AKIO HASEGAWA. HOUYHNHNM

2023.9.15 Up
Focus on

気になる服とか人とか。

Vol.52
ずっと気になっていたLuftのこと
in 那覇
これから沖縄へ行くのなら
そのスケジュールは週末がいい。
木曜から土曜はLuft shopが営業している。

那覇の壺屋でやちむんの窯元やショップを巡っているとき、立ち寄った店がある。そこは日本各地の作り手と協業したプロダクトを揃えるショールーム的なスペースで、家具や雑貨、生活用品が整然と並べられていた。心を奪われたのは、その品々。どれも見た目こそ普通ながら、造形はシャープで無駄がない。だからといって、ストイックな感じはなく、どこか親しみのある不思議なバランス。ついさっきまで、どっしりとおおらかなやちむんばかり見ていたからか、そのプロダクトの数々はとても印象的に映った。帰り際に看板を覗くと「Luft shop」とある。以来、僕はこの店をウォッチしている。

この店を主宰するのは、沖縄を拠点に空間や家具、プロダクトを手掛けるデザイン事務所、Luft。その真喜志奈美さんと桶田千夏子さんがショップの運営にあたっている。一体どんな人たちなんだろう? 今回の沖縄特集で、是非取材をしてみたいと思っていた。

革の抜き型製造を手掛ける〈日本スエーデン〉との取り組みから生まれたキーホルダーと財布。“ENVELOPE”というシリーズのプロダクトで、直線のみで構成されたミニマルなデザインをコンセプトにしている。その下にあるPCケースは墨田区にある〈墨田革漉〉との取り組み。ピッグスキンを薄く漉いて、袋状に設計。ステッチが表に出ない分、シャープなルックスが際立っている。〈日本スエーデン〉財布 ¥16,500、キーホルダー ¥1,650、〈墨田革漉〉革袋(11インチ)¥3,850、革袋(13インチ)¥4,180

真喜志奈美さんはLuftの設立メンバーの一人。美術家の父と染織家の母のもと18歳まで沖縄で過ごし、東京の美大で工芸工業デザインを学んだ。その後はベルリンに留学。大学院を卒業するとソウルへ渡った。

「ドイツには韓国人の留学生がいっぱいいて、自然と韓国人の友達が増えたんです。それで、韓国って面白いのかな?と思うようになって。いざ遊びに行くと、共感できるデザイナーが沢山いたんです。インテリアデザインの業界も活発で、日本よりも私には合っているような気がして。それで韓国のインテリア事務所に就職しました」(真喜志)

その後、友人とデザイン事務所を設立。2003年に帰国するまでの間、ソウルでインテリアデザインや家具デザインに励んだ。帰国後、東京に事務所を開設すると、その活動がヨーガン・レール氏の目に留まる。店舗ディスプレイから始まった取り組みは、やがて店舗設計へと発展。ヨーガン氏が亡くなった今なおブランドとのリレーションは続いている。

縦にも横にも、組み合わせ自在な箱型シェルフ「LAUAN SHELVES」。このスクエアタイプはショップオープンに合わせて新たに設計したもの。丁寧にサンディング処理を施した断面が美しい。〈Luft〉シェルフ「LAUAN SHELVES SQUARE」¥55,000~

大学の同級生、竹島智子さんとLuftを設立したのは2005年のこと。その活動初期の代表作がラワン合板を使った箱型の棚「LAUAN SHELVES」だ。その誕生には、韓国での経験が影響しているという。

「韓国で働いていた当時、合板というとラワンしかなかったんです。最初は仕方なく使っていたのですが、使い続けていくうちにその魅力に気づいて。ラワン合板って強い木目がないんですよ。そしてアジアっぽさがある。韓国でも香港でも日本でもどこでも手に入って、それぞれお国柄というか、仕上げが違うのも面白いと思って。以来、使い続けています」(真喜志)

暮らしに合わせて自在に変化する「LAUAN SHELVES」は、その後「D&DEPARTMENT」によって見出され、シリーズ販売されることに。この縁がきっかけになって、真喜志さんは「D&DEPARTMENT」の沖縄出店の発起人となる。地域のロングライフデザインを発掘するコミュニティショップとの関わりは、故郷の文化や歴史と正面から向き合う機会となった。

「18から沖縄を離れていたので、沖縄のことを全く知らなかったんです。そして積極的に目を向けてこなかったことに気付かされた。D&DEPARTMENTのプロジェクトを通じて、クラフトの作家や職人と繋がったことはとても大きかったです」(真喜志)

沖縄でのものづくりは苦労がつきまとう。大きくは地理的なデメリット。素材を調達するにしても、外から仕入れようとするとコストがかかる。工夫を凝らしながら、その土地で手に入るものでなんとかする。その姿勢に大きな影響を受けたという。

それぞれ異なる沖縄県産木材を使ったペーパーコードのチェア。家具は今後リストにまとめ、用途に合わせ細かなニーズに応える体制を整えていくという。上から〈Luft〉リーディングチェア(クスノキ)¥132,000、チェア(イタジイ)¥82,500、コンパクトスツール(ソウシジュ)¥52,800

立ち上げに参加した「D&DEPARTMENT OKINAWA by OKINAWA STANDARD(現:D&DEPARTMENT OKINAWA by PLAZA 3)」は、2012年にオープンする。その後もディレクターとして、商品開発や展示会の企画は続いていった。東京と沖縄を往復する日々。そんな生活を送るうちに、ふと「沖縄に帰ろうかな」という思いが巡る。生まれた場所に捉われない人生を歩んできた真喜志さんにとって、それは大きな決断だった。そして2014年、東京から沖縄へ活動の拠点を移すことになる。

