AKIO HASEGAWA. HOUYHNHNM

2022.12.1 Up
Focus on

気になる服とか人とか。

Vol.46
LORO PIANA
最高品質のウール、カシミヤといえばすぐに名前があがるのが〈ロロ・ピアーナ(LORO PIANA)〉。古くはテキスタイルメーカーとして、そしてこの数十年はエレガントなウェアやライフスタイルを発信するラグジュアリーブランドとしても圧倒的な輝きを放っています。ブランド定番のスカーフ(マフラー)は最高級のカシミヤで作られている銘品。今回はその丁寧で緻密なものづくりのお話です。

about LORO PIANA

1924年に創業したイタリアのテキスタイルメーカーであり、ラグジュアリーブランド。最高級の原材料から最高級の製品を作り出す妥協なきクリエイションは、長年に渡り世界中から篤い支持を集めている。

フイナム:〈ロロ・ピアーナ〉はウール、ビキューナ、カシミヤ、さまざまな獣毛を取り扱っているブランドですが、どれもこれも最高級というイメージです。

長谷川:カシミヤはいろいろなブランドが扱っていて、みんな自分が最高級だって言うじゃない? でも素人にはどれがどの程度すごいのかがあんまりよくわからないよね。そういう意味では〈ロロ・ピアーナ〉は、カシミヤの卸が本業で、いろんな高級ブランドに卸しているわけだから、当然、品質に偽りがないはずだし、普通に考えて自社製品にこそ、世界最高峰な一番の糸を使っているはずだよね。

フイナム:たしかに。

ロロ・ピアーナ:ありがとうございます。ご存じかと思いますが、カシミヤは主に内モンゴルなどの寒暖差の激しい高地で育つヤギの毛のことを指します。〈ロロ・ピアーナ〉では、ヤギの毛を櫛で梳かして、櫛に残った毛から汚れを取り除いて、 さらに外側の毛を取り除き、内側のふわふわの毛だけを使っています。

フイナム:一口にカシミヤっていっても、色々あるってことですよね。

ロロ・ピアーナ:そうですね。ヤギの外側と内側の毛質は結構違うんですが、〈ロロ・ピアーナ〉が良しとする素材は、内側のすごく柔らかい毛のみなので、 そういう意味では差はすごくあると思います。

長谷川:“すごくいいところだけ”を選んで使ってるんですね。

ロロ・ピアーナ:はい。なので、クオリティとのバランスを考えると、価格はそこまで高くないんじゃないかと思います。ちなみに、今回スタイリングに使っていただいている長谷川さんの私物のセーターは、とくに希少なベビーカシミヤでできています。

フイナム:子供のヤギの毛っていうことですよね。

ロロ・ピアーナ:生後12ヶ月以下の子ヤギのアンダーフリース(内側の毛)だけを使っています。以前は、子ヤギと大人のヤギの毛をいっしょにしていたんですけど、それを分けて“ベビーカシミヤ”というのを作ろうという声が、あるとき上がったんです。

長谷川:へー、そうなんですね。

ロロ・ピアーナ:けど、分けるのにすごく手間がかかるということで、現地のブリーダーと交渉して実現するまでに10年かかったと言われています。

フイナム:ベビーカシミヤという概念というか、カテゴリーを生み出したのが〈ロロ・ピアーナ〉なんですね。

ロロ・ピアーナ:はい。2018年にベビーカシミヤ10周年記念があったので、わりと最近の話なんですが。

長谷川:ロロ・ピアーナって人の名前なんですか?

ロロ・ピアーナ:はい。創業者がロロ・ピアーナ・ファミリーなんです。今の会長は、ピエール・ルイジ・ロロ・ピアーナです。

フイナム:一族経営ってなんかいいですよね。

ロロ・ピアーナ:元々は毛織物業だったんですけれど、 だんだん世界の希少な素材を求めて旅をするようになって、そのうちにヨットや、乗馬、ゴルフをやるようになり、洋服などを作るようになってきたという流れです。それが1980年代のことなので、それまでは本当にテキスタイルメーカーでした。今でも会社のなかに、完成品を売るチームとテキスタイルのチームがいます。

フイナム:高級スーツの生地なんかにもよく使われていますよね。ちなみに長谷川さんは、以前私物のベビーカシミヤを紹介していましたよね。

長谷川:カシミヤとウールっていう、天然繊維にずっと興味を持っていて。化繊は好きじゃない。天然の繊維なのに吸湿速乾とか、機能性があるところがすごくない? だから夏にウールのTシャツも買ったよ。あれは具体的にどういう製品なんでしたっけ?

