PROFILE
編集者、PR、ブックディレクターを経て、ブックレーベル〈STACKS〉を設立。国内外の様々なジャンルのアーティストの作品をコンパイルした同名のジンを定期リリースする。また昨年8月には実店舗となるSTACKS BOOKSTOREを渋谷神山町にオープンした。
ファッションディレクター、スタイリスト。英国の雑誌『モノクル(MONOCLE)』では創刊よりファッションページの基礎を構築。2015年にはファッションディレクターに。2012年より2018年秋まで『ポパイ』のファッションディレクターを務めた。
フイナム:これは階段脇の壁面に描かれたグラフィティです。TONERと読むんですか?
山下:うーん。海外の人ですかね。自分もよくわかっていないんですけど、結構前からある気がします。
長谷川:そのわりには、はっきり残ってるよね。
山下:たしかに。
フイナム:これはスローアップになるんですか?
山下:小さめのブロックバスターですかね。
長谷川:へー、ブロックバスター。
山下:はい。ブロック状に文字を描くのをブロックバスターと呼んでますね。
長谷川:文字一つ一つが分離しているもの?
山下:それが絶対条件じゃないですけど、分離しているものも多いですね。何て描かれているか読みやすいってのが特徴です。
フイナム:これは描かれている場所も絶妙ですね。
長谷川:うん。景色に溶け込んでいる。
山下:行政が意図しないところで、街の景色が変わっていくのがグラフィティの醍醐味だと思いますし、自分はそういうところに惹かれますね。こういった変電ボックスとか、普通に生活していたら目が行かない場所もグラフィティライターからすると表現の場になりますよね。
長谷川:うんうん。
フイナム:この変電ボックスも色々なライターの痕跡がありますね。
山下:代表的なところだと、EKYSさんも描いています。東京でグラフィティがもっと盛んだった頃によく目にした方です。井の頭線の駅のホームから見える場所に、大きなブロックバスターを描いたりもしていて。
長谷川:「グラフィティがもっと盛んだった頃」って、いつ頃の話なの?
山下:2000年~2010年頃とかですかね。
長谷川:それは監視カメラの数が増えていったから描きづらくなった、みたいなこと?
山下:そうですね。監視カメラ問題も理由の一つだと思います。
長谷川:やっぱりそうなんだ。
山下:これはグラフィティが消された痕ですね。ライターの間ではバフと呼んでます。
長谷川:街中でよく見るよね。
山下:オリスタくん(アーティストの山口幸士さん)っているじゃないですか。彼はこういう光景をモチーフに作品を描いてたりもしてますね。バフされてパッチワーク状になった壁を、街に点在する美しい自然と並列で描く彼の視点がすごく好きで。
長谷川:ああ、良いよね。俺も撮影場所を探すときに、出来るだけ要素が少ない背景を探すのね。そうすると、まさにバフされた壁だったり、ということがよくあるんだよね。あとは、ただの壁。でもそれが、ロケ場所っぽいと嫌だから、わざわざ民家っぽいところを探したりするの。その結果、オリスタさんが描いている光景と近いところで撮っていることが多いんだよね。だから彼の作品を見たときに、すごく共感するものがあったんだ。
フイナム:絵画を学んでいる人が好んで描こうとする場所ではないですよね。
長谷川:うん。そういう場所じゃない。
長谷川:これはECYさん?
山下:彼はタグもスローアップもステッカーもやるんですが、こんなところに?みたいな場所に、ちょこっとタグを残していたりするんですよね。グラフィティーにおける場所選びの魅力を伝えてくれるアーティストです。
長谷川:カッコ良いね。
山下:そこにあるから面白い、みたいな。
フイナム:ECYさんの作品は他にもありました。これは標識の後ろに描かれています。
長谷川:あー、あったね。
フイナム:裏だったら描いてもすぐには撤去されないだろう、という狙いもあったりするんですかね?
山下:それもあるかもしれないですね。
長谷川:俺、前から気になっていたんだよね。路上で写真を撮るときに、一方通行とか標識の裏側が映り込むことがあるんだけど、なんか変な感じに見えるんだよね。標識が表側の方が写真的には良いんだけど、色々な事情で裏側になることがあって、そういうときに大体なんか描いてあるの。なんでなんだろう?とずっと思ってたんだけど、この世界の話だったんだね。
山下:そうですね。
長谷川:でも、時々表にも描いているのもない?
山下:普通は表ですね。
長谷川:そうなんだ。じゃ裏は上級者?
山下:やっていない自分が言うのもなんですけど、玄人的な感じはします(笑)。
長谷川:そうなんだ(笑)。
長谷川:面白い場所で言うと、俺はPUTSさんが良いと思ったな。皆がバーッと描いているところがあったんだけど、PUTSさんはちょっと離れたところにポツンと描いているの。なんかスケーター的なセンスを感じたな。
山下:そういう世界観はグラフィティライター全般にあると思いますが、PUTSさんからは特にそれを感じますね。
長谷川:うんうん。
山下:ステッカーの貼り方にしても、一つはPと描いてて、ちょっと離れたところにUがあるみたいな。PUTSさんを知らないと、PとUが繋がっているのもよく分からない。
長谷川:しかも、このステッカーって送り状じゃない?
山下:そうですそうです。
長谷川:そこがまたグッと来るよね。
山下:わかります。PUTSさんだと、自分はこれが良いなって思いましたね。
長谷川:これ、キテるよね。
フイナム:ドアに2つの赤いポストが付いてますね。
山下:一つはステッカーが既に貼られていて、もう一つはスペースが空いていたんでしょうね。そこを狙った感じです。家主も思わず笑っちゃうかもみたいな。
長谷川:良いよね。「ポストのここにスペースがあるから描いてくださいよ」って言われても、それは「イヤだ」ってなるわけじゃん。頼まれたらイヤだけど、自分で見つけたらOKなわけであってさ。そういう探す楽しさもあるんだろうね。
山下:それは絶対あると思います。
長谷川:俺も俺で街の見方があるんだけど、それは撮影用だからさ。どこにでもあるような場所が良いんだけど、どこでも良いわけじゃないっていう。
フイナム:撮影にしろ、グラフィティにしろ、その場所である必然がある。
長谷川:そうそう。だから俺もさっき歩いてて、こっちの電柱でも良いじゃんって思ったけど、そういうことじゃないんだよなって。
山下:ちゃんと意味があるんですよね。
長谷川:いやー、勉強になるね。面白い。今度また行こうよ。
フイナム:次はどこに行きましょう?
山下:今度はしっかりしたピースみたいなのを見に行きましょうか。
長谷川:そうだね。そうしよう。
山下:路上の美術館みたいなノリもあって、グラフィティのまた違う一面を見せられると思います。
長谷川:へー、楽しみだね。