AKIO HASEGAWA. HOUYHNHNM

2022.3.17 Up
Focus on

気になる服とか人とか。

Vol.37
グラフィティと街。その2
街をキャンバスに見立て、自由気ままに表現されたグラフィティの数々。でも、そこには れっきとしたマナーや流儀みたいなものが存在していて......というのが今回のテーマ。前回に続き、STACKS山下さんによる解説付きでグラフィティ探訪をお届けします。

PROFILE

山下丸郎

編集者、PR、ブックディレクターを経て、ブックレーベル〈STACKS〉を設立。国内外の様々なジャンルのアーティストの作品をコンパイルした同名のジンを定期リリースする。また昨年8月には実店舗となるSTACKS BOOKSTOREを渋谷神山町にオープンした。

長谷川昭雄

ファッションディレクター、スタイリスト。英国の雑誌『モノクル(MONOCLE)』では創刊よりファッションページの基礎を構築。2015年にはファッションディレクターに。2012年より2018年秋まで『ポパイ』のファッションディレクターを務めた。

Miss 17がグラフィティを残した駐車場の一角で発見したSURXさんとMINTさんのグラフィティ。

フイナム:これは前回紹介した駐車場の一角です。

山下:上がSURXのタグ。で、下がMINTのスローアップです。

長谷川:大きくてもタグになるの?

山下:タグですね。

長谷川:描き方の話なんだね。

山下:そうですね。雑に言うなら、ただ文字を描くっていうのがタグですね。

長谷川:じゃ俺でもタグは出来るの?

山下:全然出来ますよ。〈Carhartt WIP〉のアートディレクターは「自分の通っていた中学では、皆が自分のタグを持ってた」と言ってました。

長谷川:ヤバイね(笑)。

別の日に見つけたSURXさんのタギング×2。アルファベットレターの縦組みが新鮮。

フイナム:MINTさんのグラフィティはアウトラインに影が付いていますが、これもスローアップですか?

山下:そうですね。

長谷川:MINTさんのグラフィティは青山にもあったよね。あれ結構、印象的だったな。

フイナム:へー。そうなんですか。

長谷川:空き地が出来たと思ったら、早速描かれてて。元々描かれていたのかな?

山下:空き地になった瞬間、急いで描いたのかもしれませんね。

フイナム:見つけたぞ、って?

山下:はい(笑)。

がらんとした空き地に描かれたスローアップの数々。建物が建つと見えなくなるんだろう。そう考えると、グラフィティとは儚い美学だ。

フイナム:空き地と言えば、この空き地にも大きなグラフィティがありましたね。

山下:ここは場所の雰囲気がすごく良いですね。

長谷川:たしかに。

山下:描いているのは、(左から)SURX、SOS、SCOTCH、DICEです。特に左の3人は、東京でよく見かけますね。

フイナム:SURXさんはさっきのタグを描いていた人?

山下:そうですそうです。

長谷川:これも空き地になったから、速攻で描いたんだろうね。

山下:だと思います。空き地だったら良いだろうって。まぁ本当は良くないんですけど。

フイナム:描く/描かないのジャッジポイントがあるんですね。

ひと一人、それも横向きになって、やっと通れるほどの通用口に描かれたグラフィティ。ライターによる街を見る視点が垣間見える、街の垣間。

フイナム:描く/描かないの話だと、ここも興味深かったです。店先は何もないんですが、通用口はこの通り。

長谷川:隙間の美学ということになるのかな。

フイナム:ストアフロントには描かないけど、ここなら……という?

山下:そうですね。本人がどう思っているか分からないですけど。

フイナム:ルールがないかと思いきや、実はマナーみたいなのがあるんですね。

山下:それはめちゃくちゃあると思います。

長谷川:そういうのは、皆なんとなく肌で感じながらやっているの?

山下:どうなんですかね。肌で感じたり、誰かと描きに行ったりする際に学んだり、とかですかね。あとは失敗をして学んだり。

長谷川:そっか。なるほどね。

山下:例えば、チェーン居酒屋でしか飲んだことのない子が、頑固親父がやっている居酒屋に行って、いつものノリで飲んで騒いでたら、絶対怒られるじゃないですか。

長谷川:笑

山下:そういう話が多分グラフィティのなかでもあるんじゃないですかね。何も知らずに描いていたら「お前、そこに描いちゃダメでしょ」みたいな感じで怒られるっていう。

長谷川:へー。

閉店した店舗のファサードに描かれたグラフィティの数々。その中には、ニューヨークを拠点に活動するアーティストのタギングも。

フイナム:この2つは閉店したお店で、どちらもめちゃくちゃ描かれていましたね。

長谷川:うん。ここはすごかったね。

山下:営業してる店だと描かないじゃないですか。でも営業してないなってなると……という例ですね。

フイナム:色々なライターが描いていますが、ピックアップするとしたら?

