AKIO HASEGAWA. HOUYHNHNM

2022.1.28 Up
Focus on

気になる服とか人とか。

Vol.36
俳優 山本一賢(中編)
前回に続き、俳優の山本さんと長谷川さんによる『JOINT』の公開記念対談をお届けします。軽妙なトークの合間合間に、フッと飛び出すマジメな仕事訓。この二人、気が合うんだなあ、とつくづく思います。

PROFILE

山本一賢

俳優。1986年生まれ。10代から駒沢のストリートボールに熱中。引退後は、付き人経験を経て、俳優に転向。現在公開中の映画『JOINT』がデビュー作にして初主演作。長谷川さんとは、被写体とディレクターの関係を超えて、プライベートでも飲みに行く仲。

長谷川昭雄

ファッションディレクター、スタイリスト。英国の雑誌『モノクル(MONOCLE)』では創刊よりファッションページの基礎を構築。2015年にはファッションディレクターに。2012年より2018年秋まで『ポパイ』のファッションディレクターを務めた。

about 映画『JOINT』

特殊詐欺向けの名簿ビジネスを展開する刑務所上がりの男、石神武司。ベンチャービジネスに介入し、裏稼業から足を洗おうとする彼と、その周りで蠢く暴力団と外国人犯罪組織の影……。現代日本の裏社会をドキュメントタッチで描くクライムムービー。

フイナム:試写会から一年後の上映、とすると『JOINT』を撮ってたのって、ずいぶん前のことなんですか?

長谷川:俺が会った頃に撮ってたよね?

山本:そう。監督と焼き鳥屋で再会した頃に、長谷川さんと出会ったんですよね。当時は自称俳優のチンピラですよ(笑)。

フイナム:モデルはやっていたんですか?

山本:少しやったりしてましたけど、やる気はないですよね。でも、俳優をやると決めてからは、カメラに慣れないといけないから、ちゃんとやろうと思って。そこで、長谷川さんがフックアップしてくれたんですよね。

長谷川:あるブランドのタイアップで、モデルが2、3人決まっていたんだけど、もう少し違う人が欲しいんだよな、となって。アシスタントに「誰かいないの?」って聞いたら「こういう人がいますけど、どうですか?」って。それが山本くんだったんだよね。たしか撮影が急だったんじゃなかったっけ。当日とか。

山本:翌日ですね。「明日来れますか?」って連絡が来ましたね。

長谷川:あー。明日空いているかどうか、失礼がないように丁重に聞くように言ったの。大丈夫だったら、今からフィッティングしたいって感じだったんだよね。

山本:そうでしたね。

長谷川:いつもは15、16歳ぐらいの少年相手だから、学校がなければ大丈夫だったりするけどさ。良い大人だから、次の日空いていることなんてないしさ、そんな失礼なこと言ったら、こっちも恥ずかしいし。場合によっては、怒られちゃったりするじゃん。でも「あ、いいっすよー」みたいなこと言ってくれるから、この人、頼もしいなって。

山本:嬉しいわけですよ。当時は仕事がないし、アルバイトもしないって決めてたから。だから、長谷川さんから連絡があって、やった!って思いましたよ。でも長谷川さんがどんな人か知らないし、こっちは撮られりゃ金になるって思うわけですよ。

フイナム:笑

山本:それから、毎月呼んでもらえるようになって、他の人からもちょこちょこ仕事が入ってくるようになって。でも長谷川さんの現場は明らかに違うんですよ。俺は付き人をやっていたから、師匠の仕事の向き合い方とか物事の進め方をずっと見ていたんですけど、師匠に似ているものを長谷川さんに感じたんですよね。それから、長谷川さんの仕事は喜んで行くようになって。

長谷川:共通の友達もいたし、気が合うなと思ったんだよね。

山本:あと、長谷川さんはマイケル・ジョーダンがすごく好きで、それも大きいですね。

長谷川:そうなんだよね。あと山本くんとは嫌いな奴が一緒って感じ。

山本:笑

山本:この間も一緒に衣装を見に行ってたら、相手がムカつく奴で。

長谷川:あー。

山本:「あいつ、ちょっとムカつくね」とか言ってたら、長谷川さんがボソッと「見てろよ。目に物見せてやる」と言ってて(笑)。

フイナム:笑

山本:この人、怒りをモチベーションに変えるんだ!って。そこが良いじゃないですか。ケンカするのは簡単だけど、自分の職業で「いわす」っていうのはカッコ良いですよね、男として。

