文:中川繁
 
    「京都はマイレージ制だから」と東京の友人は言っていた。せっせと京都詣を繰り返し、店を訪れ、人と出会う。そうやってマイルを積み重ねることで、一見ではアクセスできない場所に行けたり、体験ができるのだと。
    
    他の街も一緒じゃない?という思いがよぎったが、すぐに打ち消した。たしかに京都は紹介や仲介がものをいう世界。よそ者が出過ぎた真似をすると、涼しい顔をしてスッと離れていってしまう。でも、それは古くからのご贔屓や常連を大切にする気持ちの表れ。
  
 
 
    だから、というわけではないが、京都とはほど良い距離を保つように心がけている。無理に近づこうとせず、そっと憧れの眼差しを向ける。例えるなら、アーティストとファンの関係性。そんな間柄が自分にとっては心地いい。
    
    この日の京都もそうだった。向かったのは、中華ひしめく京都において、純北京料理(と看板に書いてあった)を提供する老舗レストラン「東華菜館」。少しドキドキしながら、鴨川沿いにそびえるあの荘厳な洋館にお邪魔した。
  
 
  スパニッシュ・バロック様式の洋館は1924年の竣工。当時の最新鋭として導入されたOTIS社製のエレベーターは、入念なメンテナンスのもと今なお元気に稼働している。
 
 
  前菜の盛り合わせ。この日は、クラゲの甘酢和え、蒸し鶏の冷製、煮豚、大根甘酢ビーツ漬け、イカの和え物など7種。瓶ビールをお供にチビチビいきたい。*写真は8人前(以下、同)
 
  〈POLO RALPH LAUREN〉タートルネックセーター ¥61,600(RALPH LAUREN)
 
 
  こっくりとした味わいのフカヒレスープ。最近では戻したフカヒレが多く流通しているが、「東華菜館」では手間暇をかけて乾物から戻し、スープに仕立てている。
 
 
  揚げ物は牛肉の湯葉巻きと海老団子の2種。カラッと揚がっていて、重さはない。そして味わいはジューシー。
 
  海鮮炒め。この日は帆立とイカ、それにクラゲ。このクラゲの存在が絶妙で、コリコリとした食感が心地良い。
 
  プリプリの海老を香ばしい油で揚げて、甘辛のチリソースを和えた海老の唐辛子炒め。アラカルトにはなく、コースでしか味わえないメニュー。
 
    「東華菜館」の前身は「矢尾政」という洋食レストランで、京都で初めて生ビールを提供した店として知られている。大戦中、洋食の提供が難しくなると、建物は中国・山東省出身の友人、于永善さんに託され、1945年に「東華菜館」としてオープンした。
    
    現在、お店を切り盛りするのは、3代目の于修忠さん、修海さん、修徳さんの三兄弟。宮廷料理をルーツとする北京料理の伝統を守りながらも、押し付けは一切なく、こちらの緊張も自然と和らいでいく。
  
 
  スペアリブの甘酢がけ。ほんのり効かせた甘酢が食欲を掻き立てる。願わくば、紹興酒をいきたい。
 
  せっかくだしね、と追加オーダーした北京ダック。じっくり香ばしく焼き上げたパリパリの皮と自家製の甜面醤のマッチングが見事で、濃厚な旨味が口いっぱいに広がる。幸せ。
 
  ニラ餃子はアンにしっかり味がついているので、そのままでもイケる。ちなみに北京料理で餃子といえば、焼きや蒸しではなく、水餃子が王道なのだとか。
 
  中華スイーツの定番、揚げ団子。「東華菜館」ではゴマを使わないシンプルな仕上げ。見た目も味わいも素朴で潔い。
 
  締めは、季節のフルーツを添えた自家製の杏仁豆腐。ここまでコース9品にアラカルト1品で、計10点。もう腹パン。コース¥6,600、北京ダック(4巻)¥4,000
マイル修行はとっくに諦めたが、そんな自分でも十二分に楽しめるのが、京都という街の奥深さ。この日も美味しい食事と楽しいお酒をたらふくいただき、名残惜しく京都駅を後にしたのだった。
 
    東華菜館
    住所:京都府京都市下京区四条大橋西詰
    電話:075-221-1147
    営業:平日 11:30~15:00(ラストオーダー14:30)、17:00~21:30(ラストオーダー21:00)
    土日祝 11:30~21:30(ラストオーダー21:00)
    週1日 不定休
    www.tohkasaikan.com
  
 
		
	 
		 
				
			 
			
 
						 
						 
						 
				 
				 
			