ヘンズリーとかも穿いてたけど、裾とかも細いの。さらにクロップド丈になってる。
長谷川:洒落てますね。
西山:スケーターにとっては安いし、動きやすいし、丈夫だしってことでよく穿いてたんだろうね。払い下げだし。
長谷川:それこそ何百本っていう単位で市場に出てくるわけですもんね。でも、実際にはお金かけて作ってるわけですよね。
西山:うん、それなりに。
長谷川:今回は〈ダブルタップス〉のなかの、「MILL」っていうカテゴリーのパンツとシャツです。
西山:こういう「ジャングル」っていうカテゴリーのものは〈ダブルタップス〉ではブランドを始めた96年にリリースしてるんだけど、時代ごとに少しづつ変わっていくんだよね。90年代の終わりくらいになっていくと、だんだんナローになっていったりと、少しづつモディファイしていて。それが何年か前にブランドのアーカイブの本を出して、そのときに96年にリリースしたものを見てたら、これって今だなって思って。
長谷川:はい。
西山:今のシルエットに近いねっていう話になって、もう一回作ってみようと。でも作るからには原点に戻ろうということで、96年当時に作ったものではなく、これまでにリリースしてきたモディファイものでもなく、最初に作ったときのサンプルになったようなものを引っ張り出してきて作ったものがこれなんだよね。なので、ベースになってるのは80年代のUSのファティーグ。
長谷川:なるほど。
西山:といってもそのままではなくて、モディファイするところはモディファイしてる。こういう軍モノって、年代によって好みがあるんだけど、この年代のものを好きな人ってそんなにいないと思うんだよね。言ってしまえばあまり人気がない型というか。
長谷川:それは本当のマニアの人にとって、ってことですよね。普通すぎてつまらないってことですか?
西山:一番、数が多く流通されてる時代のものなんだよね。『ランボー』とか、80年代前半の軍人といえばこれを着ていますっていうか。そういうひとつのステレオタイプ的な服装だったから、数がありすぎちゃって面白くないんだろうね。
長谷川:うんうん。
西山:自分がアメリカを好きだったのって80年代前半がピークだったから、こういうものにすごく憧れがあったのね。そのなかで、どの部分を本来あるものに忠実に作って、どの部分に〈ダブルタップス〉らしさを入れていくかということが大切で。ポイントは、サイズ、シルエット、生地のコシ。ナイロンを入れてちょっと硬くすることでシルエットが出やすくして、カーゴパンツのサイドポケットは、一回ものを入れるとゴワっと広がるような質感にしてる。
長谷川:僕はこのポケットが広がる感じがすごく好きなんです。
西山:いいよね。それがこのシルエットを出すのに大切で。というのも、これが当時見た軍パンのシルエットだったんだよね。
長谷川:ディテールは変わっているとはいえ、形は昔作ったものを踏襲しているんですか?
西山:そうだね。96年当時に作ったものは、もう少しウエストを絞ってたり、ファスナーに変えてみたりとか、ある程度やりたいことをやってるけどね。
長谷川:そんな風に自由に変えるのって、あんまりないような気がします。みんなもっと忠実に作るというか。
西山:そうだね。
長谷川:それか、もっとわかりやすくディテールを変えるか。一方で、この「MILL」みたいに、わかりにくいディテールで、普通っぽくまとめているのって、聞いたことないかもしれないです。
西山:これまで23年間ブランドをやってきたんだけど、この「MILL」はいろんな人に着て欲しいなって思って、わかりやすい装飾品を外していったんだよね。特徴的なのは、後ろの一本縫いのネームぐらい。ここを見ればわかるというか。〈メゾン マルジェラ〉の刺繍もそんな感じだよね。あとは色をシーズンによって変えたりもしていて、ロットブレみたいなものをあえて出してる。本物のUSモノもいろんな工場で作ってるから、同じシーズンでも色がブレちゃってたりするんだよね。工場が勝手に変えちゃってるものもあって(笑)。そういうのもなんか好きで。
長谷川:いいですね、そういうの。
西山:あと、ロックミシンの始末も雑でさ。でもそれが可愛いらしい魅力になってるんだよね。こういうのって男性しかわからないディテールだと思うんだけど。内装のディテールっていうか(笑)。
長谷川:(笑)。これは日本で作ってるんですか?
西山:うん。
長谷川:なんか日本で作った感じがしないですね。
西山:やっぱり生地だと思う。生地のコシ。あのとき見た生地がこういうやつだったんだよね。「バックドロップ」とかで山積みになってたやつ。
長谷川:生地をクシャってすると、型がつくんですよね。これってなんなんでしょうね。
西山:ナイロンが入ってるからだと思うよ。当時のはナイロンが入ってるものもあれば、コットンだけのもあって。やっぱりロットによって違うんだよね。すごいいい加減(笑)。まぁ「ジャングル」のボトムはだいたいナイロン入ってるよね、リップストップの生地なので。
長谷川:このパンツのトップスって、どれに当たるんですか?
