PROFILE
〈グラフペーパー(Graphpaper)〉、〈フレッシュサービス(FreshService)〉、「ヒビヤ セントラル マーケット」など、様々なブランド、ショップを手がけ、ファッション、カルチャーにまつわるあらゆる領域を手がけるクリエイティブディレクター。「alpha.co.ltd」代表。
ファッションディレクター、スタイリスト。様々な媒体、広告のディレクションを手がけるなか、英国の雑誌『モノクル(MONOCLE)』では創刊よりファッションページの基礎を構築。2015年にはファッションディレクターに。2012年より2018年秋までは『ポパイ』のファッションディレクターを務めた。
長谷川さんの「普通」のものを
ご紹介している前編はこちらから。
MARGARET HOWELL
長谷川:じゃあ次は南くんの「普通」を教えてもらおうかな。
南:俺は白いシャツを色々持ってきました。まずは〈マーガレット・ハウエル(MARGARET HOWELL)〉。もうなくなっちゃったんだけど、伊勢丹にビッグサイズ専門のお店があって、そこに〈マーガレット・ハウエル〉のお店があったのよ。そこで4XLのシャツとか買ってた。
長谷川:もうないんだ。
南:そう。俺は顧客だったんだけどね。なんてことないレギュラーカラーのシャツなんですが、これでサイズは3L。普通の〈マーガレット・ハウエル〉のお店には置いてないんだけど、これがマイ定番です。
長谷川:これくらい大きいのがいいね。
南:襟が小さくて、おれの好みなんだよね。〈マーガレット・ハウエル〉のシャツって。
長谷川:生地もいいね。
南:そう。縫製もドレス仕様になってます。
COMME des
GARÇONS SHIRT
南:次は〈コム デ ギャルソン・シャツ(COMME des GARÇONS SHIRT) 〉。パリの展示会に行ったときにオーダーしたものです。というのも、このシャツ昔は展開されてたんだけど、今はお店では売ってないんです。だからわざわざオーダーしました。
長谷川:サイズ、“X”って書いてあるね。かっこいい。
南:20歳くらいのときにこればっかり着てました。
長谷川:特注とかではなく、当時は普通に買えたってことなの?
南:そう。で、これだけ昔のパターンのままなんだよね。ボックスシルエット。
長谷川:フランス製なんだね。
南:〈コム デ ギャルソン・シャツ〉は全部フランス製だね。さっきのシャツと一緒だけど襟が小さくて、ボックスシルエットで、ドレス縫製っていう。洗いざらしで着られるシャツです。
長谷川:やっぱり白がいいの?
南:色のついたシャツも着るんだけど、やっぱり「普通」っていうテーマだったから白かなと。昔〈コム デ ギャルソン〉、めちゃくちゃ買ってたな。そのときの店員さんがものすごく変態でさ。服にめちゃくちゃ詳しくて。
長谷川:店員さんの影響ってあるよね。
南:けどあるとき気づいたんだよね。お客さんで大人のひとがたくさん来てて、そのひとたちが〈コム デ ギャルソン〉を着てて、それが超かっこよくてさ。これは若い子が着る服じゃないなって思ってやめたの。
長谷川:わかる。
南:白髪のおじさんとかが着るからかっこいいんだなって。
長谷川:そうだね。でも20歳くらいでそのことがよくわかったね。靴下左右違うの履いたりするデイヴィッド・ホックニーとかもかっこいいじゃん。けど、〈.....RESEARCH〉の小林さんも言ってたけど、あれは年寄りだからかっこいんだって。若い子がやるとがんばりすぎてて気持ちが悪いって。
Graphpaper
南:次は手前味噌系です。というか、自分の服も入っていいよね?
長谷川:もちろん。
南:〈グラフペーパー(Graphpaper)〉のシャツ。身幅がけっこう広くて、ヨークも下がってるという形。ポケットも大きくて、全体的に下に下がってる。あと襟芯がない。ないというか、水溶性なので洗うと溶けるんだよね。
長谷川:へー。
南:だから形成は取れるんだけど、洗うといい感じにくしゃっとなってくる。
長谷川:最初から襟芯がないのと、溶けて無くなっちゃうのではやっぱり違うんだね。
南:違う。ちょっとしっかりするのよ。その具合が好きで。
Graphpaper × L'ECHOPPE
南:次は「レショップ(L'ECHOPPE)」の金子さんと作ったシャツ。これは昔の〈シャルべ(Charvet)〉のシャツを参考にしてます。これは逆に襟芯を入れました。身幅が大きくて、後ろのヨークの端にタックを入れてます。あとは裾がフラット。
長谷川:ほんとだ。あとポケットがないね。よりドレスシャツっぽい感じ。襟も大きくしてるの?
南:そうだね。少し〈シャルべ〉っぽく大きくしてある。ネックサイズもわざとすごく大きくしてます。誰でも着れるように。
長谷川:いいね、このでかいの。
南:これはサイズで悩まないようにワンサイズです。シャツで大事なのって肩の傾斜なの。上がってるか、下がってるかがすごく重要。このシャツはワンサイズなんだけど、痩せてるひとでも綺麗に落ちるような角度、黄金比があるんです。このシャツはその法則でつくってます。タックインでもアウトでもいけるよ。
長谷川:なんか〈ヨウジヤマモト(Yohji Yamamoto)〉のシャツで、こんな感じのあった気がするなぁ。
南:あぁ、あったかもね。ちなみにこのシャツ、ありがたいことに即完しまして、現在第二弾を企画中です。
Graphpaper
南:〈グラフペーパー〉のパックT。吊り編み機で編んでるんだけど、それを限界まで度詰めしてます。
長谷川:けど、あれってゆるく編んでるのがいいわけでしょ?
