about DESCENDANT
〈WTAPS®〉のデザイナーである西山徹が、オーセンティックでどの時代にあっても古くなることのないスタンダードな服をテーマに、2015年春夏シーズンよりスタートさせたブランド。トレンドとは距離を置き、世間の潮流に左右されない確固たる価値観を持つ人たちに選んでもらえるような、普遍的なものづくりを続けている。
PROFILE
1993年に〈FORTY PERCENT AGAINST RIGHTS®〉、1996年に〈WTAPS®〉をそれぞれスタート。TOKYOのストリートシーンを牽引し続けるキーマン。2014年からは〈DESCENDANT®〉もスタート。独自のアプローチでライフスタイルを提案している。
ファッションディレクター、スタイリスト。英国の雑誌『モノクル(MONOCLE)』では創刊よりファッションページの基礎を構築。2015年にはファッションディレクターに。2012年より2018年秋まで『ポパイ』のファッションディレクターを務めた。
長谷川:半袖シャツって、実はスタイリングが難しかったりするんですよね。
西山:そうかもね。ブランドによってはまったくないところもあるしね。
長谷川:はい。サイズが大きいとまだ使いやすいんですけど、ジャストサイズだとけっこう難しくて。着る人にもよるんですけど、ジャストサイズだと地味な感じの浪人生っていうか、服になんのこだわりもない人みたいに見えるんです。
西山:ちょっとナード感があるよね。
長谷川:ありますよね。
西山:あと、大体の半袖シャツって、袖幅が狭い気がする。
長谷川:たしかに。アロハシャツとかも、また違う難しさがありますね。あと、ホンコンシャツっていう呼び方もありますよね。
西山:あるある。
長谷川:服飾用語辞典にも書いてあるんですが、半袖シャツって香港の人が着ているイメージがあるんでしょうね。けど、ウォン・カーウァイの映画みたいなイメージで着れればかっこいいのかもしれないけど、普通に着ちゃうとちょっと難しいのかもしれないです。
西山:そうだね。と言いつつ、一番初めのシーズンからあるんだけど。しかも結構なボリュームで(笑)。
長谷川:それってなんでなんですか?
西山:当初〈ディセンダント〉のインスピレーションって、マイアミの、それもヨットハーバーとかにいそうなリタイアしたおじさんだったんだよね。ツイルのツータックのショーツに半袖のシャツをタックインして、レザーブレードの伸びるベルトをして、〈ニューバランス〉を履いてダッドキャップをかぶって、みたいな。
西山:半袖シャツってさ、よく、アトラクションとかにいる人が着てるじゃない。
長谷川:あぁ、わかります。
西山:ジャングルクルーズみたいな。それがTシャツになるとすごくカジュアルになるけど、そこはシャツっていう。清楚なんだけど長袖じゃないからカジュアルだし、好印象。あとはUPS(ユナイテッド・パーセル・サービス)とかFedExの人たちも良い感じ。いいよね。
長谷川:かっこいいですよね。
西山:ね。ツイルのシャツに〈ディッキーズ〉履いて。
長谷川:茶色い運送会社ってUPSでしたっけ? あれはいつ見てもかっこいいですよね。
西山:ドアがない車に乗ってるんだよね。で、〈ティンバーランド〉みたいなブーツ履いてて。
長谷川:その感じがいいなと思って、そういう色でワークウェアを着てみたことあるんです。でも、そうしたら本当にそっちの人みたいになっちゃったんですよね(笑)。
西山:そうそう。けど、身体の大きい人が、大きいシャツを大きめに着る感じがかっこいいなって思うんだよね。
長谷川:今回は3(Lサイズ)を着せてます。とにかくサイズが大きければいいってわけじゃないんですけど、なんていうんですかね、、サイズが合ってないから面白いんですよね。海外、とくにLAに行くと、いつもなんでもない白Tとかワークパンツとかを買うんですけど、それもジャストサイズを買うつもりはないんです。バカみたいにデカい服を買って着てみたらどうなるんだろうって。で、実際着てみたら、全然違うものになってて。それが面白いんです。
西山:なるほどね。
長谷川:そういう見え方になるといいなって思って作りました。そういう楽しさというか。
西山:今回のカタログでも、大人だけじゃなくて子供に着せたりしてくれたもんね。
