about Levi's® 501®
来年、2023年の5月20日にジーンズ誕生150周年を迎える〈Levi's®〉のなかでも、長年アイコンとして君臨し続ける、ご存知永遠のマスターピース。
フイナム:ベーシックなボトムスの代名詞である〈Levi's®〉の「501®」なんですが、最近だとどんな感じで合わせるのがいいんですかね?
長谷川:まぁ、普通に着るのがいいんじゃないかな。ただ、細身ではあるし、少し大人っぽく着るほうがいいかもね。
フイナム:あんまり奇をてらわずに、ってことですね。今回は意外と知ってそうで知らないかもしれない「501®」について、〈Levi's®〉の方に色々聞いてみたいと思います。そもそも「501®」ってちょこちょこシルエットが変わってますよね。
リーバイス:はい。常に変わっていて、実は5~10年に一回は変わっていました。ただ最近は「501®」でもスリムテーパーなどの様々なフィットが出てきているので、「501®」オリジナルのモデルチェンジに関してはここ数年はありませんが、またあるかもしれないですね。
長谷川:それって何でなんですか?
リーバイス:その時代、その時代におけるど真ん中のストレートっていうことなんです。だからどの時代にあっても、今の気分じゃないよねっていうものにはならないようにしています。
フイナム:なるほど。そもそも「501®」が変化し続けてるって、みんな知ってるんですかね?
長谷川:うっすら気づいてはいるんじゃない? だって〈LEVI'S® VINTAGE CLOTHING〉が年代ごとにいろいろ違うモデルを出してるわけだし。「ん?」って思ってるひとはいると思う(笑)。
長谷川:いまの「501®」って、完全なストレートではないですよね。
リーバイス:そうなんです。実はちょっとテーパードしてます。もちろん基本的にはボタンフライのストレートなんですけど、さっきも言ったように、そのときの気分に合わせたフィットになってるので。アイコンであり、概念的なモデルなんです。
長谷川:けど、トレンドを汲んでプロダクトに落とすまでって結構時間がかかると思うんです。それってどんな風にやっているんですか?
リーバイス:それでいうと、細かなトレンドというよりも大きな潮流を形にしている感じなんです。私たちは自分たちのことをスローファッション、つまりファストファッションの対極にあると言い切っているくらいなので。
フイナム:ちなみに最近はオーバーサイズが流行ってますよね。
長谷川:たしかに。なんでもっと大きいフィットにならないんですか?(笑)
リーバイス:最近のそういう流れに対しては「501®」以外で、太いモデルがいろいろ出ています。「501®」を太くしていくのではなく、そのほかのモデルで対応していくという感じですね。
フイナム:なるほど。アイコンだけに、そんなに極端に太くしたり細くしたりはできない、というかしないんですね。
フイナム:いつも長谷川さんがスタイリングで使うボトムに比べると、やっぱり少し細い気がするんですが、実は今回サイズが40インチのものを使っています。
リーバイス:基本は36インチまでの展開なんですが、「00501-1484」と呼ばれるこのリンスカラー(ワンウォッシュ)は常にある定番なので、店舗限定ではありますが、44インチまで展開があります。
長谷川:44インチってやばいですよね(笑)。
リーバイス:しかもその44インチが売れちゃってまして、今ご用意できる一番大きいサイズが40インチでした。。
フイナム:「AH.H」で太いボトムに慣れすぎてるせいだと思うんですけど、もはや36インチでもあんまり太く思えないです(笑)。
長谷川:そうなんだよね。
フイナム:ちなみに今回は40インチのウエストを、4インチ詰めてもらっています。
リーバイス:うちの「テーラーショップ」では様々なお直しに対応できるんですが、ウエストを詰めるのは4インチが限界でした。それ以上だと、お尻とのバランスがおかしくなってしまうみたいで。
長谷川:まぁそうですよね。けど「501®」をどう履くかっていうことを考えると、やっぱりサイズバランスを変えていけるといいなって思うんです。アメカジの考え方ってどこかそういうところがあるじゃないですか。サイズバランスを変えることで、違う見え方にしていくというか。古着なんかもそういうことだと思うんです。
フイナム:そもそも長谷川さんは「501®」穿いてたんですか?
