about nanamica
都市生活のなかで、風や雨などの自然の変化に対応できる機能を持つウェアや、 休みの日に海で過ごすときなどに着たいと思うウェアなど、日常の中でなるべく長く付き合えるアーバンな仕様のアウトドアウェア。〈ナナミカ(nanamica)〉は「七つの海の家」という意味。
フイナム:今回は〈ナナミカ〉といえば、の「ゴアテックス」のコートについて、話しましょう!
長谷川:寒いからね。まだコートは必要。しかも「ゴアテックス」なら、春先でも着られるからね。定番のコート、そしてそれをベースにして、一昨年、俺からお願いをして寸法を替えてもらったビッグコート、そして、この秋冬に発売になったバルマカーンコートと、似たような「ゴアテックス」のコートが3着あるんだよね。
フイナム:一見同じように見えるコートでも、並べてみると全然違いますね。ただ、なかなかこういう風に比べることってないですもんね。
長谷川:そう。俺も何が違うのか知りたいし、買う人もどこが違うのか、わかった方がいいんじゃないかなって思って。
フイナム:色々細かいことを聞きたいので、今回は〈ナナミカ〉の方にも来ていただきました。
長谷川:まず、これが〈ナナミカ〉でずっと作ってる定番のコート。横に少し見切れてるのが、俺モデルのビッグコート。全然大きさが違うよね。
フイナム:何年間くらい作ってるんですか?
ナナミカ:今年で13年目です。細かいところをちょこちょこマイナーチェンジ、アップデートをしてるんですが、表地がコットンで、3レイヤーというところは変わっていません。
長谷川:コンサバなコートだよね。
フイナム:そうですね。幅広い層に受け入れられやすいというか。
ナナミカ:「ピッティ イマージネ ウオモ(イタリアで開催される世界最大級のメンズ見本市)」で初めに出したときから、すごく好評でした。日本よりもまずは海外で売れたんです。
長谷川:そうなんだ。言われてみると、なんかイタリアっぽいよね。イタリアって意外とこういう機能系の服があるじゃない。〈ヘルノ〉とかさ。あとそもそもでいえば〈プラダ〉とかもそうだよね。パラシュートクロスとかを使ってたり。
ナナミカ:たしかに。ちなみに海外のなかでもとくにヨーロッパで受けがいいんです。
長谷川:クラシックな感じだからなのかな。イギリスの人も好きそうだよね。
ナナミカ:まさに。イギリスが一番大きい取引先なんです。
フイナム:あと、もしかしたら傘をささない文化っていうのも関係あるのかもしれませんね。
長谷川:あー、そういうのもあるかもね。そういえば、『モノクル』やってたときに、編集長のタイラー(ブリュレ)が、ページを作るときにいつも「使って欲しいブランドリスト」を出してきてたんだけど、そこによく〈ナナミカ〉が入ってたな。このコートをよく使ってたよ。
フイナム:タイラーってイギリス人でしたっけ?
長谷川:イギリス在住なんだけど、元々はカナダの人だね。彼はヨーロッパのクラシックでベーシックなものと、日本の職人の技術とか細やかな感覚みたいなものが好きで、こういうコンサバで機能的な服にはすごく興味があったんだと思う。
フイナム:〈ナナミカ〉ってコンサバというか、見た目は地味ですよね。ただそのなかでも、このコートで特徴的なのは肩の作りです。これ珍しいですよね。
ナナミカ:はい。前がセットインスリーブで、後ろがラグランスリーブになっています。
長谷川:そうそう、この肩の設計はポイントだよね。このコートの生地って、ちょっとゴワゴワしてるんだけど、それでも腕を上げやすいように、こういう作りにしているみたい。
ナナミカ:あとはセットインスリーブだと、少しカチッとしすぎるのかもしれません。ビジネスマン向けのコートっぽくなるというか。オンオフ両方で着られるようなコート、というのが狙いだったので。
長谷川:その肩の設計が、ありそうでないディテールですごくこだわってたから、俺が作らせてもらった大きいコートのときもその仕様を採用したんだけど、最初はうまくいかなかったんだよね。
フイナム:そうなんですか?
