AKIO HASEGAWA. HOUYHNHNM

2022.2.17 Up
Focus on

気になる服とか人とか。

Vol.37
グラフィティと街。その1
ここ最近、STACKSの山下さんとの街歩きにハマってる様子の長谷川さん。一体何をしているかというと、街に溢れるグラフィティを見て回っているのだとか。知られざるグラフィティの世界を解説付きで学べるなんて、そうそうない機会。そこで、2人のグラフィティ巡りに同行してみました。

PROFILE

山下丸郎

編集者、PR、ブックディレクターを経て、ブックレーベル〈STACKS〉を設立。国内外の様々なジャンルのアーティストの作品をコンパイルした同名のジンを定期リリースする。また昨年8月には実店舗となるSTACKS BOOKSTOREを渋谷神山町にオープンした。

長谷川昭雄

ファッションディレクター、スタイリスト。英国の雑誌『モノクル(MONOCLE)』では創刊よりファッションページの基礎を構築。2015年にはファッションディレクターに。2012年より2018年秋まで『ポパイ』のファッションディレクターを務めた。

フイナム:グラフィティ散策、楽しかったです。改めてここで解説をお願い出来ればと。

山下:はい、お願いします。

フイナム:まずはこちらから。

山下:これはSECTですね。スローアップと呼ばれるタイプのグラフィティです。

SECTさんのスローアップ。その周りには無数のタグがあるものの、SECTさんのスペースは絶対不可侵領域に。

フイナム:ずいぶん年季が入っているように見えますが、どのぐらい前からあるんですか?

山下:どのぐらいなんですかね……結構昔からある気がしますね。風景に溶け込んでますよね。

フイナム:そういえば、この辺りの場所を説明するとき「SECTさんのところ」と言えば、分かるって言ってましたね。

山下:好きな人には伝わりやすいですね(笑)。あと、ここはSECTに対して敬意を持っているから、上には描かないっていうのがありますね。

長谷川:これは分かりやすくそれを象徴しているよね。

山下:そうですね。皆よけて描いています。

長谷川:でも同じところに描きたいんだね。てか、SECTさんが描いているから、ここに描きたいのかな?

山下:っていうのもあると思います。

長谷川:例えば「これ、SECTと読むんだよ」って言われれば、なんとなく判断できるんだけど、何も教えられないと読めないなって思ってさ。文字の描き方にグラフィティのルールがあったりするの?

山下:決まりきったルールのようなものはないですね。文字の崩し方ひとつとっても、それがオリジナリティになってくるので。その人なりのフォントとというか。

長谷川:なるほどね。

山下:誰々のSがカッコ良いとか、誰々のAがカッコ良いとか。そういうのは、皆あるはずですね。

長谷川:そういえば、(グラフィティライターの)JOTAさんも「得意なフォントがある」って言ってたよね。

山下:ちなみに、これ、なんて描いているか分かります?

長谷川:なんだろう。顔?

山下:これ「1」って描いてあるんですよ。ライターの人たちが名前の後ろに「1」を付けるのは、わりと定番で。元々はナンバーワンとか、オンリーワンを意味していた人が多いと思うんですが、そこは描く人によってそれぞれ意味付けがあると思います。

長谷川:へー。

フイナム:グラフィティライターの名前の最後に数字が入っていたりしますよね。あれ、そういうことだったんですか。

山下:そうですそうです。70年代のアメリカのグラフィティライターも、名前の後ろに数字を入れてる人が多かったんですが、それは自分達の住所に関連する数字を入れていた、と聞いたことがあります。

あらゆるタギングとステッカーがボミングされた扉。スクエアのキャンバスという見立てだろうか。不思議とここだけボミングが多い。

フイナム:続いてゴミ集積所ですかね。

山下:色々なライターが描いていますけど、今たくさん街中で描いている人ばかりって感じですね。

長谷川:オールスターなんだね。

山下:やっぱ誰かが描き始めると集まってくる、みたいな(笑)。

長谷川:そういう意味では、コミュニケーションみたいなところがあるよね。だからテキトーなところで一人で描いてても楽しくないっていうのはあるんだろうね。

山下:それはありますね。

フイナム:たくさんのグラフィティがありますが、強いて挙げるとすると?

山下:右下に描いてある、ALQSとSPEWMはとても印象的な場所に描いていることが多い二人ですね。

長谷川:あ、前話してた人?

