AKIO HASEGAWA. HOUYHNHNM

2023.12.22 Up
Focus on

気になる服とか人とか。

Vol.56
ミラ・ナカシマ展
世界中の家具好きに一目置かれているジョージ・ナカシマ。 目利きと名高いラフ・シモンズやトム・フォード、そして 〈LOEWE〉のジョナサン・アンダーソンも愛好しているとか。 長谷川さんもまたその魅力に惹かれ、いくつか所持しているそうです。 数多あるほかの家具と、どこが違うのか。ウッドワーカー、ジョージ・ナカシマの想いを娘のミラ・ナカシマに聞いてみましょう。

about ミラ・ナカシマ展

「桜製作所」の創業75周年、創業者生誕100年を記念し「桜製作所 銀座店」にて開催されている。

PROFILE

ミラ・ナカシマ

ハーバード大学にて建築を学び、早稲田大学大学院で修士号を取得。 父であるジョージ・ナカシマの工房で、デザイナーとして20年共に働く。1990年父の亡き後、工房を引き継ぎ、社長兼クリエイティブディレクターとしてその理念と家具制作を継承。同時に自身の作品も次々発表。現在も、ペンシルバニア州ニューホープの工房「George Nakashima Woodworker」で家族と共に制作を続けている。

ENKLE

“普通でちょうどいい”、身のまわりのモノを集めたギャラリーショールーム。現代作家のうつわやアートから、ジョージ・ナカシマの家具まで、日々の暮らしを少し高揚させるモノに出会える場所を展開中。

長谷川昭雄

ファッションディレクター、スタイリスト。英国の雑誌『MONOCLE』の創刊より制作に参画、ファッションページの基礎を構築。2015年には同誌のファッションディレクターに就任。2012年から2018年秋まで雑誌『POPEYE』のファッションディレクターを務めた。2023年より〈CAHLUMN〉、「andreM hoffwann」をスタート。

20世紀の家具デザイン界に、偉大かつ独自の足跡を残したジョージ・ナカシマ。

1990年に亡くなった後は、1970年より父のもとで研鑽を重ねた娘のミラ・ナカシマが、アメリカ・ニューホープにある「ジョージ・ナカシマ工房」の運営を引き継ぎ、運営を行ってきた。

そして同工房以外で唯一、ジョージ・ナカシマ作品の製作を許されているのが、1948年に高松顕と永見眞一が創業し永見宏介が継ぐ、香川県高松市の桜製作所」だ。

今回の「ミラ・ナカシマ展」は、「桜製作所」の創業75周年、そして創業者生誕100年に合わせて企画されたもの。

「桜製作所」が初めて製作を手がけるミラ・ナカシマ作品が並ぶほか、「ジョージ・ナカシマ工房」との協業のもとに生み出された特別な作品が、数多く展示・販売されている。

本展に合わせて4年ぶりに来日したミラ・ナカシマに、東京銀座の「桜製作所 銀座店」にて話を聞いた。

フイナム:今日はお時間をいただきありがとうございます。4年ぶりの来日ということですが、日本語がすごくお上手ですね。

ミラ:ありがとうございます。一週間おきぐらいに(「桜製作所」の永見)宏介さんとオンラインでお話しをしているのでなんとか。だんだん忘れてくるんですが、日本に来てから少しづつ思い出してきました(笑)。

フイナム:今回のイベントは結構前から企画してたんですか?

エンケル:本当は、ジョージ・ナカシマさんの没後30周年(2020年)に、ミラさんが来日されるというお話だったのですが、コロナでのびのびになっていたんです。

長谷川:「桜製作所」は、今年75周年なんですよね。

ミラ:はい。私が最初に日本に来たのは、ちょうど60年前でした。アメリカの学校を卒業して、日本に来て六本木の日本語学校に通って、日本語を毎日勉強しました。そのあと早稲田大学の大学院に入って、1966年に卒業しました。そして結婚をして出産を控えていたので、1970年にアメリカに戻ったのです。

長谷川:小田急で開催されたジョージ・ナカシマの展示が1968年だったと、先ほど伺いました。

ミラ:「小田急ハルク」でやった展示ですね。9回やりました。

長谷川:お父様のジョージさんも頻繁に日本にいらっしゃってたんですか?

