AKIO HASEGAWA. HOUYHNHNM

2025.12.6 Up
Style of Authentic

ノルウェーの普通。

Case 154
森のなかで暮らすということ。
どこで暮らし、何に幸せを感じるか。価値観は人それぞれ。自然とともにある国、ノルウェーの人々はおしなべておおらかで、のんびりしているような気がする。森のなかでレイドバックしながら暮らす、とあるご家族のお宅を少しだけ覗かせてもらった。

文:小牟田亮

これまでノルウェー、オスロで働くひとたちの生活を追いかけてきたけれど、それでノルウェーについてある程度理解できたかというとそんなことはなく、まだまだ未知の国だ。今回、ご縁があって、コーディネーターのりこさんのご友人のお宅を拝見できることになった。市井の人の暮らしを拝見できれば、少しはこの国に対しての解像度が上がるだろうか。

オスロの中心部から電車で30分ほど揺られて辿り着いたのは、無人駅の「Snippen(スニッペン)」。ここに来るまでに美しい湖のほとりを通ってきたのだけれど、ノルウェーの自然は壮観で本当に素晴らしい。国土面積は日本と同じくらいだが、その大半が山に覆われているという、自然とともにある国だ。

駅から歩いてすぐのところにあるのが、アンドレアスさん、ロッタさんご夫婦のお宅だ。2020年に完成したというこの家は、仲間とともにDIYで作り上げたものだという。最初はこの土地に建てられていた家をリノベーションしようとしたのだが、あまりの程度の悪さに断念して、新しく建てたそう。「昔はこの辺にダメな人たち(笑)が集まって住んでいたので、家があんまりケアされてなかったみたい。作りもちょっと雑だったから、一から作ることにしたよ」

娘のビリーちゃんと出迎えてくれたアンドレアスさん。

〈HELLY HANSEN〉Men's Moss Raincoat(HELLY HANSEN)

この日も晴天からの曇天で、雨は降らず。とはいえ、この辺りは山のなかであり、天気は変わりやすく雨具は必須だ。〈HELLY HANSEN〉の「Men's Moss Raincoat」は、この家のトーンにもぴったりハマるクラシックな装い。鮮やかなイエローもなんだか落ち着いて見える。

玄関を入ってすぐのところにある物置も、色調がまとまっていてセンスがいい。ひとつひとつを見てみると、昔ながらのアウトドアブランドなどが並んでいる。茶色やベージュなどアーシーなカラーリングが目立つ。

すべて木材を用いて作られた空間は、自然由来のものならではの温もりに満ちている。素材はパインツリー(松の木)。最近のスカンジナビアの家具のトレンドが、パインツリーになってきているそう。ちなみに床暖房完備。「オイルとかそういう類のものは何も塗ってないよ。もうしばらくすると黄色くなってくると思うんだけど、それも楽しみなんだ」

敷地内には菜園があり、そこで採れたハーブをウォッカに混ぜてお酒を作ったり、そこらへんに生えているというブルーベリーを摘んで保存しておき、ジャムを作ったり。自給自足というほどではないけれど、無理なく自然の恵みを取り入れるライフスタイルは地に足がついていて、エコロジカルでサステナブルな暮らしぶりが、ごく当たり前のものとして存在していた。

おばあちゃんが編んだセーターを着ているビリーちゃん。

家の裏には小川があり、川のせせらぎが家の中にいても聞こえてくる。

母家の目の前にある倉庫には、外遊び用のギアがぎっしり。アンドレアスさんのインスタを見てみると、早くも雪山遊びに夢中の様子。

玄関を含めた扉は、鮮やかなグリーンで統一している。ノルウェーでは農場などでよく使われている伝統的なカラーリングだそう。玄関が半分づつ開く仕様なのは、雪が降ったときに下だけ開けて出入りできるようにするため。雪国の知恵だ。そしてよく見ると、張り合わせたパネルの幅が異なっている。これは木材の取り都合をよくするための工夫で、上が太く下が細いものと、上が細く下が太いものを交互に組み替えているのだ。

およそ1年間くらいかけて作っている(現在進行形)というこの家は、ノルウェーの伝統的な食べ物倉庫を、模した形なんだとか。家をセルフビルドすること自体は、日本でもなくはないだろうが、アンドレアスさんの場合は、仕事を休んでフルタイムの主夫となり、家づくりと子育てなどに従事している。

「僕は2000人くらいしかいない『Telemark(テレマルク)』という地域の出身だから、こういうところに住むのは落ち着くんだよね。それにこのあたりのコミュニティには、なにかしらものづくりをしていたり、面白い人が多いんだ。犬ぞりを作ってる人もいるよ」

都市の中心部まで電車で30分とは思えないくらい自然との距離が近く、ゆっくりと時間が流れている場所だった。あまりにのんびりしてしまい、あやうく電車の時間に間に合わなくなるところだった。

STAFF

Direction & Styling _Akio Hasegawa
Photograph_Seishi Shirakawa
Coordination_Rico Iriyama
Production & Text_Ryo Komuta

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