AKIO HASEGAWA. HOUYHNHNM

2023.9.5 Up
Focus on

気になる服とか人とか。

Vol.51
沖縄の青と琉球藍研究所
in 豊見城
深く濃い海のような
沖縄伝統の青、琉球藍。
その色を継承する研究所へ
僕らは向かった。

チャンプルーやラフテーといった郷土料理があるように、沖縄には沖縄の青がある。それが古くから親しまれてきた琉球藍だ。安価に手に入る化学合成インディゴが普及し、手間のかかる藍の仕事に従事する人が減少するなか、藍染の技術を次の世代へと継承するべく「琉球藍研究所」は活動している。その代表としてタクトを振るのが、リゾートウェアブランド「レキオ」のデザイナー嘉数義成さん。ファッションデザイナーから、農業へ。文字通り、畑違いの業界にどうして飛び込んだのか。その答えは実にシンプルだった。

「琉球藍染めの服を作ろうとした当初は、年配の方が作っている琉球藍を分けてもらおうと思っていたんです。ところが生産工場に発注する際に必要な最低発注数に対して、現状の藍の生産では足りないことが分かって。そこで原料を安定生産するためには自分たちで作るしかないと思い、農業を始めました」。

意気込みは十分。しかし、嘉数さんは農業未経験。順風満帆な船出とはいかず、すぐさま自然の洗礼を浴びることとなった。

「沖縄本島北部の東村にある耕作放棄地を確保したんですが、そこは作物の栽培には不向きな粘土質の赤土。そのうえ、琉球藍は沖縄の植物なのに日光に弱いんです。はじめは周囲からも『無理だ』と言われたんですが、古い文献を調べたり、琉球大学の研究部の力を借りたり、試行錯誤するうちにこれはいけるかもと思ったんです。ところが、ようやく琉球藍を収穫できるまで育てたと思ったら台風が来て枯れてしまったり。最初の数年間はトラブルの連続でしたね」。

それでも「諦めよう」とは一度も思わなかった。植えつけ時期や土壌、光の当て具合、水やり加減を工夫して最適な栽培法を模索し、8年目を迎えた現在では畑は約1万坪まで広がった。サッカーコート4面分の広さだ。

幾多の困難を乗り越えて育った琉球藍は、徳島の蒅(すくも)で染めた蓼藍(たであい)のスカッとした青とは異なり、染色方法にもよるがグレイッシュな色合いになるのだという。そして、他の品種と比べ、インディゴの含有量が豊富なため、少ない染色の回数で深く、そして濃く染まるそう。

葉から抽出した泥藍と呼ばれる“沈殿藍”。これを水に溶かしても、生地は染まらない。

「そのままだと生地の隅々まで染料が行き渡らず、すぐに色が落ちてしまいます。染めるためには不溶性から水溶性に変化させる必要があるんです。そのために微生物の餌となる、水飴と泡盛を加える。そうすると発酵が進み、染色に必要な藍建てが完成するんです」。

泡盛を加えるところが何とも沖縄らしい。その隠し味がグレイッシュな青の秘密なのかもしれないと思いつつ、実際に藍染めを体験させてもらうことにした。

服をじゃぼんと漬けて染めるために必要なのが、深さのある染色槽。この中には800ℓの染液が溜まっており、つくるのに500〜600kgの藍葉が必要なのだとか。相当な苦労と時間を要するのは容易に想像できる。

染料の上澄みにたまったブクブクとした泡は、「藍の華」と呼ばれており、染料がうまく発酵しているかどうかを判断するバロメーターの一つでもある。

染色槽の中にTシャツを2〜3分漬け込み、生地全体がまんべくなく染まるように力強く揉み込んでいく。染液から上げてみると、青というより緑っぽい。……まさか、失敗?

「緑の状態から空気に触れさせると酸化して青に変わるんです。酸化と還元を何度も繰り返し、色のレイヤーを重ねていくことで綺麗な藍色になりますよ」。そう聞いて一安心。

5〜6回染色を繰り返したあと脱水し、染料を定着させるため、天日干し。しかし、藍染にとって紫外線は色落ちの原因なはず……。

「天然染色特有のアクが、色のくすみの原因になるんです。紫外線で焼いたあと、40℃のお湯につけておくと黄茶色いアクがドバッと水に溶け出すんです。天日干しをするか、しないかで色の彩度に関わってきます」。

100枚、200枚など、大量に染める場合でも、一気に漬け込むなんて横着はしない。1枚1枚丁寧に染め上げ、乾かしていくのだという。現代のタイパやコスパとは逆行するような手間暇だが、それゆえに個体差があり、それぞれ異なった表情に仕上がるのだ。

タンスに仕舞ったままの藍染の服が黄ばんでいるように感じたら、天日干ししてから、お湯につけておくといいそう。

スタッフさんに仕上げを任せて後日届いたTシャツは、2度染色しただけのため、色が浅くムラがある。だけど、自分の手で染めただけあって、これはこれで愛着が湧いてくる。

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「琉球藍研究所」のスタッフさんに染めてもらったショルダーバッグ。上の淡色は5回、下の濃色は10回染色している。地厚なキャンバス地なのに、さすがはプロの仕事、隅々まで色が均一に染め上がっている。化学染料では表現し得ない、深いグレイッシュな青に染まっている。

作業を終えた手は真っ青。とある文献によると手が藍色に染まった職人はモテると書かれていたが、「今は全くそんなことないです」とのこと。残念。

さまざまなブランドの染色を手がけるだけでなく、琉球藍が次世代へと継承されるよう、ワークショップも行っている。その視線は未来へ、そして世界へと向いている。

「ワークショップをやっているのも、若い子たちに興味を持ってもらうため。『あの青綺麗だったな』とか、『藍染めって臭かった』とか何でもいいんです。琉球藍に携わる人が増えれば、もっと広くアピールしていけると思います。それと、この色を武器に世界へ挑戦したい。布や糸を染めるだけじゃない、別の手法も模索していきたいんです。それもこれも原料ありきなので、根本の農業は自分たちできっちりとやっていく。仲間が増えたのでクオリティは安定してきましたが、畑の天気は常に気がかりです。こればかりは何年経ってもコントロールできないですからね(笑)」。

琉球藍研究所
場所:沖縄県豊見城市字豊見城1114番地1(おきなわ工芸の杜内)
オフィシャルサイト

INFORMATION

琉球藍研究所 Instagram:@ryukyu_indigo_labo

STAFF

Direction_Akio Hasegawa
Photo_Seishi Shirakawa
Composition_Shigeru Nakagawa
Edit_Ryo Komuta、Shun Koda

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