PROFILE
俳優。1986年生まれ。10代から駒沢のストリートボールに熱中。引退後は、付き人経験を経て、俳優に転向。現在公開中の映画『JOINT』がデビュー作にして初主演作。長谷川さんとは、被写体とディレクターの関係を超えて、プライベートでも飲みに行く仲。
ファッションディレクター、スタイリスト。英国の雑誌『モノクル(MONOCLE)』では創刊よりファッションページの基礎を構築。2015年にはファッションディレクターに。2012年より2018年秋まで『ポパイ』のファッションディレクターを務めた。
about 映画『JOINT』
特殊詐欺向けの名簿ビジネスを展開する刑務所上がりの男、石神武司。ベンチャービジネスに介入し、裏稼業から足を洗おうとする彼と、その周りで蠢く暴力団と外国人犯罪組織の影……。現代日本の裏社会をドキュメントタッチで描くクライムムービー。
長谷川:作り手として、映画の見所はどこなの?
山本:うーん。全部大変だったからなぁ。
長谷川:全部で何時間撮ったんだっけ?
山本:83時間。だから81時間はカットしていますね。
長谷川:81時間捨ててる、ということは、全く出てこないシーンばっかってこと?
山本:そうですね。
長谷川:すごいよね(笑)。
フイナム:それを編集して、115分に収めた、と?
山本:最初は3時間になったんですよ。で、それを監督と観てたら、長くね?ってなって。撮ったシーンって愛おしくなっちゃうから、捨てられないんですよね。でも心を鬼にして捨てていこう、と。それでも2時間を超えてて。それで1回試写やって、まだ編集できるぞってなって。ここで引いたらダメだ。行けるところまで行こう!って、ギリギリまで編集して、115分。勝ち負けじゃないけど、自分たちには勝ったなって思いましたよ。
フイナム:やり尽くした、と?
山本:人って絶対後悔するじゃないですか。その時その時に全力出さないと、後悔しちゃうから。だから全力出していれば、後悔しようがないんですよ。そういう意味で「勝った」って感じですね。
長谷川:人がエネルギーをかけて作ったものって伝わるんだよね。
山本:あれ、不思議ですよね。
長谷川:俺は現場で撮るだけ撮って、後から考えようっていうスタイルなんだけど、他の人たちって話し合いながら撮るんだよね。でも、どんどん陽も落ちていくし、モデルも疲れてくるから、いちいち話し合ってもしょうがないんだよね。だからガンガン撮る。色々やって後で考えようって。その分セレクトが超大変で。『ポパイ』をやっていた時なんて(カット数が)何万枚もあるから、すごいエネルギーが要るし、だんだん分からなくなってくるんだよね。お酒飲んでいる感覚に近いっていうか。
山本:笑
長谷川:その中で迷いを捨てて、一枚を選び出すことが、すごく大事なんだよね。迷って両方使おうかな?とか思っちゃったりすることもあるんだけど、一枚に絞る方が重要なんだよね。
山本:今の話みたいに「時間がない中で、話し合っててもしょうがねえじゃん。とりあえず俺にボール回せよ」って、長谷川さんのそういうところが俺は好きで。でもボールを回して、どうにかなる人もいれば、どうにもならない人もいるんですよね。おい、外してんじゃん!みたいな。結果決める人だから、クラッチシューターだなって思う、長谷川さんは。
長谷川:でも俺も俺で、人にあれこれ指示してどうこうしたいっていうタイプでもないんだよね。出来れば誰かやって欲しいっていうタイプの人間だしさ。だから仕事の立場上やっているところもあるんだけど。
山本:うんうん。
長谷川:野球でもショートとセカンドとセンターの間の曖昧なところにフライが飛んできたりするじゃん。そこを譲り合ってるとさ、ボールがただ落ちて終わり、みたいなことがあるわけで。誰かが出来ないことを他の誰かがやるとかさ。お互いに様子を見ながら、穴を埋め合うみたいな作業がすごく大事だと思う。
山本:チームだからね。違うポジションがヘマしたら拾いに行かないといけない。
長谷川:うん。
山本:それで負けちゃったら、どうしようもない。
長谷川:スポーツでもやられる時って大体同じパターンでやられちゃうわけじゃん。ああいうのが一番嫌だよね。ちゃんと克服していきたい。同じメンバーで仕事しているのもそういうところがあって。どっかで学んだ知識は、このチームに戻せた方が良いし、個人個人のレベルが上がっていけば、結果皆が楽になると思うんだよね。だからといって、馬鹿みたいに同じことを繰り返すのも良くないし、同じメンバーで常に良くなる方向を目指すことが大事なんじゃないかな。
山本:やっぱり闘争心がないと向上心が生まれないですよね。結局そこでうだつが上がらないと、そいつの人生それまでだもん。一つの人生が映画だとすれば、主人公は全てのシーンで頑張れるはずなんだよ。暇潰しにもならないような映画作ってもしょうがないわけだし、ロマンを持って生きて、良い映画にしないと。
長谷川:そうだよね。変に冷静でいてもしょうがないし。実際先のことなんてよく分からないし、自分が頑張りたいって思ってるなら、ひたすら頑張るしかないもんね。
フイナム:このメンバーでまた次回作を、なんて話はあるんですか?
山本:ここ来る前に監督とランチして、次回作の話をしましたよ。
長谷川:同じキャストが出てくるの?
山本:いや、また新しくキャスティングすると思うんですけど。
長谷川:山本くんが呼んだバスケの子は、これで俳優に目覚めたりしないの?
山本:実はそれも狙いで。日本って引退した選手のサポートがないじゃないですか。ストリートボーラーの行き着く先に俳優があっても良いんじゃないかな?と思って。バスケ界に恩返しってわけじゃないけど、俺が出来るなら、皆も出来るでしょ、みたいな。
長谷川:へー、いい話だね。
フイナム:次回作も楽しみですね。
山本:ありがとうございます。
フイナム:ひとまずは『JOINT』を各地の劇場で公開して……って感じですかね。
山本:……。
フイナム:ん?
山本:これはもう終わってますからね。俺らの中では。
フイナム:もう手が離れたものになっていますか?
山本:全然離れていますよ。
長谷川:まあね。あれだけ前だからね。
山本:あとはお客さんが良いの悪いの言ってくれれば。まぁ映画は娯楽だから。暇が潰れれば良いかなって。
長谷川:笑
フイナム:……とのことです。