ミラ:はい。だいたい1ヶ月間ぐらい日本に来ては、高松の「桜製作所」でいろんなものを作ったり、設計したり、指導したりしてました。

エンケル:1回目の展示会には剣持勇さんや渡辺力さんなど、日本のモダニズムの基礎を作られた方々が集結していたそうです。

フイナム:桜製作所との出会いを教えてください。

ミラ:父は、1960年代初めに(彫刻家の)流政之さんに会って、その紹介で 「桜製作所」を訪れ、そして高松の「讃岐民具蓮」と知り合ったんです。そのあと深い関係になりました。

長谷川:すごく長い間柄なんですね。

ミラ:そうですね。私は後から気づいたんですが、父と民藝の柳(宗悦)先生の考え方はそっくりでした。それは偶然ではないと思います。

フイナム:なんと。

ミラ:考え方の基本にあるのは、あくまでも自然の材料ありきということです。

長谷川:素材を活かすということなんですね。

ミラ:そうです。西洋では自分の希望の形がなにより大事で、どの材料でもいいという考え方があります。

長谷川:ナカシマの家具は、テーブルにしても天板に木がそのまま使われてますし、全然違いますよね。

ミラ:木を挽くときは、どんなものになるのかを考えながらやるんです。ミケランジェロと同じですね(笑)。

フイナム:ナカシマの家具に使われている樹種はブラックウォールナットが多いと思うんですが、ミラさんが一番好きな樹種はなんですか?

ミラ:やっぱりウォールナットは好きです。あと凸凹しているのも好きですね。カリフォルニアのクルミはだいぶ凸凹していて、そういうのがアメリカの工房に置いてあるんです。

エンケル:クラロウォールナットですね。ブラックとは少し色味も表情も違うものです。

ミラ:父が最初に家具を作り始めたときは、まっすぐな木しか手に入らなかったので、デザインもまっすぐな感じでしたけど、年月を経ると面白い材料が手に入るようになったので、デザインも変わってきました。

長谷川:やっぱり日本よりカリフォルニアの方が、ワイルドな木が多いんですか?

ミラ:そうかもしれません。人間もそうですね(笑)。

フイナム:笑

長谷川:昔にデザインされた家具は、なんかちょっと違いますよね。

ミラ:父が手がけた古いデザインの家具は、道具もあんまりなかった時代なので、本当に手で作っていたし、脚も自分で削っていたみたいです。

長谷川:だから直線的じゃない感じがするんですね。

ミラ:昔は柔らかい木を使っていたから、手で削れたんです。ウォールナットは硬いから大変です。

エンケル:当時はウォールナットのような高級な木が簡単には手に入らなかったから、使いやすい木を使ったということなんですか?

ミラ:はい。最初は安い木しか使えなかったんです。

長谷川:ミラさんは子供の頃から家具とか建築とかにご興味があったんですか?

ミラ:自分から興味を持ったわけではなかったと思うんですけど、いつも父の工場にいました。母にはお父さんのところで遊んでなさいってよく言われてましたね(笑)。

長谷川:そういうものを見て、ずっと育ってきたんですね。

ミラ:父は、私に建築を勉強してほしかったんだと思います。5歳くらいのときには、この壁を作るにはしっかりとした意志をもちなさいというようなことを言われていたので。

長谷川:ジョージさんはアメリカで生まれたんですよね。

ミラ:はい、2世です。

長谷川:育ったのもアメリカですよね。こういう日本的なデザインっていうのは、どうやって学んだんですか?

ミラ: だいぶ若いときに、一度親戚に会いに来日していたようですが、その後30代ぐらいで(アントニン)レーモンド事務所で2〜3年働いていたのが大きかったと思います。

フイナム:なるほど。

ミラ:レーモンドさんの建築にはいろいろな日本のディテールが使われていましたから。逆に、私は全然日本のことを知らなかったんです。初めて日本に来たのは22歳のときで、3年間滞在して、アメリカに帰って初めて日本的なことがどんなことなのか、ようやくわかりました。

長谷川:そうなんですね。

ミラ:レーモンド事務所に勤めていたときは、吉村順三さんが1番親しい友達だったようです。吉村さんが桂離宮などの日本の素晴らしい建築物にたくさん連れていってくださったと聞いています。あとは当時、大工さんにいろいろなことを習ったようです。大工さんたちは家を作る前に材料を集めますよね。そのやり方に影響を受けています。

長谷川:ナカシマさんのデザインって、日本的だけどアメリカ的な感じもあって新鮮ですよね。

ミラ:はい。ハイブリッドです。

エンケル:あとはシェイカーからの影響を受けているんですよね。

ミラ:そうですね。民藝の心に近いところもあると思うんですけど。

長谷川:アメリカンカルチャーとミックスされていることで、モダンジャパニーズな感じがあるというか。そこがいいですよね。

ミラ:戦後、多くの日系人はもう日本と関係を持ちたくないと思っていたんです。そんななか、父は日本の文化、伝統を大事に守って、アメリカに日本の美とセンスを紹介していました。自分のなかに、日本の心がしっかりとあったんだと思います。

フイナム:今回の展示のビジュアルでメインになっているのは、ミラさんがデザインされたコンコルディアチェアです。

エンケル:今回、「桜製作所」で作ったコンコルディアチェアを日本で初めて発売することになりました。

フイナム:2003年デザインということで、わりと最近のものですね。

長谷川:今も、新しいデザインを作ったりするんですか?