長谷川:高校生の頃すっごい穿いてたよ。「メトロゴールド」で買ったやつ。当時は古着だとユーズドとオールドっていう言い方をしていて、オールドだとちょっと高かったんだよね。ヴィンテージっていうほどのものではなかったんだけど、ちょっと古くて価値がありそうなものはオールドって呼んでたような感じだった(笑)。
フイナム:じゃあヴィンテージほど高くなかったんですね。
長谷川:そう。高校生でも頑張れば買えるくらい。たしか3万円くらいだったかな。そのときもちょっと大きいサイズが流行ってて、当時はジャストで29インチだったんだけど、34インチくらいのを無理やり穿いてたな。ウエストをベルトでキュッと絞って。
リーバイス:当時は何を合わせてたんですか?
長谷川:靴は〈REDWING〉とかでしたね。まさに渋カジとかそういう時代だったので。それにカウチン(セーター)を着たり。
フイナム:カウチン!
長谷川:よく着てたよ。あと古着じゃない「501®」も穿いてたな。
フイナム:それってアメリカ製なんですかね?
長谷川:だと思うよ。もう30年くらい前の話だからね。。
リーバイス:90年代初頭ですよね。となると、アメリカ製以外もあったと思うんですが、日本では基本アメリカ製を輸入してたはずです。
長谷川:それから1~2年くらいしてから、(Polo Ralph Laurenの)ビッグポロとかが出てきたんだけど「501®」を穿くときはちょっとタイトなスタイリングになってましたね。それはそういうものとして受け入れてたというか。
フイナム:けど、ビッグポロみたいなのを着て、ボトムスに大きいのを穿いたら、、
長谷川:いまとあんまり変わんないね(笑)。
フイナム:今回はごくごくベーシックなアイテムと一緒にスタイリングしていますが、足元は革靴ですね。
長谷川:こういう濃い色のデニムには革靴を合わせたくなるんだよね。しかもけっこうきっちりしたものを。
リーバイス:素敵です。スニーカーに合わせるスタイリングがやっぱり多いので、新鮮です。
フイナム:〈J.M.WESTON〉ですね。
長谷川:そう。この茶色がすごくいい色だなって思ってて。ライトなブラウンなんだけど、独特の色味で。あとこの「ヨット」っていうモデルも好き。革靴なんだけど、ソールがゴムなところがいいんだよね。
フイナム:「ヨット」っていうぐらいなので、デッキシューズ的な感じなんですよね。
長谷川:そうだね。〈Timberland〉みたいな感じ。〈Timberland〉の「3-EYE CLASSIC LUG」もいいんだけどね。
フイナム:今回はせっかくなんで、裾のこなし方についても聞いてみたいです。長谷川さんといえば、裾とか袖とかをぐしゃぐしゃって、ラフにまくるスタイリングですよね。代名詞というか。
リーバイス:確かにそう言われると、そうかもしれないです。
長谷川:僕がスタイリストになりたいって思ったきっかけはそれですからね。僕の師匠が『POPEYE』でビッグポロとかビッグチノをくしゃっとロールアップしてたんです。おそらく洗ってある感じの質感で。それを高校生の時に見て、めちゃくちゃかっこいい、僕もこれをやりたいって思ったんです。
リーバイス:そうなんですね!