山下:SABIOっていうニューヨークのダウンタウンのシーンで長年活動しているライターですかね。

長谷川:独特のスタイルだね。

山下:彼のルーツでもある、ブラジルのピシャソというスタイルから影響を受けているのかもしれませんね。

長谷川:俺、字がめちゃくちゃ下手なんだけどさ。字を書くのって、せいぜいA4ぐらいの大きさじゃん。でも、このぐらいのスケールでマジックを使って描くのって結構美的センスがいるよね。この間隔にどのぐらいの大きさで文字を描くかとかさ。そこがすごいなって思うよね。

山下:多分、それは繰り返し繰り返し練習して、何百回、何千回って描いているからだと思うんですよね。

フイナム:しかも、これヒサシのところだから、高さもありますよね。それも中央にバスっと描かれています。

長谷川:人が来るから、サクッと描くわけでしょ。そんな状況でやってると思うとすごいよね。

山下:そうですよね。

長谷川:『ザ・ファブル』みたいだよね。集中力がすごい。

中央分離帯に描かれたスローアップ。クロームのアウトラインがヘッドライトに照らされて鈍い光を放っている。

フイナム:そして大通り沿いのスローアップです。

山下:これは東京を代表するハードコアなボマーですね。本当にすごいです。

長谷川:なんて読むの?

山下:左はTECKというライターなんですが、普段と綴りが違いますね。

フイナム:スペリングを変えるのは、どういう意図なんでしょうか?

山下:警察対策という意味合いもあると聞きますが、深い意味がない場合もあるので、一概にこういう意図っていうのは分からないんですよね。

フイナム:なるほど。

長谷川:右は?

山下:右はCULTですね。

フイナム:2人の作品ということは、プロダクションになるんですか?

山下:いや、プロダクションは大きな絵を何人かで描くことなので、単純にスローアップですね。きっと同じツールを使って一緒に描いたんだと思います。

長谷川:なるほどね。

ご覧の通り、壁と柵の間に人が通れるスペースはない。つまり車道から描いたんだろう。それも結構な交通量のある大通りで、だ。

フイナム:これ、車道から描いていますよね。すごいなぁ。

長谷川:夜になるとスピードをガンガン出す奴とかいそうじゃん。行くぜ、みたいな感じでさ。だから下手したら死ぬかもしれないよね。でも、ここに描きたい!っていう強い気持ちがあるんだろうね。

山下:すごいですよね。例えば、車でしか通れないところってあるじゃないですか、アンダーパスとか。ああいうところは、皆めちゃくちゃ描いているんですよ。

長谷川:あーあるよね。

山下:ここの通りのアンダーパスは、DISKくんも大きいのを描いていたり、QPさんや色々な人たちが描いているんですけど、それと比べてもこれは相当難易度が高いような気がしますね。しかも駅の目の前だし。

フイナム:そっか。人目もありますしね。

山下:90年代から活動しているライターの人が、TECKについて「監視カメラだらけの今の東京でこれだけ描いているのは考えられない」って言ってたみたいです。

長谷川:じゃ徹底的にリサーチしているのかな?

山下:それか度胸が座っているか。どっちかですね。

フイナム:グラフィティライターの意地とプライドを感じますね。

山下:状況が悪い中で、いかに綺麗に描けるかっていう。

長谷川:なんか気持ちはわかるな。やっぱり人って、そこでやりたいと思ったら、そこに照準を合わせて、そこで全うしたいっていう気持ちがあると思うんだよね。俺の撮影もそうだと思うんだけどさ、ここで撮りたい!と思ったら、何があっても成し遂げたいっていう気持ちが出てきちゃうから。

フイナム:職人気質みたいなところありますよね。

山下:完全に職人だと思います。

長谷川:へー、面白いなー。

その3へ続く

STAFF

Direction_Akio Hasegawa
Composition&Text_Shigeru Nakagawa
Edit_Ryo Komuta、Shun Koda

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