ミラ:はい。けれどお客さんの多くは古いデザインの家具を注文しますね。ベースは当時のもので、寸法や厚みを変える方が多いです。あとは天板の大きさによっても、デザインやバランスは変わります。

フイナム:お客さんのオーダー次第で、ちょっとサイズを小さくしたり、もしくはウォールナットじゃないものを使ったりもできるんですか?

ミラ:はい、そうです。

長谷川:僕も最初テーブルを買ったときは、まず天板を選びました。天板のデザインや形状にも好みがありますよね。

フイナム:ニューホープの「ジョージ・ナカシマ工房」に来るお客様は、工房で木を見て自分で選べるんですか?

ミラ:はい。コロナのときには写真を撮ってやりとりをしていましたけど、やっぱり実際に見て決めてもらう方がいいですね。

フイナム:ニューホープの工房にある木材は、近くの山から取ることが多いんですか?

ミラ:昔はそうでしたね。今は家がたくさん建っているので、近所の山からはとれないんですけど。今はペンシルヴァニア州の山々から木を探しています。

エンケル:お客様は世界中からいらっしゃるんですか?

ミラ:そうですね。でも最近ドルが高くなったから、外国からの注文は少なくなくなったかもしれません(笑)。

フイナム:確かに(笑)。

長谷川:送料も高いでしょうしね。アメリカ以外で作ってるのは、日本だけなんですよね。

ミラ:そうです。だからアジアから注文が来たら、日本で作った方がいいですよと案内しています。

長谷川:現状、日本で作っているナカシマデザインの種類を今後はもっと増やしていったりすることもあるんですか?

ミラ:はい。新しいモデルを作るのはなかなか難しいのですが。

長谷川:あそこにあるラウンジアーム、形が面白いですね。

エンケル:あれはクラロウォールナットを使っています。

長谷川:いつもはもうちょっとシンプルな感じですよね。

ミラ:そうなんです。今回は特別な樹種を使っているので、少し値段が高いです。

フイナム:1番人気の椅子ってあるんですか?

ミラ:コノイドチェアですね。

長谷川さんが所有する物と同デザインの「コノイドチェア」。

フイナム:あ、やっぱり。

長谷川:背もたれの木の色がだんだん濃くなっていくんですよね。でも、うちのやつはなかなか濃くならないです。

ミラ:何年前に買ったんですか?

長谷川:10年ぐらい前ですかね。

ミラ:そうですか。もうちょっと待ってください(笑)。

長谷川:笑

エンケル:これは30年くらい前のものだそうです。

長谷川:これぐらい濃くなりたいですよね。

フイナム:ミラさん、ご自身でお好きな椅子とかあるんですか。

ミラ:1番好きなのは、やっぱり自分の名前がついたミラチェアですね(笑)。

フイナム:長谷川さん、コノイドチェアのほかには何を持っているんですか?

長谷川:大きいテーブルかな。食卓として使ってるんだけど、そこでものを書いたり、ものを置きっぱなしで食事もできるからすごく便利。

ミラ:私の食卓もそんな感じです(笑)。

長谷川:やっぱり日本の家にすごく馴染むんですよね。あんまり無理をしなくてもいいというか。他の家具だと、もうちょっとヨーロッパっぽくしないと合わなかったりとか。

ミラ:わかります。

長谷川:日本の家に置いてある小物や、自分の持ってる服と一緒になったときに、すごく自然に見える家具だと思います。生活していくうえで扱いやすいし、見てても気持ちいいんです。

ミラ:ありがとうございます。

長谷川:以前この近くで働いていて、このお店で初めてナカシマのテーブルを見てかっこいいなと思ったんですけど、当時ジョージ・ナカシマのことは知らなかったんです。帰ってから色々調べてて、 これもかっこいいなと思ったものが、このお店で見たものと同じブランドだったんだっていうのを後から知りました。

ミラ:そうだったんですね。

長谷川:天板の有機的なデザインと、日本的な感じがあるんだけど、どこか違うというところにすごく惹かれたんです。今日お話を伺っていて、シェイカーの影響もあると聞いて、そのミックスしてる感じがすごくいいなと思いました。

フイナム:今回、お披露目された『PROCESS BOOK by Mira Nakashima』はミラさんが監修されたとのことですが、これはどういったものなんですか?