ロロ・ピアーナ:「ザ・ギフト・オブ・キングス®」というものなんですけど、普通の羊毛ってだいたい13ミクロンぐらいが最細なんですけど、「ザ・ギフト・オブ・キングス®」は約12ミクロンと言われています。自分で餌を取りに行ったり、外で暮らしていると、だんだん剛毛になってくるんですけど、ものすごく過保護に大事に育てると、細い毛になっていくみたいで、その細い毛を柔らかく織ったのが「ザ・ギフト・オブ・キングス®」です。

長谷川:12ミクロンってすごい細いですよね。アウトドア業界のウォッシャブルメリノウールって、大体18.5ミクロンくらいらしいんです。でも、本当は17.5ミクロンがベストって言ってたような気がします。でも、結局そのクオリティをみんな出せないらしくて。値段が高くなってしまうから。

ロロ・ピアーナ:カシミヤでもウールでも、細い糸ってすごく柔らかいので、扱いづらいという一面もあります。縫製すると縫い目がよれてしまうというか。

長谷川:あれって、クルクルしてない羊の毛なんですか?

ロロ・ピアーナ:クルクルした羊毛はまたちょっと違うんです。あれだと細さにムラが出るというか。

フイナム:そうなんですね。

長谷川:ウールって、毛がクルってなってるから縮むんだって。だからウォッシャブルメリノウールっていうのは、糸がまっすぐな状態らしいんだよね。

フイナム:ひと手間かけてるってことですか?

長谷川:コーティングをしているんだと思う。あとカシミヤの毛も、わりとまっすぐらしいよ。〈ロロ・ピアーナ〉ではこういうことをあんまり言わないと思うんだけど、カシミヤって洗ってもあんまり縮まないって聞いたことある。

〈LORO PIANA〉SCARVES 「GRANDE UNITA(SIZE:175 x 43 cm)」¥73,700

フイナム:今回の主役は、このスカーフなんですが、これはさっき話しに出たベビーカシミヤではないですよね?

ロロ・ピアーナ:はい。大人のカシミヤになります。 「グランデ・ウニタ」というブランドを代表するクラシックなカシミヤ・スカーフです。スカーフといいつつ、日本の方がよくおっしゃるマフラーの定番的なサイズがこちらになります。

長谷川:大人のカシミヤとベビーカシミヤで、使っていくと何か違ってくるんですか?

ロロ・ピアーナ:使っていくと変わってくるというより、使ってるときに感じる軽さとか肌触りが、やっぱり違います。カシミヤも、もちろんすごく柔らかいんですけれど、 ベビーカシミヤはさらに軽くて、保温性がものすごく高いので、タートルネックのニットとかを着て電車に乗ってしまうと、危険なぐらいあったかいです。

長谷川:わかります。銀座線とかめちゃめちゃ暑いですよね。汗だくになったりします。

ロロ・ピアーナ:このスカーフは、大人のカシミヤを使っていますけど、当然内側の毛を使っていますので、すごく柔らかくて軽くてあったかいです。

長谷川:表面の感じが特徴的ですよね。

ロロ・ピアーナ:フリッソン仕上げと呼んでいます。

フイナム:フリッソンは、ざわめき、そよぎという意味でした。

ロロ・ピアーナ:表面に波打つような光沢があるのが特徴なんです。

長谷川:こないだセーター工場に見学に行ったんですけど、そこにはセーターの表面を掻く機械があって、なかに入れるとぐるぐる回って毛羽立たせていくんです。シャギードッグセーターって、そういうふうに作っているみたいで。このスカーフは、一回掻いてそのうえで表面を少しプレスしてるのかもしれないですね。

ロロ・ピアーナ:おっしゃるように毛羽立たせたのを最後に落ち着かせて具合を整えると、うねりというか独特のなみなみした光沢が出るんです。

〈ロロ・ピアーナ〉オリジナルのブロック体フォント。

長谷川:刺繍を入れられるサービスは、一年中やってるんですか?

ロロ・ピアーナ:いえ、期間が決まっています。11月から2月末までの4か月ぐらいで、今年で3回目のサービスになります。

フイナム:対象商品はこのスカーフだけなんですか?