西山:ジャケットはM-65で、シャツはこれだね。シャツも本来は腰がぐっと絞り込まれてて、タックインして着るような仕様なの。腰のあたりにはベルトが付いてたりするんだよね。
長谷川:あー、ありますね。そういうシャツ。で、このシャツはアウターとして外に出して着れるようになってるんですね。
西山:そうだね。袖口はそのままというか大味な感じにしてる。カフスをつけてるわけじゃなくて見返してるだけなので。袖をまくったときに出るシワが結構好きで。
長谷川:うん、いいですよね。あとは今回「AH.H」では撮影してないんですけど、もうひとつのシャツの袖口のディテールも好きです。
西山:“いってこい”の仕様ね。ワークとかミリタリーって工場の都合というか、縫製都合でそうなってたりするんだよね。ようは縫いやすくて楽だから。長谷川くんはそういうディテールが好きなんだと思う。俺もすごく好き。
長谷川:あとシャツの裏地が耳になってたりもしましたね。
西山:うん、あるある。それも当時あったディテールを踏襲してるんだよね。始末しなくていいから工場的には楽っていう。縫製の手間が省けてコストもカットできるし。けど、今それをやろうとすると、むしろ逆に高く付くっていう。
長谷川:(笑)。ちなみにこれは普通のシャツ工場で作ってるんですか?
西山:ジャケットがメインの工場で、シャツも縫えるよっていうところにお願いしてる。「MILL」のアイテムはだいたい同じラインの工場でやってもらってるね。
長谷川:工場によって上手い下手ってやっぱりあるんですか?
西山:そうだね。やっぱりこの手のものは、好きな人はすごく好きだから。そういう人がやると違うよね。
長谷川:そうですよね。ある程度理解がないとできないですよね。
西山:そうなんだよね。仕様とか見たらすぐわかるし、「あぁ、あれね」みたいな。
長谷川:ボタンの内側にブランドのロゴが入ってますよね。これは当時の軍モノにあった仕様なんですか?
西山:いや、それはインラインでは表使いしてるんだけど、「MILL」では裏で使ってるんだよね。
長谷川:へー、面白い。
西山:とにかく一切の装飾を排除したくて、ロゴも見えなくしたの。
長谷川:なるほど。それにしてもこの軍パン、裏側が大変なことになってますね。複雑に沢山のパーツを縫い合わせてる。これ縫うの大変そう。
西山:そうだね。大忙しだと思うよ(笑)。生地は厚いしさ。
長谷川:確かに。ということは、数もやっぱりそんなにたくさんは作れないんですか?
西山:そうだね。けど、このシリーズはインラインとは違って、数を制限していて、どこでも買えるわけじゃないんだよね。だからそんなに作ってない。このパンツはパーツが多いからとくに大変かも。けど「MILL」はコストはあんまり考えず、自由にやったかもしれない。
長谷川:うん、それくらいの方が欲しくなりますよ。あと、これのカットオフしたやつとかいいですよね。
西山:うん、いいね。
長谷川:自分で切る勇気はないから、切ったやつを出して欲しいです(笑)。あと黒もありますよね。
西山:うん。2色展開。なかでも、OD(オリーブドラブ)は基本。
長谷川:同じODっていっても微妙に違いますよね。
西山:そう、結構いろんな種類があるね。
長谷川:ちなみに裾にある紐ってどうするのが正解なんですか?