長谷川:サイズを大きくしていくと、このままの形っていうわけにはいかなかったの。
ナナミカ:そうでしたね。グレーディングをそのまま上げただけではないですよね。
長谷川:そう、なんか肩の部分がボコッと出ちゃったんだよね。
ナナミカ:だから肩の位置を下げて、ドロップショルダーみたいな形にしました。
長谷川:けっこう大きくしたんだよね。と言うのも、最初〈ナナミカ〉の仕事を始めたときは、まだ世間は小さい服が主流で、デカい服を着たがってる人なんて全然いなかったから、当然〈ナナミカ〉のラインナップも小さめだったんだよね。ヨーロッパなんてピタピタな人しかいないから。でも、俺はどうしても大きいサイズで撮影したくて、無理言って一番大きいサイズの服で撮影させてもらってたんだよね。けど、それでもなんか小さい気がしてて。それでいろんな話をするなかで、大きいコートを作ろうっていうことになったんだよね。で、試着してみてもらって、小さい方がいいやって人はそれを選べばいいんじゃない?っていう話もしてたんだ。小さいのもあるけど、大きいのもあるんだよっていうサイズ展開が大事だし、それが魅力的に見えるのは、デザインが普通だからこそなんだよね。そしてクオリティが高い。安いものではないけど、このクオリティに対して考えたら、すごく安いんだよね。最終的にそこを知ってもらうことがもっとも大事なんじゃないかって思ったんだ。
フイナム:それが2年くらい前ですか?
長谷川:そうだったかな。けど、この2年くらいでずいぶん時代が変わったよね。〈ナナミカ〉だけじゃなくて、世の中の服のシルエットが全体的に大きくなった。俺はすごく嬉しいよ。今やデカい服がどこに行っても手に入る。
長谷川:それをさらにグレードアップさせたのが、今回のバルマカーンコートみたいだね。
フイナム:これは20AWシーズンに登場した新型です。
ナナミカ:これまでのコートは中国製だったんですけど、今回のは東北にある、フォーマルなコートなどを縫製する高い技術を持つ工場で作っています。
フイナム:「ゴアテックス」を使ってるということは、当然認定工場ですよね。さっきのコートに比べるとちょっと高いですね。
長谷川:俺のコートもそもそも利益率をすごく下げて販売していたんだけど、これはさらに生地の値段も全然違うから、値段はするけど、結局これも利益は薄いんじゃないの? そもそも「ゴアテックス」で表面がコットンのコートって、世界でも〈ナナミカ〉しか作らせてもらえないからね。
ナナミカ:これまでのコートは、30番手単糸の平織りで作っていて、今回のバルマカーンは、60番手双糸で綾織り、さらにタテ糸とヨコ糸で色を変えています。光沢があるのはそのためなんです。
長谷川:きちんとしたブランドのバルマカーンコートってさ、もっと全然高いじゃない? 15万~20万とかは普通にすると思う。そういうのを買ってきた人からすると、全然高く感じないんじゃないかな。
フイナム:そうですね。日本製で作るってなると、やっぱりある程度の価格にはなりますしね。
長谷川:そうそう。日本の職人さんの工賃とかも考えると、安いんじゃないかな。日本人って根本的にやっぱり細かいし丁寧だと思うよ。真面目。いくつかいろんな種類の工場を見てきたことあるけど、みんなとても丁寧な仕事をしていたよ。
ナナミカ:ただ、決して中国製のものが悪いわけではないんです。ずっと「ゴアテックス」のアイテムを作ってるから、工場のレベルもかなり高いので。
長谷川:そうみたいだね。今や中国製もブランドだよね。
ナナミカ:あと大きく違うのは、中国製のコートの方は3レイヤーで、このバルマカーンコートは2レイヤーです。3レイヤーの方は「ゴアテックス」のフィルムを表地と裏地でサンドしてる分、生地にハリが出ますけど、2レイヤーの方はもっとこう体に馴染んでくる感じですね。
長谷川:全然違うよね。
長谷川:防水という意味では、もうちょっとクラシックな感じのコートもあるけど、このコートはとにかく快適だよね。満員電車に乗っても蒸れないから、いちいち脱がなくてもいいしね。
フイナム:そうですね。あの手のコートは、どこかやせ我慢して着るみたいなところがあるのかもしれません。
長谷川:まぁやっぱりかっこいいいけどね、ああいうのも。けどさ、2021年にはこんなに快適なコートがもうあるわけだからね。
ナナミカ:通勤で使う方なんかは、毎日着てくださってるみたいです。
長谷川:わかる。すごく万能だと思う。
フイナム:ちなみにこういう「ゴアテックス」のアイテム、長谷川さんはどういう風にケアしてるんですか?
