PROFILE
編集者/株式会社グーテンベルクオーケストラ代表取締役。『コンポジット』『インビテーション』『エココロ』の編集長を務め、現在は出版物の編集・執筆から、コンサルティングを手がける。著書に『はじめての編集』『物欲なき世界』『動物と機械から離れて』等。下北沢B&Bで「編集スパルタ塾」、渋谷パルコで「東京芸術中学」を主宰。東北芸術工科大学教授。NYADC銀賞、D&AD賞受賞。
ファッションディレクター、スタイリスト。英国の雑誌『モノクル(MONOCLE)』の創刊より制作に参画、ファッションページの基礎を構築した。2015年には同誌のファッションディレクターに就任。2012年から2018年秋まで雑誌『ポパイ』のファッションディレクターを務めた。
Chapter2
インプットとアウトプット。
フイナム:菅付さん、今年から大学で教えられてるんですよね。
菅付:はい、4月から山形市の東北芸術工科大学で、木曜日の1~3限を教えてます。
フイナム:3コマ連続ですか? 結構大変ですね。。
菅付:だいたい大学の授業は1コマ90分なんですけど、ここは80分で10分休憩という流れです。ただ、休憩時間は学生から質問が来るので、4時間半ほぼ休憩なしですね。
長谷川:ということは、授業に使うパワポ的な資料を作ってるんですね。
菅付:はい、ばっちりと。変な話、授業のパワポを作るためにアルバイトを増員したから、全然儲からないです(笑)。80分の授業なので、大体1分が1ページとして、80ページから100ページのパワポを作っていくから、なかなか大変なんです。
長谷川:寝てるやつとかいたら、引っぱたきたくなるんじゃないですか?(笑)。
菅付:いやいや。僕はあえて出欠とらないようにしてて、課題だけで評価するようにしてるんです。だから、寝るようなやつはそもそも授業に来ないんですよね。
フイナム:課題って例えばどういうものなんですか?
菅付:半期で20冊、本を読んでもらってそれの書評を出してもらうのと、あとはテーマを与えてそれについ書いてもらうというものですね。
長谷川:結構ハードそうですね。
菅付:はい。だから脱落する学生も出てきますね。
長谷川:まあ、でもその方がいいですよね。やる気がある奴が残れば。
菅付:でも、あまりにも履修者がどんどん減っていくから、一度大学側から呼ばれました。「菅付さん、今、大学はサービス業だから」と(笑)。
フイナム:子供も減ってますし、みたいな。
菅付:そうそう。
長谷川:でも、楽しみですね。ちゃんと学んでくれたら。
菅付:授業の最初の方で学生たちに「とにかく“暇つぶし”はやめよう」という話をするんです。リラックスとかエンターテイメントはいいんですけど、暇つぶしでダラダラするというのは、脳にすごく良くないんです。休みたくて寝るとか、適度にお酒を飲むとか、そういうのは脳にとってもいいことなんだけど、だらだらと情報を入れて、なんとなく見たり、なんとなく読んでるってのは脳も休まないし、別に知識が入るわけでもないし、一番良くない。
フイナム:なるほど。
菅付:オンとオフをきちんと切り替えて、インプットするときはがっと集中してインプットして、ちゃんと頭に刻むように入れる。遊ぶときはしっかり遊んで、切り替えないと集中力がなくなるんです。
長谷川:それはありますよね。気づくとダラダラしてることって多そうですよね。なんか今っていろんなことの境目がないじゃないですか。
教育現場からの風景。
フイナム:そうなんですね。
菅付:できる子は時間の密度が違うんです。具体的には時間の使い方が違っていて、まず、大体ちゃんとメモをしてますね。手を動かすことというのは脳を活性化させることで、これはもうはっきり証明されてるんです。手を動かさないで聞いてるだけだと、脳が活性化されないからほとんど覚えてないんですよ。
長谷川:なるほど。
菅付:だから書くというのは、後で見返すためだけにやることではなくて、まず脳を活性化させる作業なんです。それをできる子はわかってるんですよね。もちろんたまに、聞いてるだけで全部わかってるような天才みたいな子もいるんですけど、99パーセントはそうではないので。
長谷川:でも、教えるのってそういう意味では楽しそうですね。人間観察もできるわけで。
菅付:そうですね。あとは教えるということは、結局自分がインプットしていないと教えられないから、インプットを一生懸命やろうという大きな動機になりますよね。
長谷川:確かにそうですね。なかなかうまくインプットってできないんですよね。。僕は特に不真面目な人間なので、なかなか新しい情報を取りに行くっていうのが難しくて。
フイナム:長谷川さん、例えば「文化服装学院」で講義してください、みたいな話とかないんですか?