西山:好みだと思うけど、俺は引っ張って絞るね。けど、このグログランテープって滑るんだよね。でも本物もこれなの。先端が当たるとチクチクして痛いし、どうしたもんかなって思ったんだけど、これを変えちゃうとちょっとね。
長谷川:そうなんです。この余計な、どうしたもんかっていうくらいが魅力的なんですよね。
西山:けど、このへんはほとんど絶滅危惧種だね。好きで作ってる人はいるけど、それ以外はまず見ないし。
長谷川:そういえばこないだデジタルカモの軍パンを買ったんですけど、普通の軍パンと全然ディテールが違うんですね。
西山:うん、違うね。
長谷川:今の軍パンってウエストに紐が入ってるのが当たり前で。それがちょっと衝撃でした。
西山:それも国によって違ったりするんだよね。イギリスとかはトラッドでかっこいい。タックが入っててヒップのあたりがちょっと細身で。やっぱり洋服の国が作ってるんだな、っていう感じがする。
長谷川:生地も違いますよね、ちょっと柔らかかったり。けど、僕はこのへんのごわっとした感じが一番好きですね。そして何よりもポケットですね。とにかくポケットがすごく立派です。
西山:それは多分ポケットにも共地を使ってるからかな。普通はもっと安い生地を使ったりするから。
長谷川:あ、確かに。
西山:共地を使わないと、腰ポケット含めて腰回りのがっしりした感じが出ないんだよね。
長谷川:そういうことなんですね。ポケットに手を入れた時にボコってなる感じがさすがだなと思います。けど、こんな服を作っているデザイナーには初めて会ったかもしれないです。
西山:まぁサブカルが詰まってるよね、この服には(笑)。
長谷川:積み上げてきたものが生地感に出てるっていう(笑)。だいたいデニムとかもそうですけど、ウンチクの方向にいくと、それが時代考証とか、正しいかどうかっていう話になってきちゃって。そうなると急に窮屈に感じるんです。
西山:うんうん。
長谷川:だからそうではなくて、都合のいいところを寄せ集めているのだとしたら、よりそこが今っぽいなって気がします。
西山:長谷川くんもアメリカ好きだよね。
長谷川:好きですね。世代的なものなんですかね。
西山:アメリカに影響されてるっていうのは、俺たちの共通点かもしれないね。
長谷川:昔、アメ横にものすごく通ってましたからね。ありとあらゆるお店でアメリカ製の服を探して。「中田商店」にもよく行ってたんですけど。いまそういうお店ってほとんどないですよね。
西山:そうだね。そういうところってとくに買うものはないんだけど、たまに行っちゃうよね。
長谷川:わかります。なんか確認しに行っちゃうんですね。
西山:海外に行ったらどういう店に行くの?
長谷川:サープラスショップとかそういうとこですね。そこでデカい服をさがすっていう。
西山:デカければデカいほどいいんでしょ?
長谷川:そうです。前に買ったかもって思いつつ、またワークシャツを買うっていう(笑)。だから新品のお店というか、ちゃんとしたファッションのお店には行かないかもしれないですね。
西山:そっか。
長谷川:〈ダブルタップス〉の仕事を多くさせてもらっているせいなのか、なんなのか、ODの服が気になって仕方ないんです(笑)。黒の〈ヴァンズ〉も合うんですけど、当然、同色も合うだろうからずっとODの靴を探しているんですけど、意外となくて。そしたら〈ニューバランス〉の「993」のODっていう昔のやつが、吉祥寺の「ジ アパートメント」で売っていて。久々に見たら欲しくなって買いに行ったんです。自分で履くにはサイズが大きいんだけど、〈ダブルタップス〉の撮影で使おうって買いました(笑)。
西山:ありがとうございます(笑)。
長谷川:なかなかオリーブの靴ってないんですよね。
長谷川:とにかく最近ODが気になってしょうがないんです。これが自分だけなのかどうかもわからないんですが。けど、ODのパンツってけっこう合わせやすいですよね。
西山:言われてみるとそうだね。
長谷川:あとは新鮮なんですよね。今、意外と軍パンを穿いてるひとってそんなにいなくて。でも、たまに若い子で見かけるんですよね。そうすると「あ、この子やばいなって」。
西山:どういうこと?
長谷川:同じようなシルエットの服を買い続けていくと、いつのまにか自分のフォルムが一定の形になっていくと思うんです。今、カッコいい男の子たちは、90年代後半から2000年代初頭のフォルムをしている子がけっこう多くて。そういう子のなかには、軍パン穿いて、ちょっと大きめのスウェットを着た、今回のスタイリングみたいなフォルムになってる子もいるんですよね。たぶん「ジ アパートメント」とか「プロップスストア」とかで軍パンを買ってるんだと思うんです。
西山:新鮮だよね。
長谷川:50人に1人くらいですけど。けど、それくらいがちょうどいいっていうか。多すぎるとちょっと違うかなって。今ってこういう服を売ってるお店ってあんまりないと思うんですよ。だから「プロップスストア」とかに行ってる人以外は買えないと思うんです。あとは「中田商店」とか。昔は軍パンってダサい人も穿いてたと思うんですけど、今ってダサい人は絶対穿いてないんですよ。
西山:なるほどね。
長谷川:だからかっこいいのかも、たまに見る50人に1人っていうのが。完全に狙って穿いてるし、90年代後半のスタイルに憧れて穿いてるんですよね。
西山:昔はいっぱいいたもんね。
長谷川:はい。…って、ますますよく見えてきちゃいました。
西山:いろいろ引き出していただいてありがとうございます(笑)。
長谷川:このパンツの魅力が丸わかりですね、今回は(笑)。このシリーズはしばらくは続けていくんですか?
西山:そうだね。しばらくは続けたいなって思ってる。