フイナム:まくり方、シワの入れ方にはいつもめちゃくちゃこだわってますよね。
長谷川:気になっちゃうんだよね。でも、シワなんて歩いてると落ちてきちゃうからね。けど写真におけるシワの美学っていうのがあって。とにかく裾にしろなんにしろ、カチッとなってるのがあんまり好きじゃなくて。スーツは別だけど、カジュアルな服はちょっとヨレッとなってる方がいいなって思うんだ。
リーバイス:わかります、その感じ。
長谷川:あと裾を折り返すにしても、(ロールアップ幅が)長いのはなんかいやで、こんな風にちょっと短めのレングス、靴下が見えるくらいの感じで穿けるといいなって思います。
長谷川:〈Polo Ralph Lauren〉とか、〈J.CREW〉なんかも、いい感じに見えるのは、なにかやってるんですよね。洗ってあったり、裾をまくってあったり。そういうのがアメリカンカジュアルの魅力だったりすると思うんです。
リーバイス:たしかに。そういうVMD(ビジュアルマーチャンダイジング)でしたね。
フイナム:洗いの重要性ってありますよね。
リーバイス:洗うと大きなシワというよりも、細かいシワが出ますよね。
長谷川:はい。その細かいのが大事なんです、とくに写真では。けど、糊がついてピチッとしたジーンズの良さもありますけどね。
長谷川:そもそも「501®」ってどういう風に作ってるんですか? だっていろんなひとに合うようなモデルじゃないといけないわけじゃないですか? 微妙に違うサンプルがたくさんあって、それをいろんなひとが穿いてみて検証していく感じなんですか?
リーバイス:アーカイブがとにかくたくさんあるので、まず大きなテーマを決めて、それに類するモデルを持ってきて、それを現代的にアレンジしていくっていうやりかたです。0から何かを作るんじゃなくて、何かをベースにして作っています。
長谷川:けど、裾幅とかの黄金比なんかはありそうですよね、
リーバイス:そうですね。
長谷川:パンツが難しいなって思うのは、穿く人によって全然違う感じになることなんです。やっぱりお尻がある程度出てないと、形があんまり形が綺麗にならないんですよね。アジア人と欧米人では全然体型も違うし。
リーバイス:それでアジアンフィットっていうのがあるんですが、面白いのは、アジア人の穿き方が世界に影響を及ぼすこともあるんです。
フイナム:へー、そうなんですね。
リーバイス:はい。欧米の人が真似できない着方、穿き方っていうのもあるんです。
長谷川:たしかに。僕たちがあのアメリカンアフリカンのデニムの穿き方かっこいいと思っても、できないのと一緒ですよね。
リーバイス:いま、長谷川さんが「501®」を穿くなら、どういうサイズ選びをしますか?
長谷川:ちょっと前に「BEAMS」がレングスを短めにした「501®」を出してたじゃないですか。あれとか面白いなって思いましたけどね。レングスが短いので、裾の味出し加工した部分を丈詰めしなくて済むっていう。
フイナム:ありましたね。あれは全部レングスが28インチでした。
リーバイス:はい。ちなみに「501®」のレングスは基本32インチです。
長谷川:ちょっと腰履きするとなると、僕くらいの普通の身長だと、28インチくらいだとちょうどよかったりするんです。30インチだとちょっとズルっとしちゃうんですよね。
リーバイス:最近だと、裾をまくらずにたまらせて穿くっていうのもあります。
長谷川:僕もチノとかバギーみたいなデニムだと、スリークッションくらいさせるんですけど、「501®」だとあんまりたまってない方が好きで、ロールアップしちゃうんですよね。
フイナム:それでちょっと短めの丈にする。
長谷川:そう。むしろレングスそのものがちょっと短めだったら、そのままで穿きたいくらい。
リーバイス:その気分はなんかわかります。
長谷川:昔〈HELMUT LANG〉のルックに、こういう色味のちょっと短めの丈のデニムで、上に普通のシャツを着てたのがあったんですけど、あの感じがすごく好きだったんですよね。ペンキが飛んだジーンズに、黒のプレーントゥみたいな。
リーバイス:懐かしいですね。90年代後半ですね。