長谷川:全然ないよ。でも、すっごい昔に地方の専門学校で先生をやってる知り合いがいて、その関係で自分の作ったページとか見せて話す、みたいなことはやったことあるけどね。
フイナム:最近の学生さんがどんな感じなのか、個人的には興味あります。
長谷川:俺は普通の大学だったから、ファッションの専門学校の人たちの気持ちはあんまりよくわからないんだよね。ファッションっていうか、「OSHMANS」とか〈NIKE〉が好きでこの世界に入ったから。スポーツ部門の人っていうか。
アメリカのグラフィックの魅力。
菅付:アメリカとかだと、そういうのを教える学校もありそうですよね。スポーツファッションというか。
長谷川:それで思い出したんですけど、昔のNBAって、例えば「シカゴブルズ」だとホームは白いユニホーム、アウェーは赤いユニフォームって決まってるんです。で、靴下の色もみんな揃ってるんですよね。あれって誰が決めてたんだろうって思って。そういうカラーリングをコントロールする、スタイリスト的な人がいるのかなって。
菅付:いるんじゃないですかね。昔、グラフィックデザイナーの仲條正義さんが、アメリカの大リーグのユニフォームがすごくいいという話をしていました。「グラフィックデザインとしてすごくいいんだ、日本のプロ野球チームのユニフォームはダメだ」という話をずっとしていましたね。
長谷川:あぁ、なんかわかります。例えばスポンサーロゴとか入ったりするわけじゃないですか。あるいは、そのジャージを作ってるメーカーのロゴとか。そういうものの入れ方がすごく上手ですよね。さりげないけど、きちんと主張する場所に収まってるっていうか。
フイナム:たしかに。
長谷川:ああいうのを見ると、アメリカのデザインっていうか、洋服に落とし込むデザインの仕組みのようなものの、すごみを感じます。
フイナム:北米4大スポーツ(ベースボール・アメリカンフットボール・バスケットボール・アイスホッケー)それぞれの規模もすごいですし、文化として厚みがありますよね。
菅付:まぁ、アメリカ人の多くは、夏はほぼずっとスポーツウェアみたいなもんですよね。特に西海岸は。
長谷部:(笑)。
菅付:誰もスーツ着てないし。
長谷川:アメリカでスーツ着る人って、もう都心部にしかいないですよね。
菅付:そうですよね。一方でイギリスに行くとまだスーツの人は多いですよね。特にお金持ちは。やっぱりビスポークの国だなと。
スーツとイギリス。
長谷川:〈CE〉のトビー(・フェルトウェル)さんっていうイギリスの方が言ってたんですけど、なんか上下で揃いじゃないのを着てると「お前はお金がないのか?」って思われるって(笑)。
フイナム:ジャケパンとかありえないわけですね(笑)。
長谷川:そうそう。
菅付:以前、オフシーズンに仕事でロンドンに一週間くらい行ったことがあるんです。予算内だったらどこに泊まってもいいよということだったので、五つ星ホテルに泊まったんです。おそらく通常の三分の一くらいの価格で。で、そこに泊まってる人を毎日注意深く見てたんですけど、まぁ本当にお金持ちばっかりで。もうスーツが全然違うんですよね。
長谷川:あぁ、なるほど。
菅付:ビスポーク感がバリバリのスーツをみんな着ていて。僕は朝飯を毎日ホテルで食べていたんですけど、彼らは朝からミーティングをしていて。ビジネスブレックファーストというか。そのスーツの着こなしがすごかったです。
長谷川:見てすぐわかりますもんね。
菅付:はい。痩せてても太ってても、肩のビシッとしたピタピタ感がすごくて。
長谷川:洒落てますよね。僕も死ぬまでにはイギリスでスーツ作ってみたいです。やっぱりあの通り、、ジャーミンストリートでしたっけ、いいですよね。サヴィル・ロウのあの辺りが好きです。
菅付:『KINGSMAN』の世界ですよね。
長谷川:僕みたいなやつがあの辺をうろうろしたのを、街の人はどんな風に思ってたのかね(笑)。
フイナム:イギリス、何年ぐらい行ってないんですか?
