フイナム:今回のテーマは〈ポロ ラルフ ローレン〉です。今シーズンは「Timeless Style」というテーマのもと、過去のアーカイヴから選りすぐりのピースを集めた、ベスト盤的なコレクションとなっています。担当の方からコレクションの核となるアイテムのお話を伺ってきたので、ヴィジュアルとともにお話を進めていきましょう。
長谷川:お願いします。
フイナム:まずはこのキャメルヘアーのポロコートです。
長谷川:ポロコートの定義ってなんなの?
フイナム:ポロ競技の選手がゲームの合間に羽織っていたベンチコートを由来としていて、ダブルブレストで大振りのピークドラペル、そしてゆったりとした設計が特徴となっているそうです。
長谷川:ずいぶんクラシックなんだね。毎シーズン必ず作ってるの?
フイナム:「必ず」とは限らないのですが、Mr.ラルフ・ローレンの愛用品ということもあり、定期的にこの型のコートを作っているそうです。
長谷川:へー。知らなかった。
フイナム:今シーズンのポロコートは、英国の老舗ミル「ジョシュア・エリス」で織られたキャメルヘアーを贅沢に使い、アメリカのファクトリーで仕立てられています。
長谷川:ラクダの毛なんだね。
フイナム:はい。ちなみに〈ポロ ラルフ ローレン〉が、マテリアルの供給元を明かすのはちょっと珍しいそうです。
長谷川:たしかに。聞いた覚えがないかも。
フイナム:コレクションに対する意気込みですかね。今シーズンは作り込みに一層磨きがかかっています。
フイナム:続いてブレザーです。「RL67」とネーミングされた定番品で、持ち出し付きの上衿、フラップポケット、2ボタンというのが特徴的なディテールです。
長谷川:いつからあるんだっけ?
フイナム:このデザインは1971年に生まれたそうです。
長谷川:ということは、50年以上あるんだ。ヤバいね。その間に廃れた服なんてたくさんあるわけじゃん。
フイナム:5年前ですら、今袖を通すのがはばかられる服ってありますね。
長谷川:世の中には変なデザインの服があるけど、ああいうものを買っても何の得にもならないからね。だったらこういうクラシックな服を買った方がいいと思う。中がどうしようもないラフな服でも、これさえ着ておけば「ちゃんとした人」に見られる。そういうのってファッションでは大事なことだと思うんだよね。
たとえば外国に行ったときに、俺のことを何も知らない人は俺がどんな人間なのか見当もつかないと思うんだ。そんなときに変な服を着てるよりも、クラシックで質の良い素材のジャケットや靴を、しかもいい感じにスタイリングして身につけている人の方が安心して接することができると思うんだ。もし変な靴を履いてたら、こいつ大丈夫かなって不安になって心を開けないと思う。俺だったらそう思うから。
フイナム:今回のヴィジュアルではクリケット セーターにシャツ、それにタイを締めてましたが、ここまできちんとしなくともいいんですかね?
長谷川:うん。きちんと着るのはそれはそれで難しいよね。やりすぎに見えてしまうし、似合わない人は本当に似合わないから。
フイナム:それで敬遠してしまう人もいますよね。
長谷川:でもスーツとは違うから、そこまでルールに縛られなくていいんだよね。(今回のヴィジュアルでは)クリケット セーターの下をシャツにしたけど、別にTシャツでもいいし。あとはタートルとか。そうやって崩した方がブレザーは着やすいのかもね。
フイナム:そしてダッフルコートです。ウールツイルのボディに、トグルが4つ付いたオーセンティックなスタイルなんですが、中にインサレーションを仕込んでいます。
長谷川:暖かそうだね。
フイナム:ダッフルコートというと、以前にダッフルコートの上にフィッシャーマンセーターをスタイリングした写真をインスタにアップしてましたよね?
長谷川:ああ、北村勝彦さん(『POPEYE』の初代ファッションディレクター)のね。ドーバー海峡に面したライという港町があって、そこの漁師が実際にやっていた重ね着だったみたいで。
フイナム:〈ポロ ラルフ ローレン〉のヴィジュアルでも以前に再現したことがあるみたいですよ。
長谷川:へー。でも、なんで逆じゃないんだろう。
フイナム:一説では、トグルが漁網に引っかからないように、ということみたいです。
長谷川:なるほどね。
フイナム:今回のヴィジュアルも、北村式に負けず劣らずの見応えのあるレイヤードですね。そして肩に掛けたカーディガンが効いてます。
長谷川:〈ポロ ラルフ ローレン〉の過去のヴィジュアルで、雪柄のセーターの上に雪柄のセーターを肩に掛けているのを見たことがあって。パッと見ではよく分からないんだけど、セーターの上にセーターを重ねる発想がすごいなって思ったんだ。
フイナム:シャツの上にセーター。で、暑いからそれを肩に掛ける、というのが自然ですもんね。
長谷川:セーターをただ着るものではなく、明らかに肩に掛けるものとして捉えているだよね、〈ラルフ ローレン〉は。
フイナム:聞くところによると、セーターの掛け方やあしらいのテクニックを社内で共有しているそうですよ。
長谷川:へー。
フイナム:ただマフラーを巻くより雰囲気が出るんですかね。
長谷川:マフラーはマフラーで色々な巻き方があるけどね。でもマフラーはマフラーでしかないからさ、やっぱりセーターの方が面白いんじゃない? あと便利だし、着ることもできるから。
フイナム:そう言われると、肩掛け用のセーターが欲しくなってきました。
長谷川:俺は柄物の服って着ないけど、肩に掛ける場合は柄物の方が圧倒的にカッコいいと思うよ。特にホリデーシーズンの雪柄とか、ちょっと憧れるよね。
フイナム:日本ではまだ馴染みがないカルチャーですが、気分が上がりますよね。
フイナム:最後のダウンジャケットは、ここ数年の〈ポロ ラルフ ローレン〉の定番品です。脱着式のフードが付いたデザインで、650フィルパワーのダウンを充填しています。
長谷川:ダウンジャケットってアウトドアショップに行くと、アウトドア然としたものが並んでいるけど、こういうクラシックな見た目の方がジャケットを合わせたりもできるし、ファッションとして着られるよね。
フイナム:色も黒とか濃色を選びがちですよね。アウトドア物だと。
長谷川:あとさ、ダウンジャケットって機能的すぎてしまって、普通に着ても面白くないなってスタイリスト的には思うんだよね。それだけで完結してしまうから。
フイナム:究極的には、インナーがTシャツでも成り立つわけで。
長谷川:うん。そして完結するわりに貧乏くさいんだよね。スーパーに行く格好みたいで(笑)。
フイナム:笑
長谷川:合理的すぎちゃって、もうちょっとファンタジーが欲しい。
フイナム:ヴィジュアルではツイードのジャケットを中に着せていますね。
長谷川:これも北村さんオマージュ。以前見た本で、ツイードジャケットの上に60/40のマウンテンパーカーを着る、みたいなのがあって。そういう着方のアレンジがある方が魅力的だよね。
フイナム:とすると、そこまでスペックも必要ないのかもですね。
長谷川:そうだね。雪山に行くわけじゃないし、街で着られる程度のクオリティで十分なんだよ。
フイナム:アイテムの特性上、機能主義に走りがちなアイテムではありますよね。
長谷川:そういうものがずっと付きまとっていたよね。スペックがないと意味がないんじゃないか?って思われるぐらい。でも、それも温暖化によって、またちょっと違った価値観が生まれるのかもね、これからは。