山下:そうです。ビルのルーフトップとかに描きまくっている人ですね。

長谷川:へー、ヤバいね。

別の日に見つけたALQSとSPEWMのタグ。本当にビルの屋上にあった。しかも、まあまあの大きさで。一体どうやって描いたんだろう。

フイナム:そして路地で見つけた配管です。

山下:AEVIL、DIET VEGAN、LSTのステッカーが貼ってますね。

長谷川:うんうん。

フイナム:ステッカーもグラフィティの一種として捉えていいですか?

山下:そうですね。自分が知る限り、世界的に見ても日本はステッカーが盛んな方だと思います。

長谷川:なんでなの?

山下:日本はグラフィティに対して厳しいので、クイックに行えるステッカーが多くなるんだと思います。

長谷川:なるほどね。

一口にステッカーと言っても、光沢紙にただプリントしたものから、PET加工された防水タイプまで、種類もさまざま。

フイナム:ステッカーの見方はあるんですか?

山下:やっぱり貼ってる場所ですかね。

フイナム:構図とかデザインというよりかは、場所。

山下:ですね。美味い飯屋の周辺にステッカーを貼ったりするライターもいますね。

フイナム:それ良いですね。お墨付きって感じで。

山下:この間、キース・ヘリング美術館に行ってきたんですけど、美術館の目の前の柱にはたくさんのステッカーが貼ってありましたね。

長谷川:そこに行って、柱に着目しているのは丸郎くんらしいね(笑)。

山下:あるグラフィティライターが、キース・ヘリングの描くラインを、「こんなに一定で綺麗なラインはそうそう描けない」と評していたと聞いたことがあるんですけど、やはりキース・ヘリングはグラフィティライターにとっても気になるアーティストなんだと思います。

長谷川:ふーん。そうなんだ。

トタン塀の高さ目一杯に描かれたMiss 17のスローアップ。SECTさんと同様、上描きされた形跡はない。

フイナム:これは駐車場の一角にありました。

山下:Miss 17というニューヨーク出身の女性ライターのスローアップです。彼女は〈CLAW MONEY〉というブランドのデザインもやっていますね。

長谷川:CLAW MONEY?

山下:はい。レディース向けのストリートブランドですね。

フイナム:「17」と描くのが、彼女のスタイルなんですか?

山下:そうですね。以前ニューヨークに行ったときも、昨日まで何も描いていなかった壁が、次の日には「17」と連発されていたことがありました。

長谷川:へー。

フイナム:これも年季が入っていますね。

山下:いつからあったんだろう。相当前だったような……。

フイナム:この駐車場自体、前からありましたっけ?

長谷川:この近くで働いていたことがあるよ(笑)。それが2016年ぐらいなのかな。このパーキングはその頃すでにあったよ。だから、まあまあ古いよね。その頃からグラフィティもあったような気がするな。

山下:名所感はありますよね。だから、誰も上から描かないし。

長谷川:皆がリスペクトを持って(グラフィティを)残していくことで、ある意味神格化していくわけじゃない? そうすることで、飯田橋のKAWSみたいなことになっていくの?

山下:そうだと思います。

長谷川さんが言っていた「KAWSの飯田橋」は、90年代にKAWSが描いたスローアップのこと。最近消されてしまい、現在はこの通り。。

フイナム:Miss 17は、他にも東京で作品を残しているんですか?

山下:多分、色々なところに描いてあったと思うんですけど、今残っているのはここぐらいかもしれないですね。

長谷川:駐車場の持ち主は消そうって思わなかったのかな?

山下:どうせ描かれるからいいやって感じはありそうですよね。

フイナム:まさかレジェンド級のアーティストが描いているとは思わないでしょうね。

山下:そうですよね。

長谷川:でも消したような痕もあるから、消そうとしたんじゃないかな。

山下:あ、でも下に元々(グラフィティが)あって、その上にMiss 17が描いたんじゃないかな?と。

長谷川:そうなんだ。

フイナム:とすると、元々ここはスポットで、彼女が作品を残したことで、より活発になったのかもしれないですね。

山下:左にはSECTも描いてますし、もしかしたら同じタイミングで描いたのかもしれないですね。

フイナム:そうやって現場の状況から想像を膨らませたりするのもグラフィティの醍醐味なんですかね。

山下:それはあると思いますね。

長谷川:刑事みたいだね(笑)。

その2へ続く

STAFF

Direction_Akio Hasegawa
Composition&Text_Shigeru Nakagawa
Edit_Ryo Komuta、Shun Koda

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