その頃、Luftにはもう一つ大きな変化があった。それが、2012年に入所した桶田千夏子さんの存在だ。

東京で生まれ育った桶田さん。幼い頃から法律家を志し、大学で法律を学ぶ。事情によりその道を断念せざるをえなくなったとき、頭に浮かんだのは昔から好きだった食の世界だった。そして清澄白河に「山食堂」という店を開く。

「定食屋さんの小鉢によくあるひじきやきんぴら。主役として脚光を浴びることの少ない、あれを本気でやってみたらどうなんだろう?ということをやってみたかったんです」(桶田)

コンセプトは、完全に家庭料理の店。エクストリームな普通を打ち出す店は瞬く間に話題となった。その味はもちろん、桶田さんが大工さんと作り上げた空間も評判を呼んだ。

「〈Jurgen Lehl〉のスタッフの方に教わったんです。『すごく良い店があるよ』って。実際行ってみたら、ご飯も美味しかったし、なにより空間が良かった」(真喜志)

桶田さんが身体を壊してしまい、食堂の切り盛りが難しくなると、真喜志さんは桶田さんにLuftへの参加を勧める。その誘い文句は「こんな空間を作れるなら、デザインもできるはず」。こうして、桶田さんはLuftのメンバーに加わった。

右は桶田さんが手がけた醤油差し。小ぶりで手のひらに収まるサイズ感で、一目見て醤油差しと分かるベーシックなデザイン。左は真喜志さんがデザインしたウォーターグラス。喫茶店で見る、あの二段グラスのディテールをブラッシュアップして、シャープなルックスに仕上げた。〈木村硝子店〉醤油差し ¥3,080、グラス ¥2,310

事務や素材探しから始まり、少しずつプロダクトデザインへと足を踏み入れていく桶田さん。その強みは、食に対する繊細な視点。調理をする上で生じる不具合や食卓に潜む違和感は、人一倍敏感に感じ取ることができる。そんな桶田さんならではの視点が息づいたプロダクトが、〈木村硝子店〉とともに制作した醤油差し「テーブルソイソース」だ。

「醤油差しって、減ったら継ぎ足されることが多くて、なかなか洗うきっかけがないですよね。それが衛生的に嫌だったんです。そのとき使う量だけを入れて、使い終わったら洗う。そうすれば気持ちよく使えるんじゃないかって」(桶田)

その後、プレートやボウル、オーブン用食器など、テーブルウェアのラインナップが充実していく。メーカーから依頼を受けて作ることもあれば、自主企画もある。新たなデザインと向き合うとき、桶田さんが心に留めるのは食卓の光景。

「自分は作家物の器も大量生産の器もどちらも好きなんですけど、そこと戦うものにはしたくないという思いがあります。作家物の器の横に並んでも、大量生産の器の横に並んでも違和感がない。そういう“ちょうどいい存在”に惹かれます」(桶田)

桶田さんの入所による食へのアプローチは、Luftに新たな展開をもたらした。次第に飲食関連の案件が増え、店舗設計から家具、はては食器に至るまで、一貫した提案が可能になったという。

オーブン用食器は、キッチン用品専門店〈Flying Saucer〉との取り組み。「軽いものは取り回しはいいのですが、すぐに冷めてしまう。時代に逆行するのかもしれませんが、あえて厚みを出して、熱くても持ちやすく、そして洗いやすい形状にしました」と桶田さん。下に敷いたレザーマットは、革製品の製造過程で廃棄されがちな床革という部位を積層したもの。〈Flying Saucer〉オーブン用食器(ホワイト)¥4,620、(アメ)¥5,060、レザーマット ¥2,750

そして2020年、Luftの活動が新たな転機を迎える。それが那覇にオープンした「Luft shop」だ。これまでに〈Jurgen Lehl〉や〈minä perhonen〉など、数々の店舗デザインを手掛けてきたLuftだが、自身の店を持つのは初めてのこと。その出店に際して、特にこだわったのはロケーションだった。でないと、やりたいことが出来ないと思ったから。

「決して特別な店をやろうとしているわけじゃないんです。沖縄の人たちが家具に困ったときに立ち寄って欲しい、そういう気持ちで始めたんですよ。私たちのことを一切知らなくて、でもなんとなくフィーリングが合う人と出会うのは、こういう場所がいいなって」(真喜志)

ギャラリーや器の店、アンティークショップなど、多様な店が並ぶ浮島通り。その通りに面した「Luft shop」へは、あたりを散策する人、市場に買い物に来たついでにフラッと立ち寄る人など、老若男女、多彩な顔ぶれが訪れる。

営業は木金土の3日間。通常のショップ営業もあれば、企画展も度々開催している。あるときはプロダクト制作を共にした作家を招いた展示があり、あるときは食事を振る舞うイベントがあり、またあるときはDJを入れたパーティがある。その展開は自由で軽快だ。

「店という空間がどう変わっていくかってことに興味があるんですよ。だから企画をやるのは楽しいですね。そういうことは自分の空間じゃないできないから」(真喜志)

「去年はちょっと企画をやり過ぎたかもしれません(笑)。普段は何の店ですか?って状態で」(桶田)

やりとりを聞いていると、この箱を手にした喜びがこちらにまで伝わってくる。

このオルタナティブなスペースは2人の手によって今後どのように変化するのだろう。これからもウォッチを続けたい。

Luft Shop
住所:沖縄県那覇市壺屋1-7-16-103
電話:098-988-1391
営業時間:13:00~18:00
定休日:日曜日~水曜日 ※臨時休業あり

INFORMATION

Luft Shop Instagram:@makishi_luft

STAFF

Direction_Akio Hasegawa
Photo_Seishi Shirakawa
Composition&Text_Shigeru Nakagawa
Edit_Ryo Komuta、Shun Koda

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