長谷川:洋服を借りる立場って、立場が低いんだよ。ハイブランドとかだと「こういうページで、こういうブランドが並びます」って一生懸命口説いて借りるわけよ。いや、お借りするんだよ。そして綺麗にお返しする。「有難うございました」って。でも、同じ立場でいたいってずっと思ってて。雑誌の仕事が多かった時代は、それが広告クライアントだったりしたから、頭を下げて借りに行かなくちゃいけなかったけど、今はあまり関係ないからさ、ほとんど自分で買ってるわけ。だから、こっちが買った服にクレジット入れてる。それって超サービスじゃん。それで問い合わせがあるようなヴィジュアルを作れば、こっちの技術で見せつけた証だからさ。そういう仕事のやり方が気持ち良いなって。だから最近の衣装はほとんど買ってる。

山本:それで自由を得ているんですよね。

長谷川:うん。例えば、どうしても使いたくてお願いして借りてきた靴があったとしても、撮影していて、写真がカッコ良く見えることを考えた時には、足元を切って撮った方が良いなってことがあるわけ。でもそれが借りてきた靴だったりすると、気を遣わないといけないから、靴も入れて撮らないといけなくなっちゃってさ。でもさ、新品の靴なんてカッコ悪いじゃん。ちょっとシワが入ったり、汚れているぐらいがカッコ良いわけで。だからファッション媒体であっても、もうここ10年は、靴を借りたことはほとんどない。買っちゃってる。5年後でも10年後でも良い状態をキープできる方が良いなと思って。この前もしばらく履いてから靴磨きに出して撮影したよ。そんな感じだから事務所はほぼ靴置き場になってる。でも、まさに、「自分を自由にする」ために大事なことなんだよね。

山本:それは大事ですよ。損得勘定している奴はそうはいかないですしね。

フイナム:衣装といえば、『JOINT』のスタイリストは山本さんが手配した、と言ってましたね。

長谷川:吉田(YK.jr)ね。今回のこのビジュアルは、映画内で使った衣装を吉田に着せつけてもらって、俺がディレクションして、いつものように写真も全部セレクトした、「長谷川ディレクションによる『JOINT』のイメージビジュアル」。

フイナム:元々、知り合いですか?

長谷川:前に一緒に飲みに行った(笑)。

山本:そうでしたね。

長谷川:この衣装良かったね。『ゴッドファーザー』的なんだけど、どこか長渕さんっぽかったりして。

山本:あいつ『仁義なき戦い』とかすごく観てましたよ、この頃。

長谷川:これの難しいところは、気をつけないと、映画っていう世界のチンピラになっちゃうじゃん。衣装って、その辺の落とし所を見つけるのがすごく大事なわけで。例えば、ザ・ヤクザっていう衣装を作っても、そんな人いないじゃんってなっちゃう。カッコ良くないと意味がないし、リアル過ぎてもしょうがないし。

フイナム:少しファンタジーの要素が必要になる?

長谷川:そう、ちょっとしたファンタジーがあるぐらいが良く映るわけで、その辺の境目をどう行き来するかが、大事だよね。

山本:俳優のモチベーション的にも衣装は本当重要で。やっぱスーツ着てると、ちゃんとしようってなるし、何を着るかで変わるから。

長谷川:俺、山本くんのスタイリングも結構好きだし、あとこの人(キル・ジュンギ役キム・ジンチョル)の感じも好きだったな。エプロンの上に3カラーの迷彩を着ている感じとか。「あーいるいる。焼肉屋のオフの時間」って感じで。

山本:それ聞いたら、あいつ喜ぶと思います。

フイナム:映画の場合、衣装ってどうするんですか? さすがにリースとはいかないですよね。

山本:吉田がくれましたよ。全て一式を。やっぱ普段から着ていないと、どこがどう汚れるか分からないわけですよ。

長谷川:そうなんだよね。慣れていないとなんかね。だから古着がよく(衣装に)使われるじゃん。さらに、その人にフィットしたシワとか汚れがあると良いんだけど、そこまで辿り着かなくても、誰かが着た服っていうのは、その人を何者かに見せるんだよね。そこがファッションの大事なところなんだと思う。皆、安いとかデザインが面白いっていう理由で古着を買ったりしていることも多いと思うんだけど、古着の良さってそこだけじゃないと思うんだよね。

山本:そっか。なるほど。

STAFF

Photo_Seishi Shirakawa
Styling_YK.jr
Hair_Kenichi Yaguchi
Direction_Akio Hasegawa
Composition&Text_Shigeru Nakagawa
Edit_Ryo Komuta、Shun Koda

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