ロロ・ピアーナ:こちらは期間中にさまざまなサイズのカシミヤスカーフをご購入された方に無料で行っているものなんですけど、それ以外でもイニシャル刺繍が可能な、定番のニットやパンツがあります。

長谷川:あ、これは無料なんですね。けど、この刺繍って、失敗できないから大変ですよね。Tシャツとかだったら、たいしたことないですけど。

フイナム:たしかに。高額ですし、緊張感が違いますよね。

長谷川:ニットに刺繍するのって難しいらしいよ。

ロロ・ピアーナ:そうですね。あまりいじったりすると毛羽立ってしまったりするので。

フイナム:基本、同色の刺繍なんですか?

ロロ・ピアーナ:はい。一昨年までは、色を選べたんですけど、昨年よりトーンオントーンの控えめなイニシャル刺繍をご提案しています。

〈LORO PIANA〉SWEATER「BABY CASH SUPER」AKIO'S OWN

フイナム:長谷川さんの私物のセーターには、ヨットなどで使う信号旗が入っています。

長谷川:そうそう。これでA Hっていう意味なんだよね。

ロロ・ピアーナ:今回「AH.H」さんからオリジナルのフォントを使えないですか?というご相談を頂きましたけど、そういうことも今後できたらいいなとは思います。

フイナム:そうですね。〈ロロ・ピアーナ〉が少し身近になる気がします。

ロロ・ピアーナ:ちなみにさっきのスカーフの刺繍は、銀座店ではだいたい1時間くらいでお渡しできるんですけど、この信号旗などの刺繍はご注文をお受けしたら、イタリアで刺繍することになるので、少々お時間をいただきます。

長谷川:たしかに、このセーターも1〜2ヶ月くらいかかったと思います。色も選べたんですが、あえてインラインでもやっているベーシックなネイビーにしました。ネイビーしか着ないので。

ロロ・ピアーナ:おっしゃる通り、商品の展開にはない色も選べて、型も10個ぐらいから選べるというプログラムなんです。

フイナム:それってほぼオーダーメイドですよね。

フイナム:〈ロロ・ピアーナ〉はイタリアに自社工場を持ってるんですか?

ロロ・ピアーナ:はい。紡績から織りや縫製まで、すべてを自社工場で賄っています。創業の地が北イタリアにあるんですけど、そこのヴァルセージア州というところに紡績工場があって、織りの工場はまた別のところにあって、あちこちに点在しています。

長谷川:北イタリア、昔撮影で行きました。ドイツ語の道路標識があったのを覚えてます。

ロロ・ピアーナ:ドイツ語圏のスイスに近いからだと思います。本社はミラノにあるんですけど、工場の近くに住んでる人もいます。そういう人たちは週末、スイスにスキーに行くみたいですね。

長谷川:ちなみに、原毛の段階でイタリアに入れるのと、製品にしてからイタリアに入れるのでは、税金が違うんですかね? 産地で作ってもいいのに、わざわざイタリアに持っていくというのは、そういう事情があるのかなって。

ロロ・ピアーナ:というよりも、例えば原毛を糸にする紡績という工程には設備がすごく必要になってくるので、それを一から作るよりはもともと工場があるところでやった方がいいということだと思います。

フイナム:イタリアのニット工場ってものすごくレベルが高いって聞きます。

ロロ・ピアーナ:そうですね。ちなみにこれはビキューナの話ですけど、原毛を運ぶときにはトラックで隊列を組んで、前後にセキュリティの車をつけて行くんです。治安がいいところではないですし、すごく希少な繊維なので。

フイナム:たしかにすごい金額になりますよね。

ロロ・ピアーナ:はい。何百トンという単位で運ぶので。

長谷川:何億とかになるんじゃない?

フイナム:末端価格で考えたらもっとすごいことになりそうですよね。

ロロ・ピアーナ:カシミヤもそれに近い感じでトラックで原毛を取りに行って、イタリアに運びます。

フイナム:そのヤギの生息地って、主にモンゴルでしたっけ?

ロロ・ピアーナ:モンゴルと、あとはチベットですね。寒暖の差が大きい場所なので、昼は乾燥していて暑くて、夜は季節によってはマイナス何十度の世界になります。だからヤギは自分の体を守るために、内側にすごくあたたかい毛を生やすんです。

フイナム:長谷川さん、こういうマフラーってよくしますか?

