文:中川繁
「京都はマイレージ制だから」と東京の友人は言っていた。せっせと京都詣を繰り返し、店を訪れ、人と出会う。そうやってマイルを積み重ねることで、一見ではアクセスできない場所に行けたり、体験ができるのだと。
他の街も一緒じゃない?という思いがよぎったが、すぐに打ち消した。たしかに京都は紹介や仲介がものをいう世界。よそ者が出過ぎた真似をすると、涼しい顔をしてスッと離れていってしまう。でも、それは古くからのご贔屓や常連を大切にする気持ちの表れ。
だから、というわけではないが、京都とはほど良い距離を保つように心がけている。無理に近づこうとせず、そっと憧れの眼差しを向ける。例えるなら、アーティストとファンの関係性。そんな間柄が自分にとっては心地いい。
この日の京都もそうだった。向かったのは、中華ひしめく京都において、純北京料理(と看板に書いてあった)を提供する老舗レストラン「東華菜館」。少しドキドキしながら、鴨川沿いにそびえるあの荘厳な洋館にお邪魔した。
「東華菜館」の前身は「矢尾政」という洋食レストランで、京都で初めて生ビールを提供した店として知られている。大戦中、洋食の提供が難しくなると、建物は中国・山東省出身の友人、于永善さんに託され、1945年に「東華菜館」としてオープンした。
現在、お店を切り盛りするのは、3代目の于修忠さん、修海さん、修徳さんの三兄弟。宮廷料理をルーツとする北京料理の伝統を守りながらも、押し付けは一切なく、こちらの緊張も自然と和らいでいく。
マイル修行はとっくに諦めたが、そんな自分でも十二分に楽しめるのが、京都という街の奥深さ。この日も美味しい食事と楽しいお酒をたらふくいただき、名残惜しく京都駅を後にしたのだった。
東華菜館
住所:京都府京都市下京区四条大橋西詰
電話:075-221-1147
営業:平日 11:30~15:00(ラストオーダー14:30)、17:00~21:30(ラストオーダー21:00)
土日祝 11:30~21:30(ラストオーダー21:00)
週1日 不定休
www.tohkasaikan.com