長谷川:どうだろう。でも6年ぐらいは行ってないかも。
菅付:僕もそのぐらい行ってないと思います。最後に行ったのは、『コマーシャル・フォト』の仕事で、 2016年にJamie Hawkesworth(ジェイミー・ホークスワース)とHarley Weir(ハーレー・ウィアー)の特集取材のために会いに行ったんです。そのときJamieの部屋に行って、いろんな貴重な話を聞きました。書けないことも含めて。
フイナム:いいですね。今、海外行くと色々影響受けそうです。それこそすごく色々なことをインプットできそうです。
長谷川:たしかにね。やっぱりずっと日本にいるから、そういう意味では情報に飢えてるところはあるよね。 ネットで拾えばいいんだろうけど、実体験して得る情報とネットで入る情報ってまた違いますもんね。
菅付:はい。あとやっぱり取材でも、ご飯を一緒に食べたりお酒を飲んだりしながら、ゆっくり話を聞けると、原稿も変わってくるじゃないですか。この人はこういう人なんだ、この取材でこういうこと言ってるけど、本当はこういう人なんだなとか、よく思います。
長谷川:でも、そういう外国人の取材は大変そうですね。
菅付:はい。面白いですけど大変ですね。ドタキャン何回かされてます。待っても待っても来ないという。
コミュニケーションの重要性。
フイナム:英語はどのタイミングで、どうやって学ばれたんですか?
菅付:英語は今でも下手くそで、仕事で逐一学んでいる感じです。特別な教育は受けてません。
長谷川:えぇ、すごい。。
菅付:でも、例えばシューティングイングリッシュみたいのがあるじゃないですか。撮影上で必要な最低限の英語、あとインタビューで最低限必要な英語。それだけは一応覚えていて。
長谷川:確かにそういうのありますね。
菅付:例えば撮影だと明解で「どういうテーマでやるんだ。何カットだ?」「6ページ、3見開き、スリーダブルスプレッドで」「OK、じゃぁ縦横は?」「ツー・ホリゾンタル(横位置)、ツー・ヴァーティカル(縦位置)」「それはアクティブなのか、スティル/止まってるのか?」「ツー・アクティブで、ツー・スティルイメージで!」みたいな(笑)。
フイナム:笑
菅付:そこからさらにテイストの話になって、例えば「アーヴィング・ペンをもっと今の機材でHi-Fiにした感じに」とか「ヘルムート・ニュートンをもうちょっとエロ過ぎず穏やかにした感じ」とか(笑)。
長谷川:でも、難しいですよね。『MONOCLE』のときは、外国人フォトグラファーでやる場合もあって、ファッションを撮ってないフォトグラファーとやる場合もあるんですよね。そういうときはとにかく大変で、いくら言っても全然通じない、みたいな。もちろん日本人でも、そういうことは当然あるんですけど、 特に外国人の方がその辺の融通が効かない人が多い気がします。クリエイティブをシェアしていくのって、すごく難しいですよね。
菅付:本当そう思います。僕は、外国人のスタッフで融通が効かないなと思ったら、さっさと諦めますね。とにかく撮ってもらわないといけないので、仕方ない。
長谷川:そうですよね。。
菅付:外国人のフォトグラファーとやった仕事で、ボツになったやつとかありますよ。
長谷川:すごく想像がつきます。撮影が終わった後に憂鬱な気分で晩飯を食うみたいなこと、僕もありました。だから今は白川くんとやってるんです、そういう変な気持ちになりたくないので。
フイナム:相棒を見つけるっていうことは大事ですよね。けど、長谷川さんもいろいろことを経て、今があるということですからね。まずは色んな人とやることが必要ですよね。
長谷川:そうだね。あとはフォトグラファーって生き物を知ることが大事。やっぱりスタイリストだと、どうしてもファッションが入り口なので、アートという文脈のカメラというものと相入れない瞬間って、どうしてもあるんだよね。そこを学ぶっていうのはすごく大事なことだなと思う。
スチールとムービーと。