長谷川:するよ。出張とかって、行った先の気温が意外とよくわからないじゃない? 朝がやたら寒いとか。そういうときにこういうのがあるとすごく便利だよ。コットンのも持ってるし、昨日もしてた。

フイナム:カシミヤも何個か持ってます?

長谷川:うん。カシミヤと、あと他にもなんか持ってた気がする。

ロロ・ピアーナ:日本で買われるんですか?

長谷川:そうですね。日本で買います。

フイナム:ネイビーばっかりですか?

長谷川:そうだね。でも、意外とネイビーってないんだよね。やっぱり黒とかが多くて。

ロロ・ピアーナ:うちは黒が元々ないブランドなので、逆ですね。

長谷川:へぇ。黒がほとんどないってカッコいいですね。濃いネイビーがあれば、黒はなくても大丈夫ですからね。僕はネイビーが好きなんで、ネイビーがないと買わないというか、買うものがないから行かなくなってしまいます。

ロロ・ピアーナ:そうなんですね。〈ロロ・ピアーナ〉は昼間のブランドと言われていて、夜の服がないんです。唯一「オペラ」という大判サイズの黒いストールがあるんですけど、それはオペラに行くときに羽織れるように、というものなんです。

長谷川:へぇ。でもネイビーがあるのはいいですね。

ロロ・ピアーナ:同じものが変わらず、ずっとあるんです。なので「このセーター、20年間着てたんですけど、これに似たのありますか?」「いや、同じのがあります」というやりとりなんかもあるんです。

長谷川:シンプルなデザインってところがいいですよね。ブランドって何かをしないと成り立たないんですよね、それなりの装飾をしないといけないというか。でも、それがなくても成り立つのは、素材に愛情があるってことですし、そこを信じているということだと思うんです。製品に確固たる自信があって、それを伝えようとする姿勢って、買う側にも伝わると思うんです。

ロロ・ピアーナ:ありがとうございます。とくに定番アイテムには、特徴的なデザインはなにもないんです。

長谷川:別のブランドの話なんですけど、お店にすごく質のいい無地のクルーネックセーターがあって、その横にちょっとしたラインが入ってるセーターがあると、ライン入りの方が売れるらしいんです。やっぱりブランドものだってわかったほうがいいわけですよね、みんな。

フイナム:そこまでお金をかけるのであれば、ってことなんですかね。

長谷川:でも、そこまでお金をかけるからこそ、無地でいたいって思うんだけどな。そう思うのはファッション業界の人だからなのかな。

フイナム:こういうシンプルな〈ロロ・ピアーナ〉のアイテムを買う人はどんな方なんですか?

長谷川:相当洒落た人なんじゃない?

ロロ・ピアーナ:意外に若い方もいらっしゃいますし、あとはスポーツ選手にもこだわる方は多くて結構いらっしゃいますね。やっぱり身体に心地いいものを、という部分では敏感なのかもしれません。

長谷川:ずっと着れますからね。さっきのずっと同じものが買えるっていうの、すごくいい話だと思うんです。

ロロ・ピアーナ:あとは自分のために服を選んでる方が多い気がします。人に褒められなくても別にいい、みたいな。 わりとエスタブリッシュされた方が多いかもしれません。

長谷川:このメディアでは、やっぱりこういう普通なものを扱いたいんです。でも、あんまりそういうが世の中にないので、すごく嬉しいです。

ロロ・ピアーナ:ありがとうございます。普通すぎてどうしたらいいのかわからないぐらいベーシックなものばかりなので、そう言っていただけると、すごく嬉しいです。

スカーフ刺繍サービス

期間:〜2023年2月28日
会場:ロロ・ピアーナ銀座店をはじめとする全店舗
電話:03-5579-5181(銀座店)

ロロ・ピアーナ ポップアップストア

期間:2022年12月7日(水)~13日(火)
会場:伊勢丹新宿店 メンズ館1階 ザ・ステージ
住所:東京都新宿区新宿3-14-1

INFORMATION

ロロ・ピアーナ ジャパン 03-5579-5182 www.loropiana.com

STAFF

Direction&Styling_Akio Hasegawa
Photo_Seishi Shirakawa
Hair_Kenichi Yaguchi
Edit_Ryo Komuta、Shun Koda

CONTENTS

TAG SEARCH

ARCHIVES