ミラ:カタログの代わりに作りました。以前はカタログがあったんですけど、結局掲載されている家具とまったく同じものは作れないんです。なぜなら木はひとつひとつ違うので。

フイナム:たしかに。

ミラ:お客さんにこれと同じものが欲しいと言われても難しいので、考え方、やり方を伝える方がいいのかなと思ったんです。

フイナム:それでプロセスブックなんですね。

エンケル:ミラさんが描かれたイラストなども載っています。

フイナム:これはコンコルディアチェアとともに、本展においてメイン的な扱いとなっているコノイドコーヒーテーブルです。

エンケル:こういうふうに一本の丸太から板を挽いて、左右対称に並べることをブックマッチというんです。

フイナム:すごい迫力ですね。

ミラ:こういう木を乾燥させるには、まずだいたい5年間ぐらい自然乾燥させます。

長谷川:5年も。

ミラ:そうです、それから乾燥機に入れるんです。

長谷川:アメリカは日本に比べるとわりと乾燥してますよね。だから日本だとその期間がもっと長くなりそうです。

ミラ:木は長い時間をかけて乾燥させないと、動いたり割れたりするんです。また、木材を保管している倉庫はエアコンで湿度を管理しています。そうしないと一回乾いた木材の湿度をキープできないんです。

フイナム:なるほど。

ミラ:最近それを覚えました。父の時代にはそんなこと知りませんでした(笑)。

長谷川:家具はオイルでコーティングをしていますが、そうすると乾燥をキープできるんですか?

ミラ:乾燥のためにというか、割れを防ぐためのものなんです。

エンケル:ブックマッチの天板は、2枚の板をビタ付けしてしまうと、板が動くので反り返って割れてしまうということで、2、3ミリだけ開けてるらしいんです。

長谷川:へぇ、それで開いてるんだ。知らなかった。

ミラ:そうなんです。コーティングには、日本ではウレタン、アメリカでは主にオイル、ときにウレタンを使います。でもアメリカのウレタンと日本のは違いますね。日本の方が断然質がいいです(笑)。

エンケル:アメリカと日本とではオイルも違うんですか。

ミラ:はい。材料が違うので。乾き方が違いますね。

フイナム:やっぱりアメリカで作ったものと日本で作ったものでは、違いますよね。

ミラ:そうですね。職人も違いますし、道具もちょっと違うので。

エンケル:ラフ・シモンズが日本に来たときに大きいベンチとかを色々とオーダーしていったそうなんですが、「アメリカと日本でオイルが違う」というようなことを言っていたらしくて。それで日米でオイルの違いってあるのかなと、お伺いしてみたくて。

長谷川:ラフ・シモンズってナカシマの家具が好きなんだ。

エンケル:はい。自宅でも結構たくさん使っているらしく、テーブルとかたくさん持ってるみたいです。

長谷川:すごい細かい人らしいよね。

エンケル:マニアックですよね。

フイナム:会場にもレイアウトされていますが、ナカシマの家具はイサム・ノグチの「AKARI」とよく合いますよね。

ミラ:本当にそう思います。やっぱり同じような感覚を持っていたんだと思います。ノグチ先生も、日本の技術と材料に敬意を払ってデザインをしていましたから。

フイナム:このノグチサイドテーブルは、ジョージ・ナカシマの友人であったイサム・ノグチに敬意を評して、ミラさんがデザインされたものだそうですね。

ミラ:はい。ノグチ先生は父と同じ頃に亡くなられました。私としては三角に近い板が見つかったら、作ろうと考えていました。

長谷川:この脚、面白いですよね。

ミラ:面白いことは面白いんですけど、作りにくいです(笑)。 寸法も角度も全部違っているので、図面を書くのも大変でした。作るのはもっと大変でした(笑)。

長谷川:木によって角度も違うんですね。

ミラ:三角形のイメージで作ったんですけど。天板はそうじゃないこともありますので。

フイナム:随分長くお時間をいただいてしまいました。最後に、今後やりたいことがあったら教えてください。

ミラ:父もやっていたことなんですが、日本とアメリカの職人がお互いに行き来して、働いたらいいんじゃないでしょうか。

エンケル:職人の交流ですね。

ミラ:そうです。この先、将来的にお互いにいろいろ勉強できるようになればいいなと思うんです。

フイナム:すごく素敵です。アメリカと日本にルーツを持つナカシマの家具だからこそ、そうした取り組みには意義があるのだと思います。

長谷川:今日は貴重なお話をありがとうございました。

ミラ・ナカシマ展

日程:〜12月26日(火)
時間:11:00〜18:30
会場:桜製作所 銀座店
住所:東京都中央区銀座3-10-7 ヒューリック銀座三丁目ビル1F
電話:03-3547-8118

STAFF

Direction&Comment_Akio Hasegawa
Cooperation_ENKLE
Edit_Ryo Komuta、Shun Koda

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