南:そう。本当はそうなんだけど、俺はフワッとゆるくなってるのはあんまり好きじゃなくて。けど吊編みの雰囲気は好きなの。ちょっとシボシボっていう感じ。糸はそんなに上質なものを使ってるわけじゃないんだけど、編み方と詰め方でこれだけのものができるっていう。これ、自分で“世紀の発明”って呼んでます。
長谷川:手触りが気持ちいいね。
南:ネックがぎゅうぎゅうに詰まってます。とにかく詰まってるのが好きだから、ネック寸はおおげさじゃなくて、20回くらいやり直しました。あとはタコバインダー(注:左右両肩ラインから首後ろまで、主に身頃生地と同じ素材で、テープ処理をすること)がちょっと細い。普通はもっと太いんだけど、1mm違うだけでモダンに見えるの。
長谷川:たしかにそうかもね。
南:とにかくここが綺麗に縫えるところじゃないとダメで、それが国内に1社しかないので、いまパンク中です。
長谷川:ネックがすごくしっかりしてるね。Tシャツってこんな感じだっけ? 〈ヘインズ(hanes)〉はもっとくたっとしてるよね?
南:俺はあれだめなのよ。ニットとか着たときに上から少し出るくらいがいい。
長谷川:わかるわかる。襟元がよれっとしてると、なんか不安になってくるよね。
南:これは定番だから、お店から切らしたくないんだけど、吊編みをさらに度詰めしてるから、つくるのにすごく時間かかるんだよね。ちなみに2枚パックで14000円です。
長谷川:けっこうするね。
南:って思うじゃない? これ全然儲かってないよ。生地が高すぎて。利益出そうとしたら、もっと高くなっちゃう。
長谷川:そっか。さっき俺が紹介したイチゴサンドも一個600円するよ。
南:でしょ? いいものは高いんですよ。
長谷川:そうだね。
南:あとはこの外側のビニールにもかなりこだわってまして。いわゆる〈ギルダン(GILDAN)〉とかのパックTって、ふにゃふにゃしてるビニールに入ってるの。けど、これをつくれるところが全然なくて。6社くらいにサンプルをつくってもらったんだけど、なんか違うなって。そしたら中国にこの感じのをつくれるところがあってさ。でも、ロットが20000枚。もうリスクしかないよね。
長谷川:20000枚ってすごいね。
南:やばいよね。けど、もうその20000枚はなくなりそうだよ。ビニールなんてバリっと破られたら捨てちゃうものなんだけど、これじゃなきゃいやなんだよね。
RED WING
南:最後は〈レッド・ウィング(RED WING)〉のアイリッシュセッター。
長谷川:これはなんか違うの?
南:サンフランシスコの「ユニオンメイド(UNION MADE)」で買ったやつ。普通のアイリッシュセッターではあるんだけど、革の質とか文字の入れ方が全然違うんだよね。
長谷川:アイリッシュセッターいいよね。あとペコスとかさ。
南:昔、アイリッシュセッターの別注をオファーしたんだけどできなくて。未だにすごくやりたいんだよね。
南:最初はこんな感じでいいのかな? 今後はどういうことを話していくの?
長谷川:普通であればなんでもいいよ。普通の不動産とか(笑)。
南:あ、そーなの?
長谷川:「普通」について語り合う場だから。
南:俺も「1LDK」のときから普通、普通って言ってきたけど、結局普通ってひとの数ほどあるからさ。普通の定義って本当に難しい。普通が実は一番普通じゃないんじゃないのって思い始めてきた。
長谷川:だからそれを定義するのが大事なんだよ。
南:おれにとっては普通だけど、ある人にとっては普通じゃないなんてザラにあるしね。
長谷川:でも、みんなにとってちょうどいいものを追求していくとつまらないものになっちゃうよね。だから、これが普通なんだ、これでいいんだっていうものを誰かにオススメしてほしいって、みんな思ってるんじゃないかって。
南:それはあるかもね。
長谷川:みんな他人の普通を知りたいでしょ。これが普通かどうかが不安なんだよ。いま面白いお店はたいてい自分たちにとっての普通を定義できてるところが多いよね。つまらないお店はそれができてない。普通がなんなのか、わからなくなってきてる。
南:普通っていうか、これが好きとか、これが好みだっていうのがないところが多すぎて、いったい何がしたいんだっていうね。お店とかブランドやるひとは、これが俺たちにとって普通というか、好きだっていうものがないとね。
長谷川:俺はアメカジの影響をすごく受けてるのね。高校生のときに『ポパイ』を見てたら「これがスタンダードだ!」って書いてあったの。このスタンダードの根拠はなんなんだろう?ってずっと思ってて。で、あるとき気づいたんだけど『ポパイ』って、アメリカに影響された雑誌だったなって。だから『ポパイ』におけるスタンダードはアメリカ。日本は戦後、アメリカから強い影響を受けているから、ベーシックなものにはどうしてもアメリカものが入ってくるよね。
南:そうかもね。俺はアメリカものも好きだし、フランスものも好き。そういう国に対してのこだわりはないね。そもそも〈グラフペーパー〉だって、モードでもストリートでもないし、アメカジでもないしフレンチでもないし。一通り服を着てきたひとが、もう着るものないなってときに手に取ってくれる服でありたいなって。
長谷川:そういうのいいよね。結局服なんてさ、同じものばかり着るわけじゃない。だからそういうお気に入りをどれだけ見つけられるかっていうね。
南:服ってさ、気に入ったものがあっても、次のシーズンになかったりするじゃない。それがすごくいやでさ。だから〈グラフペーパー〉では同じものを作り続けようと思ってる。
長谷川:それはすごくいいね。