長谷川:最近のフォトグラファーはどんな感じなんでしょうね、スチールのフォトグラファーって減ってるんですかね。
菅付:ムービー軸がやっぱり増えてるんじゃないですかね。もしくはスチールと両方やってるとか。やっぱりビジュアル表現に関して、世の中の仕事の中心が動画になってきているので。
長谷川:けど、ムービーとスチールって、全然違いますよね。
菅付:そうですね。スチールは動かないことに価値があるんですよね。例えば絵とかもそうですけど、動いてないから色々想像するわけじゃないですか。「モナリザ」でもそう。動いてないから、こっちが色んな読み方、解釈ができるのがすごくいいことであって。
長谷川:わかります。ムービーだとイメージが止まっちゃうんですよね。広がっていかないというか。ファッションフォトを撮るときに、 どういうストーリーなんですか、ってたまに聞かれるんですけど、ストーリーなんかないですみたいな(笑)。 基本的には服が映ってればいいし、あとは組み合わせていってどう見えるかということなんです。決めて作ったものは、なんだか変な感じになるんですよね。予定調和というか。だから想像の余地があるのが、スチールのいいところですよね。
菅付:そう思います。
長谷川:動画はそうはいかないですもんね。最近、僕もたまに動画をやるんですけど、ある程度決まってないと、後から要素が足りなくなっちゃったりします。 だからラフもきっちりないと作れなかったりしますね。
フイナム:コンテのような。
長谷川:そう。いつものスチールスタイルでやると、やっぱりあの要素いるな、ということでもう1回撮りに行ったりして。けど、この先はどんどん動画文化になっていっちゃうんですかね。
菅付:なるとは思いますけど、多分どこかで飽きてくるとも思います。
長谷川:そんな気はしますよね。今って、CDよりレコードの方が生産数が多いっていうじゃないですか。まさかレコードがそこまで返り咲くとは誰も思ってなかったですもんね。
フイナム:カセットがいいっていう人もいますしね。
長谷川:そういう意味では、なんかまた戻ってくるっていうのはありそうです。雑誌の良さっていうのもありますしね。
菅付:はい、絶対にあります。
長谷川:やっぱりウェブの限界もあるじゃないですか、雑誌の限界もあったように。
フイナム:そうですね。今はSNS含め、デジタルっぽいものがもてはやされてますけど。うちの会社でも書籍とか出したらいいんじゃない?っていう話もあって。
長谷川:わかる。なんか物体があるっていうのはすごくいいことだよね。なんでなんだろうね。物体が存在してるかしてないかで、印象が違うよね。だからこの「AH.H」もデジタルだけど、いつかまとめたものを作った方がいい気がする。
フイナム:はい。そう思います。
菅付:昭雄さんたちの作品をまとめた『CLASSICS』も、やっぱり紙で作られているからこそ『CLASSICS』っていうタイトルが活きてますよね。
菅付:あと、さっきのムービーとスチールの話でいうと、『CLASSICS』に載っているモデルたちが喋ったり動いてたりしたら、幻想がなくなってしまうと思うんです。情報量が少ないことには、いいことがたくさんあるんです。
長谷川:そうですね、確かに。
菅付:『CLASSICS』を見ていると、もしかして私物?それともスタイリング?みたいなのがあるじゃないですか。そこがすごくいいと思うんです。加えてモデルがプロっぽくないじゃないですか。表情とかポーズとか含めて。着ている服は普段着っぽいけど、普段着ではない。
長谷川:笑
菅付:想像力は誤解だから。誤解させる余地は必要だと思うんです。誤解とか誤読とか。
長谷川:なるほど。誤解って思うと、すごく面白いですよね。
菅付:『CLASSICS』は外国人が見たら、猛烈に誤解するやつですよ。
長谷川:確かに(笑)。
菅付:東京はストリートスタイルで飯食うのが流行ってるんだ、みたいな。
フイナム:海外のクリエイティブで、長谷川さんがやってるようなドキュメント的なものってあるんですかね?