長谷川:おじさんも着て、若い子も着て、みたいなほうがリアルかなって思うんです。今回同じサイズを着てもらいましたけど、サイズなんてあってないようなものなんだっていうか。
西山:なるほどね。
長谷川:あとは半袖シャツの下にロンTを着るのもいいのかなって。夏だけしか着れないっていうのもなんだかあれだし、シャツを一枚で着るのもちょっと抵抗があるだろうし。ロンTを下に着れば、もうちょっと長く着れますしね。けど最近、あったかい日はすごくあったかいから、もう着られるんじゃないですかね。
西山:僕は寒がりだから、まだサーマルとか着ちゃうけどね。
長谷川:サーマルもいいですよね。
西山:そういえばこういうレイヤードって最近あんまり見ないよね。
長谷川:たしかに。〈ディセンダント〉では、レイヤードのTシャツ作ってますよね。
西山:うん、TシャツとロンTが合体してるやつね。
長谷川:僕はいつも、サーマルとTシャツそれぞれ単体を重ねて着ているんです。サーマルってそうやって着るものだと思ってましたし、その逆はありえないって。でも、サーマルをどう着ればいいかわかんないって人、きっといっぱいいるんだろうなって気がしました、あれを見たときに。そういう人にはあれがあれば一発ですよね。首元から出すぎてしまうこととかを気にしなくていいし。それに洗濯も楽でいい。
西山:そうだね。けどこれって、80~90年代では定番の着方というか。
長谷川:そうですね。サーマルはこう着るみたいな感じでしたね。
長谷川:あと、半袖シャツはやっぱりショーツに合わせるのがいいんじゃないですかね。これはウエストがゴムのチノショーツみたいなやつですけど。
西山:この子、身長どれくらいなの?
長谷川:180センチくらいはあると思います。
西山:あ、本当。全然普通に着れてるね。
長谷川:ちょっとテーパードしたパンツか、ショーツを合わせるのがいいと思います。だから本当、ビースティ(ボーイズ)ですよね。
西山:あぁ、そういう感じもあるかもね。
長谷川:ビースティが身につけてたアイテムって、いまみてもすごくベーシックなものじゃないですか。〈ベンデイビス〉とか〈ディッキーズ〉とか〈クラークス〉とか、〈アディダス〉の「キャンパス」とか。
西山:あと、あれも履いてるよね、スノーブーツの、、〈ソレル〉とか。
長谷川:彼らはどういうつもりで着てたんですかね。
西山:アダム・ヤウク=MCAがわりとメンバーを引っ張ってって。当時、そのMCAがスノーボードにハマってたからじゃないかな。
長谷川:今回はショーツだけじゃなくて、シャツも全部洗ったものを着せています。洗ってないと変にシャキッとしちゃって、すごく着せられた感が出ちゃうんです。
西山:うん、わかる。
長谷川:スチームをかけるときに大事なのは全部綺麗にしないことなんです。たたみじわだけが取れればよくて、全部がまんべんなくツルっとしてくると、なんか良く見えないというか。おそらく光が生地に反射したときに、洗ってあると凹凸が出るんですよね。だから自然なシワはわざと残しておくんです。とくにデジカメの写真ってツルっとしてるから、アイテムがツルっとしてると、シャツの存在感が伝わってこないというか。
西山:なるほどね。
長谷川:だから最近は洗っちゃうか、霧吹きでバッて適当に処理しています。綺麗にすればするほど、色気がなくなっていくというか。
西山:そうかもね。
長谷川:綺麗すぎてもいやだし、汚すぎてもいやだし、そこのさじ加減というのは、いつの間にか身についた自分の好みというか、感覚だと思うんです。
西山:そういうのあるよね。Tシャツとかもさ、昔ってハンガーにかけて干してたでしょ。そうするとそのまま乾くから、首が立ってきちゃうんだよね。今そういう人いないなぁ。
長谷川:僕はほとんど乾燥機なんです。だからつねに首回りはキュッとしてて。昔のって伸びる傾向にありますよね。
西山:そうだね。広がって立つというか。実家感が出る(笑)。
長谷川:アメリカの服がものすごいでかいのって、あれって乾燥機をかける前提ですよね。
西山:そうだね。極悪に縮むやつね(笑)。
長谷川:LAに行くと、なんかなんでもない服を買いたくなるんですよ。〈ベンデイビス〉とかそういう感じのを。
西山:わかる。