長谷川:俺は普通にマシーンウオッシュしちゃう。
フイナム:品質表示を見るとドライになってるので、「ゴアテックス」的にはそれは推奨はしてないみたいですけどね(笑)。
長谷川:まぁ、俺の場合はってことなので(笑)。
ナナミカ:はい、それでお願いします(笑)。
フイナム:表地はコットンなので、洗うとアタリが出てきそうですね。
長谷川:「ゴアテックス」って洗わない人が多いと思うんだけど、そうなると単純に汚れがたまってくるんじゃないかな。毛穴に汚れが詰まってるみたいなもんだよね。ずっと顔を洗ってない人っていうか。
フイナム:急にものすごい汚いイメージになりますね(笑)。
ナナミカ:ただ、実際に撥水効果も落ちてきてしまうんです。
フイナム:今日ユーゴに着てもらってるのはXLなんですけど、とにかく大きいですね、これ。
ナナミカ:グローバルでの展開を考えてのサイズ感なんですが、こうして見てみるととくに腕が長いですね。
長谷川:けど、袖丈を詰めるのは全然対応可能なんだよね。というかそれだけじゃなくて修理もちゃんとやってくれる。
ナナミカ:はい。「ゴアテックス」のアイテムって、袖口のところがどうしても擦れて、中のフィルムが見えてきてしまうんですが、それがすごく気になる方もいるんです。このバルマカーンに関しては、袖の先に「ゴアテックス」のフィルムがない生地をこれ用に作って、縫い合わせているので、その部分だけを交換できるんです。
フイナム:めちゃくちゃいいですね、それ。
長谷川:やっぱり袖口って気づかないうちにすごく擦れるんだよね。ウールのコートとかもさ。シーズン終わる頃にはどうしてもよれちゃうし。だからここを変えられるのは、すごくいいよね。
フイナム:もしかしたら気にしない人もいるかもしれませんけど、やっぱり10万超えのコートですし、長く着るためにはこのサービスはすごくありがたいです。
長谷川:アフターケアに関しては、やっぱりすごいよ。アウトドアスポーツの世界では当たり前なんだろうけど、いまはそういうケアをしっかりやってるところってほとんどないしさ。
ナナミカ:アフターサービスに関しては色々と考えていることがあるんです。商品を永く着ていただくためには何が必要なのか、ということをサービスとして形にしていきたいと思っています。
フイナム:サスティナブルという企業文化が「ゴールドウイン」、そして〈ナナミカ〉にはありますよね。
長谷川:うん、精神性が違うと思う。
フイナム:お直し屋さんではなくて、ブランドがこういうことをやってくれるのっていいですね。
長谷川:そういえば、あるお直し屋さんがブランドと組んでやりたいって言ってたな。そういうところと組んでやるのもいいかもね。
フイナム:ところで今回のスタイリングでは、スエット上下に合わせてますね。
長谷川:そうだね。最近はずっとこんな感じ。
フイナム:スエットってなんにでも合うんですね。今回みたいなクラシックなコートでも。
長谷川:というよりも、こういうコートがなんにでも合うんだと思う。覆ってしまって、隠れてしまうから(笑)。
フイナム:たしかにそれはあるかもしれないですね。
長谷川:俺はそういう理由でコートを着ていることが多いんだよね。
フイナム:たしかにいつもコート着てますね。
長谷川:でしょ? スタイリングを組むときって全体像から入るんだけど、いつも着てる服になると、だいたい靴はこれ、帽子はこれって決まってくるんだよね。で、コートを着るってなると、前の隙間から見える部分をどうしようっていう話でしかないというか。あとは当日の気温を考えて、なかに着るものの厚さを変えるっていう。
フイナム:あんまりいろんなことを考えなくていいんですね。
長谷川:そう。日々の決定事項を減らすことは重要だと思う。
フイナム:楽なのは大事ですよね。
長谷川:そういう意味でなかはセットアップでいたい、楽だから(笑)。けど、あるときそういうのは良くないって思って、スエットをやめたんだよね。ちゃんとした服を着ようって。
フイナム:じゃあ、戻ってきたんですね。
長谷川:そう、コロナをきっかけに(笑)。まぁそういう観点からもコートはいいんだけど、それだけじゃなくてコートにはきちんとお金を使っておけば、他のものがそうでもなくても、それなりに見えるからすごく大事だと思うよ。