長谷川:はい。96~97年とかそれくらいだったような気がします。ちょうど同じ頃にマルジェラが真っ白のペンキデニムとか出してましたけど、僕はラングの自然な感じの、80年~90年代のアメリカ人がよく穿いてた、なんでもないジーンズをうまくやってたのが好きでしたね。
フイナム:あれ、すごく良く見えましたよね。
長谷川:うん。あんまり頑張ってない感じというか、ラフな感じがいいような気がして。
フイナム:それにしてもこのデニムと、少し前に長谷川さんが「BEAMS」と作った〈New Balance〉の、グレーともブルーとも取れる色合いのスニーカーはよく合いますね。
リーバイス:たしかに。そのために作ったのかっていうぐらいマッチしてます。
長谷川:僕の先輩に岸さんっていうライターがいるんですけど、そのひとがよく〈New Balance〉の「1300」とか、2000番台とかを履いてたんです。そのひとがこういうちょっとブルーグレーっぽい色のスニーカーに、薄めの「501®」をよく合わせてたんです。その感じがかっこよくて。そのイメージですね、このスタイリングは。
フイナム:ちょっと短めの丈ってことになると、やっぱりソックスも気になります。長谷川さんといえば、ソックスの鬼ですし(笑)。
長谷川:そうだね(笑)。たしかにソックスはたくさん持ってる。
リーバイス:あ、ソックス何合わせるか気になります。
長谷川:これはいま〈yahae〉と作ってるソックスなんです。
リーバイス:かわいい! なんか手編みみたいですね。
長谷川:オーガニックコットンの落ち綿で作ってて、ガラ紡っていう昔の機械で編んでるんです。今まではアメリカの〈WIGWAM〉がすごい好きだったんですけど、こっちの方が全然肉厚なんです。すごい気に入ってて、よく「AH.H」で使ってたら一緒にものづくりできることになって。
リーバイス:なんか色もデニムとスニーカーに合ってますね。
長谷川:そう、実はこのスニーカーの色に合うように作ったものなんです。さらに、このスニーカーと靴下に合うような靴紐も今開発してて。
リーバイス:えー、めちゃくちゃいいですね。
長谷川:ありがとうございます。そういえばスティーブ・ジョブスさんも、なんかこんな色のデニムを穿いてましたよね。
リーバイス:たしかに。彼はいつも同じ格好をしてましたよね。ちなみに〈Apple〉のワイヤレスマウスは「501®」の上をちゃんと滑るように作ってくれ、っていうオーダーだったらしいですよ。
フイナム:へー。面白い。
長谷川:ではこのスタイリングは、ジョブズ気取りの少年ということで(笑)。
フイナム:今回は「501®」を軸に、長谷川さんの歴史なんかにも話が及びました。『POPEYE』から長谷川さんのスタイルを知った方は、ずっと大きい服を着てたって思うかもしれませんが、そんなことはないってことですね。人に歴史ありというか。
長谷川:そうだね。スケーターとかもピタピタの時代があったしね。「こんなに大きい服じゃ滑れない」って言われたこともあったよ。今はまったく逆だもんね。だから「普通」の概念って時代によって全然変わるんだよね。
リーバイス:その通りですね。
長谷川:時代によってフィーリングって変わっていくので、時代ごとに求められるニーズ、それがたぶん普通ってことだと思うんですけど、そこを変えずにかたくなに同じでいるっていうことは、逆に普通じゃないってことだと思うんですよね。
フイナム:普通でいるために、変わり続けるってことですよね。不易流行というか。
リーバイス:私たちが考えてる普通の概念が、デニムが生まれた約150年前とはまったく違いますもんね。
長谷川:そうですね。あと人って、極端なものに目がいきがちなんですが、よく見てみると実は地味なものの方がよかったりすることってあると思うんです。靴にしても時計にしても、服にしても。最初は派手なものに惹かれたりするけど、長続きしなくて、削ぎ落とされていった結果「これでいっか」みたいなところに落ち着いたりするわけで。それくらいのものの方が実は計算されていて、しっくりくると思うんです。
リーバイス:それって、最高の「これでいっか」ですよね。
長谷川:はい。僕もいつも同じように見えて、いろんなものを見たなかでやっぱり「これでいっか」ってなってるので(笑)。