長谷川:どうだろうね。例えば鈴木親さんがやってるようなことって、基本的には軸がモードにあると思うんだよね。モードな服を街に落とし込んでいくと、街との違和感ということになると思うんだけど、同じ街での撮影でも、俺の場合、馴染ませる方向だから、また違うジャンルだなって思う。
フイナム:なるほど。
長谷川:そう思うと、なかなかないのかもね、出発地点が違うから。でも、時々自分自身も何やってるんだろうって思うんだよね(笑)。
不確実さを面白がる。
長谷川:今は、もうちょっとインプットの数を増やしていきたいと思っています。そうじゃないと、ただダラダラした感じになって、なんか同人誌みたいな感じになってるんですよね(笑)。今は、よくも悪くもみんな好きにやらせてくれるので。
菅付:うんうん。
長谷川:僕は仕事の9割がファッション業界の仕事なんですけど、たまにアーティストとかやっても、僕がやってる仕事をすごく好いてくれている人が多いから、好きにやらせてくれて、 それで満足してくれるんです。それはすごく嬉しいし、いい仕事なんですけど、そうやって好きにやってOKな場所ばっかりが増えていると、インプットがもう少し必要だなと感じるんです。あとは自分で今服も作ってて、それを撮影したりもするんですけど、自分が作った服をスタイリングしても、自分自身としては、あんまり面白くないんですよね。やっぱり他人が作った服をスタイリングすることは大事だなって、最近すごく思う。
フイナム:なるほど。。
長谷川:自分としては、仮に変な服を扱っても、それなりに落とし込める技術がなんとなくあるなって、ちょっと思い始めていて。だからそこをもっと駆使していけることの喜びというのがスタイリストしてあるんだなって思うんですよね。自分で服を作ると、やっぱりスタイリングしやすい方向に作っちゃうし、それは物作りには必要ではあるんですが、スタイリストとしては、そのつまんなさってあるなって思います。
菅付:編集者も結構似てると思いますよ。僕は編集者は情報の料理人だと思ってるから。その情報は外から来るわけじゃないですか。今度こういうレコードが出ます、映画が公開されます、こんな服が出ます、こういう人がインタビューされたがってます、というのが来て、それをどう料理するかという。おしゃれっぽく露出したいというリクエストだったら、ファッションっぽいスタイリストをつけて、その人が好きそうな物語性を付けて、みたいな感じで組み合わせていくわけじゃないですか。
フイナム:まさに。
菅付:料理人のように、今日入った食材はなんだろうと日々思いながら作っていくわけですよね。今日は不作で普段入ってくるものはないけど、逆に今日はこれがたくさん採れたというのもあるだろうし。ある材料のなかで、どう時代感を出していくか。今日は暑いしこういうものを食べたいだろうな、あんまり熱々のは食べたくないだろうなとか、そういうことを考えながらやるわけじゃないですか。そこが面白いですよね。
長谷川:うんうん。
菅付:だから編集は一種のゲームというか。ただ、このゲームにルールはないから、全部自分で決めていいよとなると、あんまり面白くなくて。ある程度条件が付いたゲームのなかで戦って、俺の方が他の奴よりうまいだろうという面白さってあるじゃないですか。
長谷川:ありますよね。だからハードルがいくつかあった方がいいんでよね。
菅付:スタイリストもある種、情報の料理人だし、気分を演出する仕事ですよね。時代の気分を。2022年の春はこんな感じ、夏はこんな感じですよってことを演出してるわけじゃないですか。ちょっとだけゲームを逸脱する面白さというのもあるんだけど、一応ルールを守っているという方が面白いですよね。
フイナム:やっぱりその時の気分ってありますよね。長谷川さんは今そういうモードにあるということだと思うんですけど、ファッションにしたって、デニム履かないなって思ってても、ちょっとした気分の変化でしれっとデニム履いたりすることはあるでしょうし。
菅付:メディアだって、ちょっと前まで「デニムは終わった」と書いてたのに、普通にまたデニム特集とかやるわけですからね(笑)。
フイナム:そういうある種の軽薄さ、ってありますよね。
菅付:そう、ファッションは軽薄だからいいんですよ。
長谷川:そうなんですよね。
菅付:ファッションは軽薄じゃなかったらおしまいですね。軽薄だねって永遠に言われている方がいいと思います。軽薄というのは、言い換えると軽やかに変化できるということです。ファッションは他のジャンルよりも軽薄であった方がよくて、それは他よりも早く変化できるということですから。
長谷川:本当そうですね。やっぱり人の感覚って、右に行ったら左に行きたくなるみたいなことがありますよね。それが人の性というか。だから先のことなんてわかんないですもんね。明日すらわかんない方が楽しいというか。