長谷川:本当にいつも買ってて。でも、帰ってきて着るかっていうと着ないんです。あれなんなんですかね。
西山:なんだろうね。けどなんか売ってる様子もいいんだよね。雑に積んである感じというか。
長谷川:はい。あとヴェニスビーチのスケートパークに行くと、ベテランのスケーターは本当にシンプルな格好をしてて。〈ディッキーズ〉に〈ヴァンズ〉に白Tみたいな。それがすごくカッコよく見えるんですよね。
西山:うん、わかる。超シンプルだよね。
長谷川:ああいうのを見ると、ついつい買っちゃうんですよね。〈プロクラブ〉とかその類いのTシャツとか。でっかい倉庫でたしか1、2ドルくらいから売ってるんです。
西山:へー、行ったことない。
長谷川:それがなんかゾクゾクするんですよね(笑)。街なかにポツポツある、ワークウェアとかミリタリーウェアを売ってるようなお店にも毎回行くんです。ブランド物があるような店とか、まず行かないですね。
西山:そういうお店って日本にないよね。成り立たないのかな。
長谷川:そもそもこういうシャツが日本にあんまり売ってないですよね。
西山:そうかもね。
長谷川:「ハイ!スタンダード 」がたまに仕入れてるかなぐらいで。ああいうアメカジ屋が、今あんまりないですよね。
長谷川:このハーフジップのワークシャツの色は、どんな風に決めてるんですか?
西山:ビースティボーイズの〈アディダス〉「キャンパス」の色かなぁ。
長谷川:なるほど。
西山:バーガンディーとかブルーとか。
長谷川:このブルーはなんていうんですかね。
西山:なんだろうね。ちょっとグレーがかってる、ブルーグレーというか。〈ディッキーズ〉とかにもきっとあるような色だよね。
長谷川:バーガンディーもいいですよね。いつも気になっちゃうんです。
西山:いい色なんだけど、市民権を得ないよね。
長谷川:そうなんですよ。ついこないだ、まさにこの撮影の日に「プロップスストア」でバーガンディーの(ニューバランスの)「991.5」を買ったんです。なんか気になっちゃうんですよね。さほど履かないんだけど、バーガンディって何故か買いたくなるっていう。
西山:わかる。あるよね、その感じ。
長谷川:「キャンパス」にもバーガンディーありましたよね。
西山:うん。不思議な色だよね。おじさんっぽい。
長谷川:モスグリーンとかもそうですけど、サイドディッシュというか、メインじゃない色なんですよね。
西山:季節とか気候によって着たくなる色、着なくなる色ってあるよね。ずっとカリフォルニアにたら、全然変わらないのかもしれないけど。
このショーツも撮影前に一回洗ったんですけど、すごくいい感じでした。洗濯機から出した瞬間に只者ではない感じが出てましたね。本物の軍パンっていう感じなんですよね。
西山:あ、ホント?
長谷川:やっぱりポケットの感じですね。軍パンを興味がない人が作ると、もっとペタッとしてます。ポケットももっと小さかったり。ここの存在感がないと、軍パンの面白さってなくなっちゃうんですよね。
西山:けっこう悩ましいのが、洗って仕上げるか、洗わないで仕上げるのかっていうことなんだよね。例えばさっき話してたアーミー・ネイビーのアイテムが売ってるようなお店で、洗ってなくてカチカチのパンツが積まれてる方が、なんか魅力的に見えちゃったり。
長谷川:あー、それすごいわかります。
西山:糊付けされたまま積まれてる方がいいんだよね。
長谷川:糊がついてペラっとしてて、サイズ表記のステッカーが貼ってある感じ。いざ着るときは味が出て欲しいんですけど、売ってるときに味が出てるとあんまり欲しいと思わないんですよね。
西山:そうなんだよね。昔〈RRL〉が出てきたときにすごく新鮮だったんだよね、あぁこんな古着みたいな加工するんだっていう。でも、今は逆の方がいいかなと思ってたり。ただ、着るっていうことは、絶対に洗ってあるってことだからね。
長谷川:洗ったあとに、アメリカンコットン特有の感じというか、ちょっとゴワゴワした感じがいいんですよね。
西山:そうそう、ちょっと毛羽立った感じ。
長谷川:それが初めからそうなってるといやなんですよね。
西山:それって服とか生地をずっと触ってる人、特有の偏った愛情なんだろうから、普通の人から見たらまた違うんだろうけど。結局アメリカなんだよね。刷り込まれてるというか。